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第10話 背中に気をつけろ

その日は仕事を終え帰宅した。


とりあえず俺は普段通り、夜は商品として販売するための煙瓶の製作を行った。



一段落したところで、明日も仕事なので俺はソフィネのいる寝室へ向かった。


寝室にはベッドの横に灯されたろうそくが一つあった。


「ソフィネ、もう寝たかな?」


……


布団を被ったソフィネの方か返事はない。

ずいぶんと作業に没頭してしまって、夜ももう遅い。

寝てしまっていても無理はないな。


そう思いながら俺はベッドに近づいた。



……なんだ、この違和感は……



ソフィネが寝ているであろうベッドの膨らみに全く動きが無い。


いくらソフィネの寝相が良いからといってこんなに動かないものか?

いや違う。息をしていないのだ。一切布団が動いていない。

一体何が起こってるんだ?



慌てて俺はベッドへ駆け寄った。


「ソフィネ!遅くにすまないが、返事をしてくれ!」


そう言って俺は思いっきりソフィネの布団をはいだ。



そこには……


胸に深々とナイフの刺さったソフィネの亡骸があった。


薄めを開けて静かな表情をしている。苦しんでいるわけではなく、寝ているところにナイフで一突きされていた。


「う、うわぁぁぁぁソフィネーーー!!!」


俺が必死にソフィネを揺さぶってみるが全くソフィネは動かない。


「誰が!!誰がこんな酷いことを!!!」


俺はソフィネの亡骸を抱きしめながら叫んだ。


「俺のせいで、お前を巻き込んでしまったんだ!!」


そう言った時、背後から突然声が聞こえた。


「あぁ、全部お前のせいだ、死ねサイコ野郎」


男の声が聞こえた瞬間、背中に冷たいものが突き立てられた。恐らくナイフなんだろう。


ナイフは俺の洋服を突き破り背中に激痛が走った。


「な……だ、れだ……?」


俺はソフィネの亡骸の上に倒れた。



「全部お前のせいだぜ?フランはお前に殺された。グスタフやキースだって、お前のせいで死んじまったんだ!よくも俺の仲間達を!」


そう叫んだの声の主はやはりバリスのようだった……


 

……まさか…



こんなにも早く襲撃してくるとは思ってもなかった……



俺はソフィネの亡骸の上で静かに目を閉じた……




「ククク……ハハハハハ!!」


部屋に笑い声が響き渡る。




「まさか、こんなにも早く襲撃してくるなんて思わなかったよ。計画通りだ。いや、計画を上回る結果だつたな!」



「仲間に会えなくて寂しいのか?キースと言ったか?そんなに会いたいなら会わせてやる!!!」


俺はソフィネの亡骸の上にうつ伏せの姿勢のままでいたが、刺された背中がもぞもぞと動いた。


次の瞬間、俺の洋服の背中が裂け、中から先ほど突き立てられたナイフを持った両手がバリスを襲った。


突然突き立てられたナイフを完全にはかわせず、バリスの右肩をナイフがえぐり、バリスは右肩から血を流した。


バリスは距離をとった。


起き上がった俺の背中には二本の腕が生えている。

その異質な腕にはところどころ水晶の欠片が混じっていた。右腕には先ほどバリスから突き刺されたナイフによる傷があり、血をながしていた。



「お前が先ほどナイフを突き刺したこの腕に見覚えはあるかな?お前のお仲間のキース腕だ。何かに利用出来ないかと持ってきたが、早速役に立ったぞ」


「や、野郎……よくもキースを!」


「なんだ?感動の再開だろう?喜べよ?もしくは自分が仲間にケガをさせた事を謝罪した方がいいんじゃないのか?」


「このイカレサイコ野郎!絶対に許さねぇ!!」


バリスは予備で用意していたらしいナイフを腰の辺りから出した。



元々自分の腕とは言わずとも、今自分と合成させている腕の傷は俺自身にとっても痛いし、今朝も出血をしたんだ、これ以上無駄な出血も避けたい。



俺はすぐさまキースの腕を分解で切り離した。


地面に無造作に落ちる腕からナイフを奪い取った。



その隙をついてバリスが襲いかかってきた。


慌ててソフィネの亡骸を跨ぎ、ベッドの上を転げ回り、ベッドの反対側に着地する。

どさくさに紛れてソフィネに突き刺さったナイフも回収した。二刀流になったところでどう使えばいいかわからなかった。


「へへ、なんだその構えは?まるで素人だな」


図星だったので何も言わなかった。



今俺がいるのは部屋の左奥だ。

目の前にはソフィネの亡骸があるダブルベッドがあり、それを挟んで向こう側にバリスがいる。

俺の背後は壁。対するバリスの右手後ろの壁にはクローゼットがあり、恐らくバリスはそこに隠れていたんだろう。

バリスの左手後ろにはドアがあり、ドアまでたどり着ければ廊下を抜け俺の作業部屋がある。

俺のちょうど対角線上だ。

俺の右手の先の部屋の角には大きめの観葉植物があり、その植物とドアの間に窓がある。

いざとなれば窓を割って一旦外にでるか?そもそもそんな時間が作れるんだろうか?何故窓がそんな不便な位置にあるのだ?いざという時のために窓は俺の背面に作っておくべきじゃなかったのか?などと、言い訳を探していた。


「もう逃げられないぜ?お前を追い詰めてメッタ刺しにしてやる」


ニヤニヤと勝ち誇った顔をしていやがる。


ベッドの向こう側の棚の上に置かれた蝋燭の光はバリスに遮られ、バリスの左手後ろにあるドアは闇に包まれていた。まるでドアなんて無いかのように俺にはそこへ辿り着く事が不可能に思えてきた。



どうにかバリスの隙をついてヤツの左手後ろのドアへ行きたい……


そう考えていた時だった。


「おっと、お見通しだぜ!ドアの方へは行かせねぇよっ!!!」


バリスがこちらに近づいてきてベッドを思いっきり蹴った。

腰を入れて放たれた蹴りによってベッドがこちらに押し寄せてきた。なんて馬鹿力だ。

実際はそんなに大きく動いたわけじゃなかった。多分拳二つ分程度だろうが、突然ベッドがこちらに押し寄せてきて、挟まれると思った俺は思わず右手側に飛び込んだ。

どうにかドアの向こうに行こうと考えていたが、先手を取れず、挙げ句ヤツのブラフにひっかかり完全に後手に回った。

さらにはベッドの足元側に転げ、倒れ込んでしまったのですぐに動き出せる姿勢ではなかった。

早く起き上がろうと、片膝をついたところでバリスの追撃が始まった。

なんとか体を反らして背中は見せまいと、バリスの方を向きながら左手のナイフで応戦する。

だがナイフでの戦闘になれない俺はどんどん押され、なんとかバリスの方を向いたが今度は尻をついていた。


「無様な格好だぜ!」


何度も切りかかってくるのを左手のナイフでいなす事すらままならない。


「もらった!!」


バリスのセリフ通り俺のナイフはベッドの方へ弾かれ、ベッドの下へと消えていった。蝋燭の光は全く届かず、闇雲に探す余裕もなかった。

俺は後ずさりしようとしさらに追い詰められた。


「イカレサイコ野郎、仲間達を殺した事、謝らせてやるぜ」


「ま、待て。一つ誤解しているが、フランは俺が殺したんじゃない。魔物に殺されたんだ。他のお仲間に対しては、襲ってきたお前らが悪いだろう?」


「黙りやがれ!てめぇにはもう後がねぇ!俺様の勝ちだ!!ただ懺悔しながら死んでいけばいいんだよ!」


じりじりとバリスがにじり寄ってくる。

俺もなんとか後ろに下がろとするが、尻をついていて早く動ける自信はない。


ふと、バリスが異変に気づいた。


「お、おい、サイコ野郎……き、貴様……右手はどこにやった……?」


蝋燭の光が届かない俺の右手に対して言っているようだった。



「あぁ、言い忘れていたが、お前はもう一つ勘違いしていたんだった。お前は勝ってなどいない。俺がここに来た時点で負けていたんだ」


「なに、負け惜しみ言ってやが…………え??」



バリスの首の後ろにナイフが突き刺さった。

バリスの背後に宙刷りになった俺の右手があり、それがナイフを突き刺していた。


「蝋燭の光で薄暗かったから気づかなかったか?もしくは俺を追い込んだと勘違いして油断したな」


「なっ……グフッ……」


バリスは血を吐いきながらナイフを手放した。


「俺は別にドアに行きたかったんじゃない、この観葉植物のところまで行きたかったんだ」


俺の足元には観葉植物の根が床に這って伸びていた。

尻餅をついたように見せた俺の背中側と観葉植物の根は合成されており、観葉植物の葉の先から俺の腕が生えていた。



俺は合成を解除して自分の腕を戻し、立ち上がった。





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