月世界Ⅱ
とある二人の会話の続き。
「でもさ、うさぎが餅ついてるって、すごいメルヘンだよね。月って。」
「まあ、そう見えるってだけだけどね。」
「そうだけどさ。でも本当にそういう世界だったら可愛いじゃん。うさぎがぴょんぴょん跳ねて餅ついてるの。」
「・・・むぅってたまに夢見がちだよね。気持ち悪い。」
「気持ち悪くないじゃん。可愛いねって話してるだけだよ。たーちゃんは本当にひどい。」
「ひどくないよ。まあいいや。うさぎが餅ついてる世界、可愛いと思うよ。」
「でしょ?そういう世界ならさ、月も行ってみたいなって思うなあ。」
「行って何するの。」
「えー。それはまず、うさぎと餅をつくよ。」
「ほかには?」
「あとねえ、カメと将棋を指したり、にわとりとサンバを踊ったり、きりんとヨガをしたりするよ。」
「そういう世界なんだ。月。」
「そりゃあそうだよ。」
「じゃあライオンとにらめっこしたりもするの?」
「いや、ライオンとにらめっこはしないよ。」
「え・・・。しないの?」
「うん。」
「なんで。」
「だってライオンは月の裏側にいるもん。」
「裏側?」
「そう。うさぎとかカメとかは表だけど、ライオンは裏。」
「裏って、地球から見えない側ってこと?」
「そうそう。」
「なんでライオンは裏なの。」
「ライオンは凶暴だから。凶暴で怖い動物は裏にいるんだよ。」
「表にいちゃだめなの?」
「だめだね。」
「なんで?」
「表は綺麗な世界なんだよ。地球に見えても大丈夫な、綺麗なところなの。だから凶暴な動物は表に来ちゃだめなの。」
「凶暴な動物は綺麗じゃないってこと?」
「うん。綺麗じゃない。血とかついてるし、目つきも悪いし。ほかの動物を殺しちゃうし、おっかないでしょ。」
「おっかないね。」
「うん。」
「でも面白そうじゃん。ライオンと喧嘩とかしてみたいよ、俺。」
「ええ?やだよ。」
「そう?」
「危ないもん。噛まれたら痛いし、死んじゃうかもしれないよ。たーちゃんが死ぬのは嫌だよ。」
「そりゃあ俺だって死にたくはないけどさ。」
「そんな危ない目に遭うのは困るよ。うさぎと餅ついてる方がよっぽどいいよ。」
「じゃあさ、むぅは月に行っても裏側には行かないわけ?」
「行かないね。そんな世界見たくもない。」
「じゃあ俺が行こうって言ったら?俺が『ちょっと裏側も面白そうだし行こう』って言ったら、むぅはどうする?」
「え、やだよ。行きたくないし、たーちゃんにも行ってほしくない。やめてよ。」
「止めるの?」
「止めるよ。『お願いだからやめて』って説得すると思う。」
「ふうん。むぅは月の裏側は嫌いなんだ。」
「嫌いだよ。怖いし汚いし危ないもん。」
「でも俺は好きだよ。」
「え?」
「好きだよ、そういうの。綺麗なだけじゃつまんないじゃん。俺だってどっちかって言うと凶暴だし、汚いし。餅ついたり将棋指したりしてるたけじゃつまんないよ。たまには痛いことしたいし、怖いことやりたいよ。」
「でも、それってすごく良くないことだよ。綺麗で安全な方がいいじゃん。どうしてそんなところに行きたいって思うの。やめたほうがいいよ。」
「仕方ないよ。俺はそういう汚いところも楽しいなって思うんだから。もちろん綺麗なところもいいんだけどさ。でも物足りないんだよ。それだけじゃだめ。つまんない。」
「・・・たーちゃんは変わってるね。」
「そう?」
「うん。変だよ。」
「でもお前も変だろ。」
「ふふ、まあね。」
「それでいいんだよ。」
「そうだね。仕方ないもんね。」
「そう。仕方ないの。」
「うん。」
満月が二人の頭上を傾いていく。
「月」にまつわる短編4つでした。ありがとうございました。