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第六話

「おかえり、加藤くん――って、鈴原くんは一緒じゃないのかい?」


「それが、何度もノックはしたんですけど返事がなくて……。携帯にかけても出ないんで、どうも寝ちゃってるみたいです」


「ふぅん? まぁ、そういうことなら仕方ないね。それじゃあ、鈴原くんはあとで受けてもらうことにして、僕らは予定通り合宿恒例“推理力テスト”を開始しようか」


「よっ! 待ってましたっ!!」


 部長の言葉を受けて歓声があがる。

 けど、その声をあげたのはたった一人、朝塚先輩のみだ。


「――って、声あげたの俺だけかよ!? ちょっと三嶋先輩、せっかくの合宿なんだから、もっとテンション上げていきましょうよ!」


 朝塚先輩は、一人だけ声をあげてしまった気恥ずかしさを誤魔化すかのように三嶋先輩に声をかけるが――


「絶対に嫌」


 基本無口で感情を露わにすることが滅多にない三嶋先輩である。

 そんな彼女が『テンションを上げろ』と言われて素直に承諾するはずもなく、朝塚先輩の提案は、たった一言のもとに棄却されてしまった。


 それにしても、テンションの高い三嶋先輩か。

 見てみたいような、そうでないような……。


「そんでぶちょー、推理力テストって何するんですか?」


「言葉通りだよ。朝塚くんに推理力を試すためのテスト問題を作ってもらっているから、今から僕たちでそれを解くんだ」


「へー、なんかおもろそう!」


「だろ? 特に今回のは力作だからな。いくら作家先生を目指してる三嶋先輩でも全問正解は難しいと思いますよぉ?」


 自身の提案を一蹴されたお返しのつもりなのか、朝塚先輩は三嶋先輩を見据えて挑発的な笑みを浮かべる。

 対して三嶋先輩は――


「それは楽しみ」


 ――と、朝塚先輩の挑発などまるで意に介していない様子であり、その言葉とはうらはらに相変わらず無表情のまま、そう答えた。


「……テスト用紙配ります」


 朝塚先輩は不服そうな表情を浮かべるが、それ以上の問答は無駄だと察したのか、手に持った用紙を各々に配布していく。

 しかし、それは三嶋先輩、部長、八坂先輩に配り終えたところでピタリと止まった。


「そんじゃま、制限時間は今から一時間。問題を解くのはそれぞれの部屋でお願いします」


「え? え?」


「では、テスト開始ー!」


 困惑する僕をよそに朝塚先輩の号令がかけられ、テスト用紙を受け取った部長たち三名は、二階の自室へと移動し始める。

 そしてリビングには、状況が飲み込めない僕と秋森さん、それに朝塚先輩の三人が残る形となった。


「先輩、ウチらのテスト用紙は?」


 秋森さんの至極真っ当な質問を受けて朝塚先輩はしたり顔で笑う。


「お前ら一年は特別メニューだ。この俺が二人まとめて面倒見てやるからありがたく思えよ?」




 ※ ※ ※




「――犯人はAさん。Aさんは針と糸のトリックを使って密室を作りあげた……ですよね?」


 朝塚先輩の言葉通り、僕と秋森さんはリビングにて二人同時に推理力テストなるものを受けていた。

 なお、推理力テストなどという大それた名こそ付いているけど、やっていることは何のことはない。

 その正体は、短い推理問題を出されてはそれを解決していくだけの、要は二分間ミステリと呼ばれる類いのものだ。


「……ちっ、正解だ」


 少しの逡巡のあと、朝塚先輩は悔しそうに舌打ちをして答える。

 僕は今のところ、出された問題の全てに正解することに成功していた。


「すっご! 春やん、また正解やん!」


 軽く拍手をしながら、秋森さんは僕に賞賛の言葉を送ってくれる。

 褒めてくれるのは単純に嬉しいけど、少しこそばゆくもあった。


 それに、問題を作成した本人である朝塚先輩が目の前にいる関係上、あまり露骨に喜ぶことも気が引ける。

 現に、自信満々に用意した問題を、ここまで正解されるとは思っていなかったのだろう。

 朝塚先輩の機嫌はあからさまに悪い。


(かと言って、わざと間違えたりするのも何か違うしなぁ……)


