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【小編】魔王と召喚勇者  作者: 金屋かつひさ
第1章 召喚対象者を発見せよ
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1-5.召喚勇者発見装置

 ついに魔族の命運を賭けた「召喚勇者発見装置」の実験が開始された。ドーム内の活気がいやが上にも高まった。全員の顔に緊張が走った。


「動力炉、現在出力60%。順調に上昇中」

「トランスウエーブ、送波開始しています」

「ハイパーポジトロン、濃度95%で安定」

「各部温度、異常ありません」


 各部から報告が相次ぐ。

 どうやら起動は成功したようだ。魔王はあたりを見回し、懸命に装置を操作している所員たちを眺めて満足げにうなずいた。


 ミスートがいくつかの計器の値をひとつひとつ指差し確認する。どうやら問題はないよう。装置の上方に陣取る所員めがけて指示を飛ばす。


「いいわ。では時空振動子、1番から3番までを接続」

「時空振動子、1番接続しました」

「2番、接続しました」

「同じく3番、接続しました」


 あのよく分からなかった回転体がその速度を増した。装置全体からブワーンといううなりが響き出す。


「各部出力、順調に推移中」

「MWPS、第一段階に到達。魔力共鳴波の発信を開始。超ワイドレンジ魔力サーベイを開始します」


 ドーム中には相変わらず緊迫感が満ちていた。しかしあわてている様子はない。おそらくここまでは想定通りなのだろう。魔王はさっぱり分からぬ専門用語の群れに翻弄ほんろうされながらも、満足げな表情を作って作業の様子をながめていた。ちらりとでも不安な素振そぶりを見せてはならない。所員の士気に関わるからだ。


 ところがこの辺りから流れが変わり始めた。


「超ワイドレンジ魔力サーベイ、反応ありません!」


 初めて発せられた異常を知らせる声。ミスートの目つきが瞬時に鋭くなる。


「なんですって! 手順を再確認。機器の状態は?」

「問題ありません。おそらく出力が足りないものかと」

「魔力共鳴波、出力は上げられる?」

「今やっています。5%なら上げられます」

「もう少し絞り出して。時空振動子、4番5番を接続。魔力共鳴波を支援しなさい」

「時空振動子、4番接続しました」

「5番、不安定です。接続できません!」


 ついに報告に混じり始めた悲鳴。所員の間にざわめきが広がり出す。


 こうなると魔王にも事態がおかしいことは分かってくる。専門用語が分からぬことなど関係ない。魔王は自身のすぐ脇にいるミスートに問いかけた。もちろんあくまでも落ちつきを保ったまま。


「ミスートよ、何か問題なのか」

「いえ、魔王様。まだ問題と決まったわけでは。ただ……」

「ただ? 何だ」

「召喚対象者の反応が捉えられないのです。機器に問題があるのか、それとも……」

「何だ、はっきり申せ」

「勇者召喚に適した対象者がそもそも存在しない可能性も」

「何だと」

「こちらを御覧ください」


 ミスートは近くの所員に指示し、目の前の大型モニターに画像を映し出した。一見するとただ全体に細かいノイズがチカチカとしているだけの画面、魔王にはそんなふうに見えた。


「これは現在サーベイ中の全ワールドの反応を示しています。もし召喚対象者の反応があれば、画像のノイズに見える部分に濃淡が現れます。しかし御覧のようにノイズは平坦へいたん。これは対象者の反応が捉えられていないということです」


 魔王は身を乗り出したい気持ちをぐっと抑え、逆に胸を張るようにしてモニターの画像をじっと見つめた。ミスートが説明したとおり、そこにはノイズが一様に広がっているだけに見えた。


(召喚対象者がいない? それならそれでありがたいことだが。しかし本当にそうなのか? 見落としはないと言えるのか? 想定より反応が小さくて埋もれているのではないのか?)


