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第十三話

 それは、部長と朝塚先輩が議論が交そうとする、まさにその瞬間のことだった。


「待って。推理云々の前に、私は事の始まりを知りたい」


 衝突寸前の二人の間に割って入るかのように、三嶋先輩がそんなことを言う。

 邪魔をされた朝塚先輩が激昂するかと心配したものの、そんなことはなく。


「……なるほど、さすが三嶋くん。僕もその情報は是非とも知っておきたいところだね」


 部長は部長で、三嶋先輩の言葉で普段の冷静さを取り戻したのか、険しかった表情を幾分か和らげて賛同の意を示した。


 そう、言われてみれば確かにその通り。

 三嶋先輩たちは途中から事件に関与したために、僕たちが鈴原先輩の異変を知るきっかけとなった、あのメールのことを知らない。

 ならば、事件の始まりに何があったのかを知りたいと思うのは、当然の欲求だろう。


「部長たちの言う通りだ。同じ事件の当事者として、共有されてしかるべき内容だと思うんだけど……どうかな、朝塚くん?」


 部長と三嶋先輩、そして八坂先輩は揃って視線を朝塚先輩に投げかける。

 対して朝塚先輩は、最初こそ複雑な表情を見せたものの、部長はともかくとして、三嶋先輩たちには情報の共有をしておくべきだと判断したのだろう。


「~~~っ、勝手にしろ!」


 そう吐き捨てるように叫ぶと、自分の席に勢い良く腰掛けた。


「ということだから、悪いけど加藤くん、お願い出来るかな……?」


「――は? えっ? 僕ですか!?」


 まさか自分に振られるなんて思っていなかった僕は、思わず間の抜けた声をあげてしまう。


「うん、だって彼があの調子だからね……」


 困った表情を浮かべながら八坂先輩は、朝塚先輩の方へと視線を向ける。

 その視線の先には、腕を組ながら不機嫌さを前面に押し出して、『あとはお前らで勝手にやれ』と暗に主張している朝塚先輩の姿があった。


 溜め息を一つ。

 確かにあの様子では、朝塚先輩は何も喋る気はなさそうだ。


 かと言って、まさか秋森さんに説明役を押し付ける訳にもいかない。

 ならば、僕がやるしかないだろう。


「……分かりました。じゃあ、僕の方からあの時のことを説明させてもらいます」


 今度は諦めと緊張と不安が入り交じった溜め息をつくことで意を決した僕は、部長たちに事件の始まりとなったあの出来事を説明するのだった。




 ※ ※ ※




「――なるほど、テストの最中に『たすけて』と書かれたメールが送られてきたと……」


「はい。あ、そうだ、朝塚先輩。実際のメールも見てもらった方が良いと思うんで、携帯貸してもらえますか?」


 僕の要望に対し、朝塚先輩は無言を通す。

 一瞬、無視されるのかと思ったけど、朝塚先輩は携帯で何かの操作を行ったあと、テーブルの上を滑らせるようにして僕に携帯を寄越してくれた。


「――おっと。ありがとうございます、先輩」


 受け取った携帯の画面を見ると、既にくだんのメールが表示されていたので、僕はそれをそのまま部長たちに見せる。


「それで、このメールを受け取った僕たちは、すぐに鈴原先輩の部屋に駆けつけました。暫くノックを続けていると、三嶋先輩が自分の部屋から出てきたんです」


「ん、時間は十六時四十分になる少し前だったと思う」


「ふむ、メールの着信時間が十六時三十二分だから、情報に齟齬はなさそうだね」


「その後もノックを続けたましたが、やっぱり反応はなくて……その、部長には申し訳ないんですけど、一旦は朝塚先輩と協力してドアを壊そうという話になりました。ただ、三嶋先輩にそれよりも合鍵を持ってきた方が早いと指摘されて――」


