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第8話 冒険者廃業

数日後、俺はまた冒険者ギルドに向かった。

ギルドの入口に入ると、比較的冒険者が多かった。

彼らはいくつかのグループを作り、そこで少しざわついているようだった。


するとその冒険者達をかき分けて一人の冒険者が近づいてきた。話した事は無いが見たことがある冒険者だな。

 

「おいあんた、フランのところの冒険者だろ?」


「こんにちは。どちらさまでしたっけ?」


「あぁ、すまなかった。俺は『深紅の雷撃』のルダンだ」


「はじめまして、今はリュッセルです」


「リュッセル、お前に聞きたい事があるんだが、お前はフランのと一緒のパーティーにいたよな?」


「ええ、いましたよ。それがどうかしましたか?」


「最近見かけないが、元気にしてるのか?」


またフランか。フランに関わる奴らはろくな奴がいないからな。


「フランは魔物に襲われて、同じパーティーのレイスと一緒に死にましたよ」


義父の太股の一部として元気にしてるが言わなくていいだろう。


「それでパーティーは解体しましたよ」


「なに?そうだったのか。フランがか……残念だな」


こいつはこの前のバリス達とは違って物わかりがいいな。


「しばらくはソロでやってましたが、本日は廃業手続きにきました」


「お前は見たところ戦士などではなさそうだし、ソロでやっていくには難しかろう」


「ええ、全くですよ」


「大変だったな……忙しいところすまんがもう一つ聞きたい。お前はバリス達の事を知らないか?」


「ん?いえ、特に親しかったわけではないので……」


「そうか。バリス達が最近フランの事で何かしらの問題を抱えていたらしくてな……」


ルダンがそう言ってから少し考えているようだった。


「ところでお前、リュッセルと言ったな。そうだ、思い出したぞ。先日森でバリス達がリュッセルという冒険者を探している、とみんなに居場所を聞いてまわっていたんだった」


なんだ、こいつは何が言いたいのだろうか。


「お前、先ほど親しくないと言っていたが、どういう関係なんだ?」


鋭い目つきでこちらを睨んでくる。


「心当たりは無いのか?どうなんだ?」


俺を中心に円を描く様に一定の距離を取りながら、ゆっくりと歩きつつ話しかけてくる。その間、俺から目を離す事はない。


嗅ぎ回られては非常に厄介だ。どうする?ここで始末してしまうか?だが、周りには他の冒険者がいる。

さすがにこれだけの人数を相手だと勝ち目はないだろう。どうする?どこかに連れて行って始末するか?だが、俺といた後に消えたと思われるのもマズい。



「バリスを最後に見かけた奴がいてな。その時バリスは一人だったらしい」


ルダンは俺の背中側まで周りこみ、折り返してまた自分のいたところへ戻ってきながら話した。



「お前を探しているという事だったらしいから、もし会ったなら『みんなが心配している』と伝えておいてくれ」


「ええ。森では会ってませんからね。もし見かけたら伝えておきますよ」


「すまないな、引き止めて」


「いえいえ。困った時はお互い様ですよ」


ルダンは一歩左に避けて道を譲った。

俺はルダンの横を通り受付所へ向かった。





受付所で前回同様に受付の男に話しかけた。

俺の顔を見て青ざめたようだが、ちゃんと対応した。


「こんにちは、本日はどのようなご用件でしょうか?」


「冒険者の廃業手続きをしにきました」

  

なんとな持ち直して対応していた受付の男の表情が再び凍りついた。

また俺がパーティーの遺品を持ってきたとでも思ったのだろうか?



「今日は私自身の廃業の手続きをしたいと思いましてね」


その言葉で一気に気を取り直した受付の男が嬉々として対応してきた。


「かしこまりました。少々お待ちください」


受付の男が用意した用紙に記入していると、受付の男が話しかけてきた。


「こ、今回はどのような理由で廃業されるのでしょうか?」


こいつ、なかなかのしつこさだ。

前回同様世間話をしてきた。


「今お応えしても、どうせ後ほど同じ事をわざわざ書かされるのですよね?応える事に意味はありますかね?」


「い、いえ。全くございません」


また表情暗くなる。


「はぁ~」


俺はため息をついた。


「まぁ、いいですよ。廃業の理由は結婚です」


「ご結婚!?おめでとうございます!」


急にまた元気になった。

こんなに感情の起伏が激しくては生きていくのも大変そうだな。


俺はそんな事を考えながら書類を書き終え受付所を出た。


冒険者達は未だに何かを話し合っていた。

フランやバリス達の名前が聞こえてきたのでおそらく先ほど聞かれたような話でもしているんだろう。


また絡まれては面倒なので早めに退散する事にした。

冒険者達の中にルダンの姿は見あたらなかった。





手続きを済ませ、翌日からはさっそくソフィネと共に森に行きエンキの実の採取を行った。

まだまだ採取のシーズンだったし、これまでの分を取り戻すため、さらに俺に仕事を教えるという理由があった。

義父は店の片付けやら商品管理に忙しいらしかった。


冒険者を雇う人件費も不要で、魔物を警戒せずに仕事が出来、さらに二人で二人の持てる容量以上の採取ができたし、実質経費というのは魔除けの煙瓶2つとソフィネの作ってくれる食事、あとは二人(正確には義父の分)の人件費だった。


大量に安くで仕入れてきて、他店よりも安くで大量売る。


近所でも話題になり、瞬く間に業績は回復していった。

義父がみんなに「娘が優秀な男と結婚してくれたおかげだ」と言いふらしている、と照れくさそうにソフィネが話していた。


冒険者をしていた時と比べて全くストレスも無く、生活が出来た。


ソフィネは俺の家に移り住み、俺は夜からは自室に籠もり、商品として店に並べる予定の煙瓶の製作をすることにした。



そうして数日が経った。


ある日俺は煙瓶に必要な材料を仕入れに一人で雑貨屋に出かけた。

さっさと材料を仕入れ、日のあるうちにソフィネと森に出かけないとな。


そう考えながら人通りの多い道を歩いている時だった。

人ごみの中、こんな暖かい時期だというのに頭までフードを被った顔の見えない男とすれ違った。

すれ違った様に男がぼそりと呟いた。


「フランやグスタフ達の仇だ、サイコ野郎」


俺はすぐにすれ違った男の方を確認しようと振り向こうとしたが、それよりも先に自分の腹に刺さったナイフを見つめていた。



「はぁ~」


俺はため息を絞り出しながら道のど真ん中に倒れた。




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