最終話 生と死の線引き
ドアのかげにルダンがいた。
「そこで何している?」
「こ、これは……一体……?」
やれやれ、今一仕事終えたというのに、まだ俺に働かせる気か。
「人の家に勝手に入ってきて、最初に言う事があるんじゃないか?」
「す、すまない。お前がバリスに探されていると聞いて、お前の事を嗅ぎ回っていた。そしたらバリスが家に入っていくのが見えたんだ。しばらく外に待機していたら、大きな物音が聞こえたので、慌てて中に入ったら、こうなっていた……頼む、何があったのかを説明してくれ」
「はぁ~」
俺はまたため息をついた。
「いいだろう。こいつらは俺の事をサイコパスなどと短絡的な言葉で一括りにしようとした。だから始末した」
それだけだ。とくに隠す理由もない。
「それだけの理由で殺す必要があるのか?」
俺は足元に落ちた枝を拾いあげて見つめた。
「お前と俺の価値観の違いだな。お前等にとってのバリス達は……」
枝をへし折る。
「俺にとってのコレだ」
ルダンはその枝を見つめながら聞いた。
「何故サイコパスと呼ばれるのが嫌なんだ?」
「何故?俺の才能をそんな一言で片付けられるのはどうしても気に入らないな」
俺は足元のバリスを足蹴にし、死体をグリグリと踏みにじりながら話を続けた。
「別に誰でも殺したいと言うわけではない。まぁ、実験に使っていいと言うのであれば誰でも殺すだろうがな」
俺はソフィネの亡骸の腹部あたりをさすりなが、ルダンをゆっくりと見た。
ルダンは額の汗を拭いながら話をした。
「ならば俺も黙っていればいい、と言うわけか……」
「そうだな。殺す必要もなくなるな」
「バリスの評判はあまり良くは無かったし、バリスがお前の家に侵入したところも見た。お前は妻も殺されている。お前は仕方なく殺した。……だな?」
「ああ、物わかりがいいものだな」
「そうだ。バリスの死体、いつまでもそこにあっては嫌だろう?運ぶのを手伝おう」
「あぁ、助かるよ」
俺はバリスの足側にまわった。
「俺はこちら側を持つから、お前は頭側を持ってもらえるか?もう運ぶ体力が無いものでね」
俺は、俺の背中側にいるルダンに向けて話した。
こちらに歩いてくる足音が聞こえてきた。
「あぁ、わかった。俺はそちら側だな?」
俺の言葉の確認をとるかのように聞き返してきた。
俺の背後でルダンが立ち止まった。
「何をしている?さっさと運び出してしまいたいんだ。部屋の掃除もあるんでな」
背後のルダンからの返事がないので振り向こうとした。
「あんたは!!」
ルダンは俺が振り向くのを遮るような大きな声を出し、話を続けた。
「あんたは確かに命を狙われた!バリスが悪いかもしれない!」
俺はそのまましゃがんだまま、聞いていた。
「だがな!!あんたは人の命を軽んじてる!!あんたは生きてていい存在じゃねぇんた!!」
ルダンの腰にある鞘から剣が抜かれる音が聞こえる。
「早く片づけてしまいたいんだ。朝になったら妻のソフィネに怒られちまうからな」
俺は振り向かずにそう言った。
「お前との無駄話がいつ終わるのか我慢するのが大変だったよ。切り出してくれてありがとう」
「何をわけのわからない事を言っている!!」
ルダンが俺に斬りかかろうとしてきたのが、空気で感じ取れた。
ソフィネの亡骸の腹部あたりがもぞもぞと動き、引き裂かれた。腹の中から小型の魔物が飛び出してきて、ちょうど隣りにいたルダンの顔に目掛けて飛びついてきた。
突然の出来事で、顔に噛みついた魔物を振り払うのに手間取っているようだった。
俺は立ち上がりながらルダンに話しかけた。
「そこの妻の亡骸は、俺が粘土と肉を合成させて作った偽物だ。腹を空洞にしていてな、眠り薬で眠らせた魔物を仕込んでおいたのさ」
ルダンはもがきながら必死に魔物をふりはらおうとしている。
「先ほど腹を触った時に合成を一部解除して、腹の表面を薄めにしておいた。お前が近くで叫んでくれるもんだから魔物が起きたんだ」
俺はバリスの死体から両腕を分解し、それを自分に合成させた。俺の両肩にそれぞれ合成された右腕が落ちていた剣を拾って握った。
「お前が俺を殺そうと声を荒げる事で、お前自身の死の起爆装置を作動させる事となったのだ、ハハハ」
俺はゆっくりとルダンに近づいた。
ようやく魔物を串刺しにできたようだが、顔には無数の引っかき傷と、右の頬が一部噛みちぎられていた。
俺が近づいてきたので身構える。
俺は4本の腕を広げながら近づいた。
余裕がなかったのだろう、ルダンは何も言わず俺に斬り込んだ。
左肩から右わき腹へ斜めに一直線に迷い無く切り裂かれた。
俺は自分の傷口と、剣を持たずに余った腕を掴み合成をして瞬時に傷口を塞いだ。
剣を握った腕でルダンの胸に深々と剣を突き刺し、貫いた。
「お前は先ほど、俺に人の命を軽んじてる、と言っていたが、それはお前らの方だろう?何故そうまでして死に急ぐんだ?」
俺はルダンの傷口と俺の右肩に生えたバリスの腕を合成し、傷口を塞いだ。
傷口の消えたルダンは、痛みこそあるが血も止まり驚いている。
「お前は……えぇっと、なんだったか?」
俺はルダンを見た。
「俺は……バリスがお前の家に忍び込むのを見た……。おそわれたお前はバリスを殺した……だ」
「あぁ、そうだったな。妻は今夜は偶然実家に泊まらせてある。誰も被害を受けなくて本当に良かった」
俺はバッグを取り出した。
「俺はここの片づけがある。お前はそこのバリスから何かしら切り取って帰るんだ。もう用は済んだのだろう?」
ルダンの肩をトントンと叩くとルダンは慌てて言われた通りにしてすぐに帰った。
俺の掃除は20分程度で終わった。
翌朝、ソフィネを迎えにいった。
案の定引っ越しをすことになり、荷造りに追われた。
バリスの死は冒険者ギルド内ですぐに回った。バリスの仲間の失踪などに関しても全てバリスのせいだとして片づけられたらしい。
ルダンはしばらくして冒険者を辞め、どこか遠くの街に行ったという噂が流れた。
全話読んでいただき本当にありがとうございます。
次回作も制作中です。かなりの力作だと思いますのでよければこちらもブックマークや評価、感想などいただけると泣いて喜びます。
「恥晒し魔導士は賞金首の賞金稼ぎ~ドSヒロインが俺を社会的に殺しにかかってくる~」
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