「緊急事態だったんだ、ドアの件は気にしなくていいよ。それよりも、丁度加藤くんが合鍵を取りに行こうとしたところで、僕と八坂くんがキミたちに合流したわけだね」


「はい。あとは、その……皆さんご存じの通りです……」


 みんなその後の惨劇を思い出したのだろう。

 暫くの間、リビングには沈黙が訪れる。


 しかして、その沈黙を破ったのは――


「――なぁ、もういいか?」


 やはり、朝塚先輩だった。


「これで分かっただろ? “犯人”が外に逃げた形跡がない以上、この中の誰かが優希をやったってことだ……! 俺と加藤、それに秋森は事件発生時に一緒にいたっていうアリバイがあるが、他にアリバイを証明できるやつはいるか!?」


 朝塚先輩の問いかけにより、リビングに再び沈黙が訪れる。

 当然だ、その時間帯はみんなそれぞれ自分の部屋でテストを受けていたはずなのだから、僕たち以外にアリバイがある人などいるはずがないのだ。


「まぁそうなるよなぁ? なら、容疑者はアンタら三人に絞られるわけだ! じゃあ、“犯人”はこの中の誰だ? ――考えるまでもねぇだろ。事件現場が密室だったことから、三嶋先輩と八坂には犯行は不可能……。そう、“犯人”はこの別荘の合鍵を自由に使える立場にある、アンタしか考えられねぇんだよっ!!」


 そう言って朝塚先輩は、部長を指さす。


 正直、朝塚先輩の推理は、推理とも呼べない、ただの消去法だ。

 だけど、現時点では犯行を行うことが可能だったのは部長ただ一人である、という一点においてのみは紛れもない真実だった。


「――ちょ、待って!」


 朝塚先輩の言葉に反論の声があがる。

 その声の主は部長ではなく、意外にも今まで沈黙を守っていた秋森さんだった。


「合鍵って、あの戸棚に入ってるやつやろ? ウチらずっとリビングにいたし、春やんが合鍵を取り行く時に部長も一緒やったけど、春やんの目を盗んで201号室の合鍵を戻したなんて考えにくいと思うねん。そやから、部長は合鍵を使うことは出来ても、元の場所に戻すことは不可能やったんちゃうかな……?」


 恐る恐る僕たちの様子を窺う秋森さん。

 なるほど、秋森さんの言っていることは正しい。


 確かに部長は、あの()()()()()()()合鍵を使うことは出来ても、元の場所に戻すことは難しい状況にあった。

 それは間違いないだろう。


 ――だけど、秋森さん。

 そうじゃない、そういうことじゃないんだよ……。


「ハッ、名推理だな秋森。ただ、残念ながら、お前は一つ勘違いをしてるぜ」


「……え?」


「誰があそこにある合鍵を使ったなんて言ったよ? ここは部長が所有する別荘なんだぜ? 他の合鍵なんていくらでも作れるし、それこそ全部屋の鍵を開けられるようなマスターキーを持ってたって、おかしくねぇだろーが!」


 そこまで考えが至っていなかったのだろう。

 指摘を受けた秋森さんは、『あっ』という声をあげると悔しそうに俯き、そのまま黙りこんでしまった。


「……誓って言おう。僕は他の合鍵はおろか、マスターキーなんて持っていない。なんなら身体検査だってしてくれて構わない……と言いたいところだけど、そんなことを言っても無駄なんだろうね」


「そりゃそうだろ! アンタがそんな一発で犯人だってバレちまうような危険なもんを、律儀にいつまでも持ってる訳がねぇ。今、持ってないからって、アンタを信用する理由にはいっさいなんねぇよ!」


「まぁそうだろうね」


「ハッ、そんじゃま、そろそろ聞かせてもらいましょうかねぇ。俺の根拠を否定するアンタの推理ってやつをさぁ!」


 そんなものがあるはずがない、自分の推理に間違いはない――そう朝塚先輩はたかをくくっていたのだろう。

 事実、僕もこの状態から何かを反論するのは至難の技だと思っていた。

 だけど――


「分かった。まずは物的証拠からいこうか」


 僕たちの予想に反して、部長はいとも容易く、朝塚先輩の要求を飲むのだった。

さて、ようやく推理パートに入りました。

あとはヒントを散りばめつつ解決パートに進むことになるのですが、

現状でもこの事件の“犯人”を推理することは十分に可能です。


もしよろしければ皆さまの推理や、軽い予想などでも結構ですので、

是非とも感想欄に書き込んでいただければと思います。

皆さまの挑戦、心待ちにしております。

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