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メザメ/目覚め


運び屋、という職業にどのような印象を受けるだろうか、黒猫だろうか?サガワだろうか?大穴でカンガルーという線もあるだろうか?

まあ、そんな平和なコロニーにある宅配のようなものではなくどちらかといえば映画のような犯罪ちっくなものが多い気がするが…いや、実際のところどうなのかについては全く知らない、何せ気にしたこともなければ気にされたこともないからだ。

少なくとも一般的な運送業と言うのがどういうものかもこの世界では怪しいものだし同業者の知り合いはいれどどいつもこいつも何をやってるかは話さない、そういう仕事だと言えば説明として的確だろうか?



早朝、安宿の自分の部屋に向けて行ってきますと言って寂しい寂しい一人旅の再開を自分の中で宣言する。

少なくとも一人でやるような簡単な仕事でないのは確かだがしかして一人でできなくもないというのが正直なところである。


「えーっと?トリタチカオルさん、でいいのかい?」


「ああ、はい、それですね。」


久方ぶりに、正確に言えばつい昨日のチェックイン時ぶりに自分の本名を他人に呼ばれさらにはそれを自分で正しいかどうか正誤の判定をすると言うある意味不毛な、どう考えても必要であるとは思えない作業じみた会話をして鍵を返却、同時にガレージの鍵を受け取る。


話すときはなんとなく下ろしていたバッグを背負い直し外に出る。


職業柄見慣れてしまった朝の薄霧、ジメッとしてようでどこか爽やかな青臭さを感じる光景に先行きが不安になるが朝というのはこういうものであるというのがなんとも悲しい、というか何が悲しくて視界不良の中出発せねばならないのだろう。


「期限のためだなぁ…」


こういう自己完結してしまう会話(謎)は一人での生活が長いからか、それとも俺が寂しい人間だからなのか癖となっている。



アスファルトではなくコンクリートのよって舗装された道を走るのはクラシックな車とモダンな健康志向のランニングマン、人里であるが文明の薄い片田舎、いわゆるカントリーサイド的な光景を見ながら商店でジンジャーエールを買って飲む。


ボシュンだか、ポキュンだか冠によって密閉されていたビンの容器から空気が抜けふたが開く。蓋と瓶はキチンと洗って買った商店に返せば払った代金の一部が戻る。ケチだがやって損はない・・・別に人との会話成分を補給するとかそんな高度なボッチスキルは持ち合わせていないので悪しからず。


ビンとキャップを返しようやくでてきた太陽に霧が晴れて行く。どうやら快晴らしいどうにも仕事日和だがