第1話 パーティーの解体
「おい、あいつじゃねぇか?ノアが言ってた…」
「あぁ、マジで頭がおかしいぜ…近寄んなサイコ野郎」
「しっ!聞かれるぞ。何されるかわかったもんじゃねぇ…」
室内には俺とこいつら3人だけなので、どうやらこの霧雨のような微弱な罵声は俺に向けて浴びせているようだった。
何故このような事を言われるのか心当たりは無いし、この冒険者パーティーとは会話すらした事が無いので放置する事にした。
俺は冒険者ギルドに用があった。
ギルドのロビーにいたこの3人のゴミ共を無視し奥にある受付所に向かった。
部屋に入り俺は事務作業をしていた受付の男に声をかけた。
「あのーすみません。少々よろしいでしょうか?」
「こんにちは。どうぞおかけください」
男にテーブルを案内され、受付の男と向かい合うように椅子に座った。
「どうされましたか?」
「いやぁ、そのですね…依頼の失敗をしましてね…ハハハ」
笑ってごまかしたが、正直あの程度の依頼を達成できなかった事が腹立たしい。その尻拭いを俺にさせているってのも気に入らない。俺はどうにか感情を押し殺した。さっさと手続きを済ませて今後の事を考えたい。
「かしこまりました。こちらの用紙にご記入ください」
「はい。あ、あとですね、パーティー解体の届け出もさせていただきたいのですが」
「パーティーの解体ですね。資料をお出ししますので、冒険者様のお名前、ご職業、パーティー名を教えていただけますか?」
「名前は『リュッセル』、職業は『合成師』で、パーティー名は『銀翼の剣』と申します」
「確認してまいります。少々お待ちください」
「ええ。お願いします」
受付の男は資料とパーティー解体の用紙を差し出してきた。
「パーティーの解体の理由は…?」
俺は用紙を書きながらこいつの世間話に付き合ってやることにした。
「いやね、依頼のあった水晶の調達に行ったんですがね、強い魔物が現れまして。私は戦う必要はないと提案したんですが、フランとレイスがですね…あぁ、ちょうど今ここに書いている…ここの彼らです。」
ペンの先で2名の名前をトントンと指してみせた。
「彼らが魔物と戦うと言い出しましてね。やめろって言ったんですよ~?道具の無駄遣いもしたくは無かったんですがね。一応協力はしましたが力の差は火を見るよりも明らかでしてね、結局魔物に傷一つつける事なく死んでしまいましたよ。
魔法使いのノアは移動魔法が使えるので死なれては帰り道で難儀するなと思い、ノアだけは助けてやりながら魔物の相手までさせられましてね」
「はぁ~」
俺はため息をはいた。
「戦闘での精神的なショックとやらでパーティーを抜けたいとの申し出がありました。自分から申し出をしてきたというのに、何故か私に手続き関係を全て押し付けてきましてね。おかしいと思いません?勝手に死んでいった奴らの尻拭いをさせられた挙げ句、パーティーは解体。これから私はソロで冒険者を続けるか、どこかのパーティーに加入するか無職になるか…一番の被害者は私なんですよ、全く。ハハハ。
あれ?ここに解体の理由を書く欄あるじゃないですか。わざわざ口頭であなたに説明してあげる必要…いりましたか?」
チラリと無表情で受付の男を見ると、男はビクリと肩を跳ね上がらせた。
俺はそれから無言で先ほどわざわざ説明してやったパーティー解体の理由を書き、フランとレイスの名前の横の欄に「死亡」と書いた。
「で、では、亡くなられたのが確認出来る遺品の提出をお願いします」
受付の男が冒険者の遺品を入れる箱を2つ差し出した。
「ええっと、こちらの剣がフランの遺品になります」
俺は袋から折れた剣を取り出した。剣身が根本から指1本分のところで折れており、持ち手のところには血がべっとりとついていた。
「亡くなられた方は最期まで死力を尽くされて戦われたのでしょう。お悔やみ申し上げます」
受付の男は何か勘違いしているようなので補足した。
「遺品を回収する際にね、死んでいるというのに剣を握ったまま、なかなか離さなかったんですよ。こちらも疲弊していたので早く帰りたいのもありましたが、重いと荷物になりますのでまずは剣身を折りました。それからフランの手首のところから切り落としまして、帰りの道中、時間を見つけて指を1本ずつ削ぎ落としたんですよ。その時の血ですね、これは」
受付の男の顔が青ざめている。
俺は話を続けた。
「そしてこちらがレイスの遺品になるのですが…戦闘の際に色々とその…損傷が激しくてですね。彼のものと呼べるものがほとんど見あたらなくてですね…一応探してきたんですが、こちらで大丈夫でしょうか?」
俺はレイス用の遺品入れの中にソレを置いた。
ソレを置いたすぐは俺の手が陰になってよく見えなかったのだろう、俺が腕をどけると受付の男が叫んだ。
「ひぇ……め、目玉ッ!!」
受付の男の声がうわずった。
「レイスは青くてキレイな目をしてるでしょう?今でも彼に見つめられている気がしますよ」
受付の男はなんとか平静を装いつつその後の事務処理の対応をした。
くだらない雑務を終えたので、部屋を出てさっさと自分の用件に移る事にした。
しばらくは一人でもこなせる依頼で食いつなぐか。
ここのギルドは田舎という事もあり冒険者パーティーが少ない。その割に比較的依頼が多いので、身の丈にあった依頼の数がこなせればそれなりの収入にはなるだろう。
そう考えながら俺が掲示板に貼られた依頼を眺めていた時だった。
ドン!!
背中の方でテーブルを叩く音が聞こえた。俺は別に振り向く必要も無さそうだったので掲示板をみていたのだが突然怒鳴り声が聞こえてきた。
「もう我慢ならねぇ!!おい!イカレサイコ野郎!仲間を殺しといて何のん気に依頼なんか見てやがんだ!他にやることがあるだろ!!」
さっきの3人のうちの一人が俺の背中から話しかけてきた。
「あはは、お恥ずかしい話ですが、私も生活がありますのでね。貯蓄も多少はありますが、やはり収入が無いのは不安なので仕事はしておきたいのですよ~」
振り向きながら、わざわざ説明してやった。
「そーいう話じゃねーだろ!仲間を殺しといてヘラヘラしてんじゃねぇって言ってんだよ!!お前に殺されたフランはな、俺のダチだったんだよ!!!」
「そうなんですか、私にとってはパーティーのメンバーでしたよ?」
「だったらなんでフラン達の死を偲んで墓参りの一つでもしてやらねーんだよ!!」
「そうは言われましてもねぇ…やめろとお伝えしたのに無謀で不要な戦いを望んだのは彼らですし、そもそも墓参りと言われましても彼らの肉片や骨は持ち帰るには荷物になりましたので使える分以外は置いてきたんですよ。あなたのおっしゃるフランの墓、棺の中は空っぽですよ?ご存知ないですか?」
何故こいつは俺に無意味で無意義な事を強要してくるのだろうか?無謀だ。こいつもフラン達同様に無謀で不要な事をしている。類は友を呼ぶというがまさにそうだった。
「てめー、バカにしてんのか!!殺してやる!今すぐに殺してやる!!」
「私を殺してしまうと墓参りにいけなくなりますが、その件はさほど優先順位は高く無いのでしょうか?だとすると、その程度の用件という認識でよろしいですか?私は忙しいのですよ」
息を荒げてすごむ男を連れの男達がなだめる。
「そのくらいにしとけ。ノアの言ってた通り、こいつはとんだイカレサイコパス野郎だ。話してたらこっちまで頭がおかしくなっちまう」
先程もだが、やはりこいつらはノアから聞いたと言っていたな。一体何をどう聞き違えたんだ?
…もしくは……
ノアがつまらないデタラメをあちこに吹聴してやがるのか??
「はぁ~」
俺はため息をはいた。
俺はそいつらを無視しすぐさまギルドを出る事にした。依頼は後回しだ。予定が出来た。
俺の冒険者としての今後の生活にノアという存在は邪魔だ。
全話読んでいただき本当にありがとうございます。
次回作も制作中です。かなりの力作だと思いますのでよければこちらもブックマークや評価、感想などいただけると泣いて喜びます。
「恥晒し魔導士は賞金首の賞金稼ぎ~ドSヒロインが俺を社会的に殺しにかかってくる~」
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