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主君は叩き上げ

私:「襲撃されるところまで追い込まれた原因は三成にあるのでしょうか……。」

所員:「あなたのこれまでの職務経歴からそう思われますか?」

私:「三成に決済する権限が与えられていれば某かの原因が彼に存在することになるのでありますが。たぶん彼にそのような権限は無かったと思われます。最終決定を下すことの出来る人物は一人。三成の主君である豊臣秀吉であったと思われます。」

所員:「秀吉と言いますと、一代にして丁稚奉公から天下人にまで登り詰めた人物。そのようなかたと仕事をされた経験は……。」

私:「最初の職場のトップがそうでありましたね。」

所員:「どのようなかたでありましたか?」

私:「一言で言いますと、学歴云々とは異なる『頭の良さ』を持たれていました。ただ……。」

所員:「……ただ……?」

私:「この人に付いて行ったら(……おれ。逮捕されることになるかも……?)とも思わせるかたでもありましたね……。」

所員:「具体的には?」

私:「『再就職に不利になる事項について面接では述べなくても良い。』と謳われておりますし、個人的にも(……これは墓場まで持って行かなければならないことだよな……。)と思われることであります故ご勘弁を。」

所員:「秀吉にも似たようなことが無きにしもあらず。でありますし、また秀吉がやることがまたやることでありますので、その要求を滞りなく実行に移さなければならない間接スタッフとしてサポートする立場でありました三成は大変であったと思われます。加えて三成は、織田時代からや、秀吉恩顧以外の各大名との外交窓口を担っておりましたので、豊臣家のやりかたのレクチャーや大名家で問題が発生した時の処理なども同時並行で担わなければならない立場にありました。もっともそのことによりまして、関ケ原の時に。あれだけの動員が可能となったのではありましたが。」

私:「その秀吉の要求事項は国内だけに留まらず。」

所員:「秀吉の主君であります織田信長以来の夢であります大陸進出の仕事も三成に課せられることになりました。」

私:「コンピュータなんか無い時代ですよね。」

所員:「助けとなる唯一の計算機は算盤でありましたし、記録に残すためには筆で字を書かなければなりません。勿論印刷機など存在しておりませんので複数枚必要な時は同じ文言をその都度必要枚数手書きしなければなりませんでした。しかも三成は実際に朝鮮半島に渡り、いくさを。それも不利な戦況となった中で経験しています。」

私:「真っ黒な職場でありますね……。」

所員:「でもまだその頃は良かったのであります。秀吉自体がまだしっかりしていましたので。そんな秀吉の判断を狂わせる出来事が、日本で発生することになります。」

私:「秀頼の誕生でありますか?」

所員:「ただ単に秀頼が誕生していれば良かったのでありましたが、秀吉は秀頼誕生以前の段階で既に関白の地位を甥である秀次に譲っておりまして……。」

私:「実の子である秀頼が生まれた以上。息子の地位を脅かす危険性のある人物は排除しなければならなくなった。と……。」

所員:「理由はどうであれ秀吉は秀次に謀反を罪を着せ高野山へ放逐し自害へ追い込むと共に、秀次と生活を共にしていた妻子などの全てを処分。その間わずか一ヶ月。当然その任務にも三成は携わることになるのであります。そんな中、明からの使者がやって来ます。」

私:「嫌な予感がしますね……。」

所員:「秀頼誕生以前に一度目の朝鮮出兵は一応終わっておりまして。お互いの顔を潰さないよう……。秀吉に『明は降伏しましたよ。』嘘をついて矛を収めさせたのでありましたが……。」

私:「もしかして……。」

所員:「……その嘘がバレてしまいまして……。再度の渡海を余儀なくされることになるのでありました……。そのための船の造船や、その頃伏見が地震に遭いまして。その再建工事。勿論兵や物資を半島に輸送しなければなりませんので、その手配の仕事が三成に舞い込んできました結果。三成は過労のためダウン……。」

私:「(……悲惨……。)」

所員:「その時の愚痴が真田信之に宛てた書状に残されております。なんならその時期の三成に転生して頂くことも出来ないわけではありませんが……。」

私:「……謹んでお断り申し上げます。」

所員:「で。朝鮮に兵を送りました。目的は前回の大陸進出ではなく、秀吉自らの要求を全て無視して来た明に対する腹いせであります。」

私:「その捌け口にされた朝鮮半島のかたがたは……。」

所員:「同じことは派兵された各大名にも言えることでありまして。いくさには勝つのではありますけれども、だからどうなるわけでもありません。更に悪いことにその様子を秀吉は日本にいたため、直で見ているわけでは無かった。まぁこう言うことはよくあることでありまして、戦いの様子をチェックする担当官が現地に派遣されることになります。彼らが逐次現地と日本の間をやりとりすることになるのでありましたが。」

私:「現地のことは現地でしかわかりませんからね……。」

所員:「『秀吉の言う構想には無理があるからこうしましょう。』と言う現地からの報告に秀吉が怒ってしまいまして。蜂須賀などの大名を秀吉が処罰してしまい……。」

私:「これが秀吉後。秀吉恩顧の大名が挙って家康に奔ることの遠因となった。と……。」

所員:「ここであなたに質問があります。会社でこう言う酷い目に遭った従業員はどのような心情になるでしょうか?」

私:「経験上のことでありますが、トップが悪いことはわかっていたとしましても。トップの判断力が既に機能していない。過去トップ自身が現場で体験した苦労を忘れてしまっていたのであれば、そのトップに何かを伝えることは続けるにせよ辞めるにせよやらないほうが傷口は浅くて済ますためにもやらない。だからと言って捌け口は欲しい。その捌け口が何処になるのか?を思い巡らせていきますと辿り着くのがトップの傍らにいる人物。この場合ですと石田三成になる。」

所員:「実際、小早川秀秋は秀吉から叱責を受けるなり三成を追い掛け回すことになるのであります。その際、善意の第三者として取り成したのが。」

私:「……徳川家康であった。と……。」

所員:「家康がこう言うことが出来たのは勿論家康自身の国力があって初めて出来ることでありまして、謂れのないレッテルを三成は貼られることになったのでありましたが、三成の力では秀吉をどうこうすることは当然出来る芸当ではありません。」

私:「だからこそ秀吉には言うことの出来ない恨みの全てをぶつけられてしまったのでありますね……。そう思いますと果たして……。」

所員:「果たして……?」

私:「秀吉の死因は本当に病死だったのでしょうか……。」

所員:「三成が……とでも言うのですか?」

私:「秀吉からの実害の無い三成では無いでしょう。でも信長程ではありませんが、秀吉も狙われて不思議なことではありませんね……。」

所員:「それだけトップは大変なんでありましょう。実際のところはわかりませんし、知りたくもありませんが……。」

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