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第9話 宣戦布告

目が覚めると見知らぬ天井と、右手側に心配そうな表情を浮かべたソフィネがいた。


「よかった……目を覚ましてくれて……」


泣きながら俺の胸に抱きついてきた。

どのくらい経ったのだろう?ここはどこなのだろう?


「心配をかけたみたいだね」


まずは一言謝り、俺の胸で泣くソフィネの頭を撫でた。


「すまないが、ちょっとその……傷口が痛むんだ。少しだけ上に移動してもらえるかな?」


ソフィネは慌てて起き上がり、涙を拭った。


「ごごごめんなさい!大丈夫?」


「あぁ、ありがとう。それよりここは?」


ソフィネに説明を求めた。


「リュッセルが突然道の真ん中で倒れて、治療所まで運ばれたって、先ほど知らせが入ったのよ。慌てて治療所に向かったら少ししてあなたが目を覚ましたのよ」


なるほど、ここは治療所か。

傷口に目をやる。腹に力が入り傷口に痛みが走った。


「無理はしないで。治療魔法で措置はしているけど重傷よ。しばらくは入院が必要そうなの」


なるほど。状況を把握してきた。


「リュッセル、一体誰にこんな酷いことをされたの?心当たりはあるの?」


「朝からソフィネに話したと思うけど、僕は販売予定の煙瓶の材料を買いに道具屋に向かっていてね。そこでフードをかぶった男に刺されたんだ。

彼は耳元で『フラン達の仇だ』みたいな事を言ってたんだ」


「恐らくだが、前に森で僕達に因縁をつけてきた男の生き残りだと思うんだ。バリスと言うらしい。そのバリスが最近失踪してるって冒険者ギルドで話を聞いていたしね」



心配そうに俺を見つめるソフィネの膝に置かれた手を

俺は握って話を続けた。


「だから一刻も早くここを出よう」


「で、出ようって、ケガはどうするのよ?」



俺はベッド横にある俺の荷物を見ながら言った。


「僕のバッグを取ってくれないかい?」


ソフィネは素直に聞いてくれたが、「俺のケガを心配していて、まずは治療に専念すべきだ」という主旨の事を話していたが、俺は聞き流しながら痛みに耐えながらバッグの中をガサゴソと探した。


「ソフィネ、僕はね、自分で言うのもなんだけど合成師としてはずば抜けた才能を持っていると思うんだ。ソフィネも何度か見たと思うけど、生物を合成の材料にするなんて本来誰にも出来ないんだよ」


ソフィネをチラリと見てからバッグの中から瓶を出した。


「治療所の治療なんて僕の煙瓶の効果かそれ以下でしかないんだよ。僕には自分の、合成師としての腕がある」


瓶から取り出したのはフランの肉片だ。

頭部は先日義父に使ったので残っているのはフランだったものの一部だが、もはやどこの肉かまでは判断できない。


俺は右手に肉片を、左手を自分の腹の傷口に当て、合成をした。

傷口と肉片が合成し、傷口が完全に塞がった。


ただ、傷口は塞がったが傷口が痛い。

指を切断した人がたまに切断された部分の感覚があるって錯覚をするらしい。

俺もそういう現象が起きてるんだろうか?


とりあえず痛み止めの煙瓶も振りかけながらソフィネに言った。



「さっきの話の続きなんだけどね……」


俺は痛み止めが利き始めるのを待った。


「バリスは俺を殺し損ねた。だから多分、また俺を襲ってくると思うんだ」


ソフィネを安心させるようにゆっくりと説明する。


「さすがに治療所は人も多いから襲っては来ないかもしれないね。ただ、ここで回復を待って、何の準備も出来ないまま帰宅したら今度こそバリスに襲われてしまうと思うんだ。そもそも僕は戦闘が得意じゃないしね。準備もしないまま戦って勝てる気がしないよ」


逆にソフィネを不安にさせてしまったようだ。


「だから、一刻も早くここを出よう!」


「出るって、どこか逃げる当てがあるの?」


「逃げる?僕は逃げるつもりはないよ」



ソフィネが不思議そうにこちらを見た。


「バリスは、まさか僕が腹を刺されたばかりなのに、入院もせずに自宅に戻るなんて思ってもみないはず。いずれ気づかれるだろうけど、次に襲って来られた時にこちらも十分な準備期間が欲しいんだ」


そう言いながら俺はベッドから起き上がった。

痛み止めも効いているようだ。


「それにほら、もう傷も無い。入院費がもったいないだろう?あと、何よりソフィネのご飯が食べられないのは嫌だね」


ソフィネが用意してきてくれた洋服に着替えながら話した。


「そういえば僕は今、バリスを始末する前提で話をしてるけど、ソフィネは問題ないかい?」


「私はリュッセルを傷付けるやつを許さないわ。あの時もそう、話を聞かない彼らの自業自得よ」


ソフィネはなかなかたくましいな。まさかのゴーサインが出た。


「ありがとう。じゃあ、説明は後ほどするよ。僕は準備しておきたいものを思い出したんだ。ソフィネには申し訳ないけど、ここの治療所の退院の手続きをしておいてもらえるかい?」


「ええ、わかったわ。気をつけてね」


「ありがとう。準備が終わり次第家に帰るよ。今日はこの前作ってくれた野菜のスープが食べたいな」



そう言って俺は寄るところを思い出した。

あまり町をうろつくのも危険なのですぐさま帰宅した。





翌朝、俺とソフィネは義父の店の手伝いをした。


店は俺達が採ってきたエンキの実が大量に並べられていた。

他店よりも断然安いという事で客も多く、かなり賑わっていた。



ソフィネは裏で作業をし、俺は義父と共に店頭に立って仕事をした。

俺の予想通り、義父はお得意様に何度も自慢するように紹介してくれた。


これだけ義父が俺の存在を宣伝してくれたんだ。

いくらバリスが誰にも見つからず潜伏していてもヤツの耳に入るのも時間の問題だろう。

治療所の件もあるだろうしな。



このままバリスがいつ襲ってくるのか分からずに、常に気を張って体力的にも精神的にも疲弊していくのは得策とは思えなかった。


だから、あえてバリスに俺の存在を教える。

バリスもバリスで、俺に準備期間を与えるより病み上がりの俺を始末した方がいいだろう。




受け取れ、これは俺からの宣戦布告だ。



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