第6話 分割の可能性
ソフィネの父親の脚から石化した部分を分解する……
俺では思いつかなかった発想だった。
ソフィネのおかげで俺は成長できる気がした。
まずは患部を確認してみるか。
太股全体を覆い尽くしており、裏側はまだ肉がある……と。
石化した表面は文字通り石だな。触れられても感覚は無いらしい。
この石化は表面だけなのだろうか?
それとも内側まで浸食しているのだろうか?
そこで太股の裏側を指で押してみることにした。
指で押すと、薄い肉を通して石の感覚があった。おそらく骨も石化しているだろう。
そもそも現在石化を免れている膝下はどうなんだろう?血色は良さそうだが、痛みを感じたりするのだろうか?
「膝下の感覚はありますか?」
膝下を触りながら確認した。
「ああ、これまで通り だ。感覚が鈍っ ったりするわけではないよ うだが。石化された部分だけが全く何も感じないのである」
俺が軽くつねったりくすぐったりしたせいか、父親は時々言葉を詰まらせながら応えた。
肉と石化部分の境目はどうなっているんだろう?
表面だけ見ると皮膚に石が覆い被さって張り付いているように見えるが、その下は融合しているのか?
膝下に感覚があるという事は石化部分に血管があるのか?とても不思議だ。
好奇心を抑えられずにナイフで切ってみたい衝動に駆られたが、さすがに依頼されたソフィネの前でするのはやめておこう。
もしソフィネが目を離してくれれば事故を装って石化との境界線にナイフで切り目を入れてみよう。
「ソフィネ様、今石化部分などを触らせていただき、いくつかわかった事があります」
「教えていただけますか?」
ソフィネは身を乗り出して聞く姿勢をとった。
「まず、石化は太股全体を浸食してますが、股裏は指一本程度の肉を残して全て石化しているようです」
コクコクとソフィネがうなずく。
「そして、先ほどお父上がおっしゃられていたので聞かれていたと思いますが、石化より先の膝下には血や神経がちゃんと通っているようです」
説明に合わせてソフィネは膝下に目をやった。
「という事は、血液はちゃんと循環しているということですよね?」
俺の説明にソフィネと父親がちゃんと理解しているのか頷くのを待ちつつゆっくりと説明していく。
「石化した部分の血管や神経はまだ生きているのか?
もしくは……
何か不思議な力により、石化した部分で一度血液や神経の伝達が変換されて、また膝下で血液や神経の伝達に再変換されているのか?」
「だとしたら、何が問題なのか?」
「私が仮に分解の力を使い、お父上と石を分離させたとした太股の部分には何が残るのでしょうね?」
二人が想像力を働かせているようなので答え合わせをしてやる。
「おそらくですが、
この石化は『肉体が石へと変質したもの』であって、
『肉体と石が合成されたもの』ではないということです」
「つまり……」
俺は一旦間を置いて、話を続けた。
「『肉体と石が合成されたもの』だったならば、私の合成の力と同じなので『血液の流れる石の体』を創り出す事が出来たでしょう。
ならばその逆の分離をするときには、混ざり合った石を抜き取れば済むのです。
例えるなら……
泥水を濾過して泥ときれいな水に分離するようなイメージです」
二人がゆっくりと理解しているようだ。
「しかしお父上の場合は『肉体が石へと変質したもの』である可能性が高い。ただ、この石化部分の石がかなりのくせ者のようです」
「……と、言うと?」
父親が質問してきた。
「仮に、本当にただの石へと変質していてくれていたのなら、膝下には血も神経も通わず早い段階で壊死していたでしょう。
そうなれば太股の付け根部分から切断してしまう事で石化の進行を断ち、潔く右足を諦める事で問題を解決出来たでしょう」
俺はニコリと笑いながら石化部分を見た。
父親がゾッとした表情をした。
「ただ、今回は石化部分で血液や神経が未知の変換と再変換を行ってくれている事で、膝下は元気なままなので、太股の付け根部分から切断してしまうにはもったいないと思いませんか?」
