例えば、こんな恋の始まり。
※前作なしでも一応内容は成立してるはず。
男女両視点あります。
→side:凌司
「──やっぱり、いたわね!」
人の顔を見るなり、どや顔で嘲笑うヤツが1人。
「……何でてめーがここにいんだよ?」
「さあねー?」
セーラー服の短いスカートの裾から伸びる、真っ白い生足。それを隠すでもなく、健康的に惜し気もなく披露し。同級生である、アメリカからの留学生――と言っても半分日本人だという美田園栞菜が目の前に現れた。
そういえば、こいつは一応美少女という部類に入るんだったな。――それを思い出したのは、今日のカンナがやけに気合いの入った制服の着こなしで、濃すぎないナチュラルメイクまで施しているからだ。
普段はスカートの下には短パンを装着し、男の俺と手合わせと言う名の喧嘩を繰り広げている。動きやすさ重視の格好、がデフォルト。そうしていれば、なる程、確かに美少女と認めざるを得ない。
「ふっふーん。今、カンナさまのバッチリ美少女っぷりに見蕩れてたんでしょ!?」
「自分で言うな。台無しだろうが。あと、どうせなら大股開いて仁王立ちは止めとけ。美少女っぷりとやらも半減するぞ」
「シャラーッブ! 喧しいわ! って……認めたわね!? 普段とは違う姿でギャップ萌え作戦、大成功~っ!」
やったぜー! とパンツが見えそうなくらい飛び上がる姿は、ガッカリ美少女と言えなくもないのだが。正直に口に出すと今度は痛い目に遇いそうなので黙っておくことにする。
……にしても、今度はギャップ萌え作戦かよ。よくもまあ、飽きないで続くもんだ。
「うっかりヒトメボレなんかしてしまったのが悔しいから、俺にも惚れさせてみせる――だっけ? なぁ、それ無理だから、いい加減止めてくんねぇ?」
「ムリかどうかなんて、やってみなきゃ分かんないでしょ? 現に、今だって私の魅力にメロメロだったじゃん!」
「待て待て、捏造すんな。誰がメロメロだ! そういや、お前は見てくれだけはいい方だったな、って思い出してただけだっつーの」
俺とカンナの関係性、というものを。ここで説明しておいた方がいいだろうか?
俺――香坂凌司は、高校2年生。1年の時に、隣のクラスに留学生がいる、と聞いてはいたが接点がないまま2年になり、同じクラスになってカンナの方が一目惚れだと言って猛烈にアタックをしてきた。
恐るべし、アメリカ人(半分)の遺伝子。あまりにもストレート過ぎて、周りもドン引くレベルなのだ。かれこれ、そんな一方的な鬼ごっこ状態が3ヶ月近くも続いているのだから驚きだ。
「大体、てめーは本気で俺が好きな訳でもねーだろ。一目惚れほど、信用できねぇもんはない」
「ふんっ。何を今更! 私をその辺の黄色い歓声上げてる女共と一緒にしないでよね!」
「……してねーじゃん。少なくとも、あの面倒くせぇ雌豚共とは違うだろ、お前は」
自慢する訳ではないが、俺の顔面偏差値はかなり高いらしく。中学の頃や、高校に入りたての頃は。来る者拒まずな感じで、告られてつき合っては合わなくて別れる、の繰り返しだった。
以来、女なんかどうでもよくなったというか。……ぶっちゃけ煩わしくて仕方なかったのだ。多分、本気で好きになった相手なんていなかったから、恋愛という本質すら見失ってしまっているんだと思う。
「──りょーじ?」
「んぁ?」
ほんやり考えていたら、不意打ちでカンナのドアップが下から俺を覗き込んでいた。
「何してんの。カンナさん」
「えーと、上目遣いってツボに来るってリサーチを元に行動に移してみましたー!」
俺より一回り小さいカンナが、至近距離から上目遣いで……って。あー、こいつ空みてぇな色の瞳してんだな。吸い込まれそうじゃねーか。
「だからって男の股間に座り込むな。誘惑する前に、恥じらいぐらい持っとけ」
「むぅ~。だって、なかなか堕ちないんだもん。恥じらいなんて捨てるわ!」
確かにちっとはグラついたっていうか、何というか男の本能だから仕方ないというか。
「なァ、カンナ」