 魔王はモニターを見つめ続けた。召喚対象者を見落とすことは万にひとつもあってはならぬこと。もしあれば魔族の危機につながりかねない。


 魔王は頭を数度横に振った。心をリセットし、改めて先入観を捨てた眼でモニターを見た。これまでの全体を均等にながめる方法をやめた。視線を左隅から右へ。端まで来ると少し下辺りを今度は右から左へと。そうやってジグザグに。ほんのわずかなノイズ濃度の変化も見逃すまいと。


 魔王の視線がある1点にきたとき、彼の脳裏に何とも言えない違和感が走った。まるでだれかに呼ばれたような……。


 魔王はその1点を凝視ぎょうしした。だがそこもノイズ濃度はほかと変わりはないように見える。


(何だあの感覚は?)


 戸惑う魔王。再びその点を凝視する。しかし違和感はもう表れない。


(気のせいか? いや、もしかしたら……)


 魔王はすかさずミスートの方へと振り向いた。


「ミスートよ、機器には本当に問題はないのだな?」

「はい、魔王様。サーベイ出力を想定より上げる作業にいくらか問題は出ていますが、サーベイ作業そのものに問題は出ていません」

「そうか。では探査範囲の一部だけを拡大することはできるか?」

「はい、できますが」

「よし。ではここだ!」


 魔王の指先がモニターのあの1点を指し示した。


「この辺りを拡大してみよ」

「ええっ。しかしそこには……」

「いいからさっさとやるのだ!」


 魔王の迫力にミスートは床から飛び上がった。だがすかさず指示を出し、魔王が指し示した辺りを拡大させた。しかし魔王は「もっと」「もっとだ!」と繰り返す。何度か繰り返していると、画像を見つめる人々の間にどよめきが起こった。


「主任、濃度に変化が!」


 今や画像にはだれにでも分かるノイズ密集点が映っていた。どよめきはまるで波のようにドーム内にいるすべての所員の間に広がった。


「よし、MWPS第2段階に移行。この付近を集中的にサーベイ。予備の時空振動子も全機接続させて! ハイパーポジトロン濃度も105%まで上げなさい」


 ミスートの力強い指示が飛ぶ。人々のざわめきは消えた。皆の顔に活気が戻った。ドーム内を動き回る速さも心なしか速くなったかのよう。


「候補ワールド特定しました!」

「MWPS第3段階に移行。共鳴波の周波数をワールドの物理特性に合わせて調整。早急に銀河を特定するのよ」

「銀河、特定しました」

「星系も特定」

「いいわ、いよいよ最終段階ね。画像転送の準備を。一気に対象者を特定するわよ」


 ミスートの声が心なしかうわずっている。


 今や大型スクリーンには先ほどまでとはまったく違うものが映っていた。画質はひどくあらいが青い惑星だということが分かる。おそらくあそこに対象者がいるのだろう。惑星の姿はどんどん大きくなった。あっという間にスクリーンからはみ出した。それでも映像の拡大は続く。雲を突き抜けた。まるでカメラが急速に降下しているかのようだ。


「サーベイ範囲、領域キューブの絞り込みは順調」

「主任、このままいけば後10分も経たずに対象者を特定できます」


 今や大型モニターの前には黒山の人だかり。魔王やミスートを含め、全員が固唾かたずをのんで映像に見入っていた。


 しかしその時、画像が大きく乱れた。ブロックノイズが走った。映像が一瞬途切れ、復活はしたものの先ほどまでよりさらに画質が悪くなっていた。


「何が起こったの!」


 ミスートの声。動揺は隠せない。この段階でのトラブルは致命的になりる。


「サーベイに問題ありません。おそらく惑星表面での電磁気現象の影響かと。画像が安定しません」

「分かったわ。特定作業を最優先。映像は二の次よ。続けて」


 画像は相変わらず安定しない。それでも映像範囲が次第に絞られていることは分かる。


 そしてついに“その時”が来た。


「対象者を特定! 繰り返す、対象者を特定した!」


 アナウンスが響き渡る。と同時にドーム中に歓声が巻き起こった。巨大モニターには町並みらしきものが映っていた。急速に範囲が狭まる。画面を横切るように道のようなものが映った。


 道の中心に黒いみのようなものがあった。縦に長かった。動いていた。もうだれの目にも明らかであった。あの染みこそが探し求めていた召喚対象者に間違いなかった。

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