 と、そんな事を考えていると、朝塚先輩が不機嫌そうな顔で声をあげた。


「おい、秋森。そういうお前はもうちょっと頑張れよ。まだ一問も正解してないじゃねーか」


「そんなん言われても、ウチには難しすぎる問題ばっかりで……」


「そ、そうか? やっぱり難しいか?」


 途端、朝塚先輩の顔が綻び、機嫌があからさまに良くなる。

 単純――だとは思うけど、きっと僕も状況が同じなら、やっぱり同じ反応を返しちゃうんだろうなぁ……。


「ただまぁ、そんな秋森には悪いが、次は今まで以上に難しい問題だからな。さすがの加藤もこれは絶対に解けねーだろうぜ?」


 朝塚先輩は、僕を見据えて不敵な笑みをこぼす。

 これは挑戦状だ。

 朝塚先輩は、僕に『解けるものなら解いてみろ』と、挑戦状を叩きつけている。

 僕は負けじと、朝塚先輩を見据えながら答えた。


「次の問題も解いてみせますよ」


 僕の返答に朝塚先輩は答えることはせず、ただ口角を吊り上げる。

 そうして出された問題は、次のようなものだった。


 ――ある研究所にて殺人事件が発生。

 被害者は研究所に勤めている化学者で、彼は自身のデスクでうつ伏せになって死んでいた。

 また、彼のパソコンには、ダイイングメッセージと思われる“SnPb”という文字が打ち込まれていた。

 容疑者は次の三人。


 すずな まり:被害者からセクハラ被害に遭っていた。

 はやし たかあき:被害者から借金をしており、返済を迫られていた。

 すなだ あつし:被害者と意見が食い違うことが多く、よく口論していた。


 さぁ、犯人は誰?


「――分かった!」


 問題を聞き終えた途端、秋森さんが勢いよく叫ぶ。


「ほぅ、どうせ違うだろーけど、一応言ってみな?」


「ダイイングメッセージに“Sn”って書いてあるから犯人は、Snで『すなだ』さん!」


 自信満々に答える秋森さん。

 対して朝塚先輩は、そんな秋森さんを馬鹿にするかのように大きな溜め息をつく。


「お前、“Sn”はそれで良いとして。じゃあ、残りの“Pb”はどうすんだよ?」


「え、“Pb”は……プ、プライベートブランド?」


「どこの小売業者だよ! ってか、お前、そんなんでよく自信満々に答えられたな!?」


「うぅ……春やん、助けて……」


 秋森さんは、涙目で僕に訴えかけてくる。

 脊髄反射で答えなきゃいいのにとは思うけど、何事にもぶつかっていくその姿勢は評価したい。


「はいはい、きっと被害者が“化学者”だってところがヒントなんだよ。あとは――」


 と、そこまで言ったところで朝塚先輩の方から、聞き馴染みのある音楽が聞こえてくる。

 それは喋り方に特徴がある刑事が主人公のドラマのテーマ曲であった。


「っと、すまん。メールだ」


 朝塚先輩は、ポケットから携帯を取り出してパカッと開く。


「お、優希のやつからだ。あいつ、寝坊しちまったもんだから、今頃慌てて――」


 と、朝塚先輩は、そこで一旦言葉を切る。

 見ると、何やら真剣な顔つきで携帯の画面を食い入るように見つめていた。


「先輩、どうかしたんですか?」


「――ん? あ、あぁ……」


 朝塚先輩は暫く考え込んだ後、何かを決心したように口を開く。


「なぁ、お前ら……これ、どう思う……?」


 未だ戸惑っている様子の先輩は、自身の携帯を僕らの眼前に突き出した。

 不思議に思いながらも、僕は鈴原先輩から送られてきたというメールを読んでみる。


「――っ!? 朝塚先輩、これは……!?」


 メールの内容を見た途端、僕は思わず驚きの声を上げてしまう。


「何々? 別れ話でも書いて――えっ!?」


 秋森さんも僕たちと同じように、驚愕の表情を浮かべる。

 そう、それほどまでに、鈴原先輩から送られてきたメールの内容は異質だったのだ。

 そのメールには、たった四文字で短くこう書かれていた。


 『たすけて』と――

本編中に出題された問題ですが、あえて正解を掲載していません。

よろしければ皆さま方も挑戦していただければと思います。


答えが分かった方は、メッセージなどでご連絡ください。

まぁ、正解したところで何も出ませんがw

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