「な、何よ?」
「もし、俺がお前に惚れた、つったら……その後どうするつもりなんだよ?」
ずっと疑問に思っていたことを、本人にぶつけてみる。だって、なぁ。堕とされたら、それでジ・エンドって俺に何の得もないではないか。
「その後……?」
カンナはといえば。俺の言葉を聴くなり、鳩が豆鉄砲を食らったような顔になって固まってしまった。何だ、こいつも考えてなかったのかよ。
「ど、どうしてくれんのよ!?」
「……はぁ?」
「あ、あんたが私にスキとかカノジョとか言ってる姿、妄想してしまったじゃない! 考えないようにしてたのに、このドS変態ドスケベアホンダラ!!」
「何だそりゃ……」
あ、しまった。
心構えもなく、次の瞬間、俺は直視してしまうことになる。
──無条件に、可愛い、と叫びそうなくらい顔を真っ赤にして恥じらう乙女全開なカンナの姿を。
「やだ……こっち見ないでっっ」
何だ、この可愛い生き物。何処に隠してやがった、この女。やべぇ……こっちまで顔が赤くなってくる。
「ホントはっ。今日、りょーじの誕生日だから、おめでとうって言いたいだけだったのに……プレゼントとか、お金ないから、可愛くなった私を見せてあわよくばデートとか出来れば、なんて……」
赤面のまま座り込んでしまったカンナを、力いっぱい抱きしめたいと思っている自分に気づく。
あー、コレ、カンナの勝ちかもしんない。多分、俺、堕とされたな――。
そう告げたら、この可愛いオンナノコは、一体どんな表情を俺に見せてくれるのだろうか? それが、笑顔なら一番嬉しいのだけれど。素直じゃないから、まずは怒鳴ってみせるのかもしれない。
それもまぁ、悪くないと思うのだ。――ほら、完全に堕ちちまってるよな?
*例えば、こんな恋の始まり*
→side:栞菜
悔しいから、惚れさせたいって言ったのは嘘じゃない。でも、その裏には。どうしようもなく好きだから、っていう本音が隠れてる。
気づいて欲しいけど、まだ知らないままでじゃれ合っていたい気持ちも併せ持っているんだ。
凌司が、自分の誕生日なのに、パーティーを開こうとしてくれた友人たちの好意を断ったと聞いたのは昨日のこと。(親友のアンリ経由)誕生日当日は学校が休みだから、どうやって凌司に直接お祝いの言葉を告げようか悩んでいた私には、少しだけ朗報だった。居場所さえ分かれば、いつものように突撃あるのみだから。
そうして、独り暮らしの凌司の家まで押しかけてみたら居なくて。――足が向いたのは、休日で誰もいない、学校の剣道場だった。
凌司に一目惚れしたのが、この剣道場。胴着を着てないけど、竹刀も手にしてはいないけど。凛とした背筋を伸ばすその姿が、ただただ美しかった。カッコいい、なんて軽い言葉じゃ表せない。人として、どうしようもなく魅了された。
今日も、あの日みたいに、真っ直ぐに佇んでいて――。
彼の表面ばかりを好きになり、離れていったという過去の凌司の彼女たちはハッキリ言ってバカだ。彼の何処を見ていたというの。勝手に理想を押しつけて、傷つけていたのは彼女たちの方ではないか。
私は、ドSで女を雌豚よわばりする凌司もひっくるめて、私の全部で全部が好きなのだ。
今はまだ、私を好きになってくれなくても構わない。ただ、他の子を見ないで私だけを見て欲しくて。馬鹿な行動と知りつつも、この3ヶ月無謀なアタックを繰り返してきた。
ああ、でも。こんなはずではなかったのだ。醜態を晒して、恥ずかしすぎて直視どころか前も見れない!
「──カンナ」
「うぅ……今はそっとしといて。ほっといて。こっち見んな。半径1メートル入んないで」
「や、それ無理。既に至近距離だから」
「……んじゃ、もう帰るっ。失礼しました!」
「いやいや。言い逃げすんな、コラ。それに、まだ貰ってねぇし。祝いの言葉」
「ふぇ……お、めでとう?」
「──何で疑問系? まあ、いっか。じゃあさ、プレゼントないって言ってたじゃん。だったらさ、カンナを俺にくんねェ?」
――こんな恋の始まりも、ありですか?