始まり
世界の話をしよう。
100年で全てが変わった世界の第一歩。一つの歴史の誕生。ここは《ヴァルバー》。世界はそう呼ばれている。
この世界は創造主と、その創造主によって生まれた《エルフ》や《獣人》といった、いわば亜人と相当する《ヴァルバー原族》と呼ばれる人間とは似て非なる種族だけが静かに暮らしていた。以降の話では《原族》と呼ぶことにする。
なぜ、創造主がそうしたのかは、当時の《原族》も知らなかったが、創造主は絶対誰も争いを好まなかったし、逆に友好を深める事に努めていた。その上で、住みやすい環境、魔法をというものを与える。
《原族》は創造主に感謝の意を示すため、衣食住の提供はもちろん、《原族》の女を供物として渡していった。当時の《原族》にとって神のような存在になった創造主は、時が経つにつれて欲が強くなっていく。その影響からか、次第に《ヴァルバー》にちょっとした歪が生まれた。誰にも気づかれずに違和感も覚えない程の静けさで、しかし着実に大きくなっていた。
そして、それは起きた。
突如として、10メートル程の謎の大きい穴が一つ、また一つと各地に開いたのだ。当時はどう呼んでいたか分からないが、その穴はこちら側の言葉では《ポータル》と名付けられている。《ポータル》の周辺は物体が歪んで見え、全く光を通さず、一寸先は闇という文字通りの漆黒の大穴。
その圧倒的な存在感は誰も近寄りがたいものだとハッキリと分かり、皆が何事かと騒ぎ始めていた。ある者達は恐怖し、ある者達は怯えて涙を流したりと阿鼻叫喚な状況だったという。
事態は続く。《ポータル》から"何か"が出てきたのが見えた。最初は何が出て来るのか全く予想できなかったが、まず見えたのは指先の形をした物体・・・というより指先そのものが見えた。指先から指の付け根、付け根から手首までと順に見えてきたが、それは《原族》と同じ手だった。後から続く腕、胴体、顔・・・何から何まで、その何か、まるで我々と同じような存在だと《原族》はかろうじて考えることはできたが、それでも唖然としながらその光景を眺めていた。
石のように動かなかった《原族》達は次第に平常心を取り戻し、すぐさま"何か"に警戒して矛を向ける。
矛を向けられた"何か"とは、後に《サフィエンス族》と呼ばれる異世界から来た人間あった・・・。