父親が全力で首を縦に振る。
「ももももちろん、これだけ元気なんだ。きき切り落としたくはないな」
「かしこまりました。しかしですね……」
俺は続けた。
「もうお気づきかと思いますが、お父上の体から『肉体が石へと変質したもの』を分解する……つまり濾過作業をすると、太股の石化部分だけ削げ落ちてしまったお父上が残るでしょう。これはもはや分解というより、ただ石化部分を一瞬で切り落としたようなものでしょう……」
「そ、それでは……」
一気に不安そうな表情になるソフィネ。
俺ならばなんとかしてくれると藁にもすがる思いで相談をしてきただろうに、ソフィネの頭の中にはもう「切断」という答えがチラついているのだろう。
俺はもう少し説明を続ける事にした。
「つまり、分解には成功したとしても分解した瞬間から大量の出血と痛みが始まります。削げ落ちた肉はもう石になってしまってますから」
「そんなぁ……」
父親の顔がみるみる青ざめていく。
「ただ単に削ぎ落とすだけならば、私の代わりに腕のいい剣士の剣さばきで無責任に石化部分を削ぎ落とすだけの事は出来たでしょう。
……ただし、
…………ここには私がいる。」
二人は首を傾げる。
その二人の疑問に答える前に俺は二人に聞いた。
「あとはお父上と、ソフィネ様の覚悟をお聞きしたいのです」
俺はバックから赤い瓶を取り出し、石化した太股の横で蓋を開けた。
太股の横には、瓶から出てきたフランの生首があった。
「ひぃぃ!!」
父親がフランの生首から逃げるようにベッドから転げ落ちた。
ソフィネも驚きつつ、すぐに父親の側に駆け寄った。
俺はそのまま話を続けた。
「削ぎ落とされた肉や骨などの補填にこの肉を使います」
ソフィネは倒れた父親に手を貸し、起き上がる補助をした。
父親はなんとか起き上がり、ベッドの横で座り込みながら、極力フランの生首を見ないよう横目で見ながら尋ねた。
「わ、わざわざこの生首ではなく、食用の別の動物の肉を使う事はできんのかね?」
「私もまだ人とモノを合成させた経験は少ないのですが、経験上相性はあまり良いとは思えませんね。
私もその結果には興味があるので食用の肉で合成しても構いませんが、おそらく脚はお父上のご想像されるものからはかけ離れたものになるとは思います。
ですが安心してください!
精神や自我に一部支障を来す恐れはあっても死にはしないと思います」
父親が高速で首を横に振った。
そして、深く深呼吸をして自分自身落ち着つかせ、冷静さを取り戻した。
「ソフィネ……お前、とんでもない方を見つけてきたものだな」
ソフィネは少し顔を赤らめた後、俺の方を見て話した。
「リュッセル様、父も私も商人です。損得で物事を判断いたします。父には脚が必要です。どうか、お力をお貸しください!」
強い意志を持って決断した彼女の目はとても美しく、思わず返事を忘れて見とれてしまった。
「リュッセル様……?」
ソフィネが心配そうに俺の顔を伺った。
「あ、あぁ、申し訳ありません。その覚悟、しかと確認させていただきました」
慌てて返事をし、二人にこれからの流れを説明する。
「分解の際に出血と痛みがあると思うのて、私が用意した煙瓶で出血と痛みを一時的に軽減させます。その間にフランの生首と太股を合成させ、太股を作り出します。
ベッドを血まみれにする覚悟が出来たら始めましょう!」
「リュッセル様、笑顔を見せるタイミングを間違っておりますわ」
ソフィネがクスリと笑った。
ベッドの上に何枚か布が敷かれ、父親の口にも布が詰められた。
俺は父親に煙瓶をふりかけた。
「あぁ、今思い出しましたが、この出血と痛み止めの煙瓶の他に強めの睡眠効果のある煙瓶もありました。こちらも併用すればより痛みは和らぎますよ。どうされますか?折角布もご用意されたので今回は使わないでおきましょうか?」
「ふがふひひはっへんはほー!!」
「使うに決まってんだろ、との事です」
もがく父親の通訳をソフィネがした。
「かしこまりました。冗談ですよ、ハハハ」
「リュッセル様、全く冗談に聞こえませんでしたわ」




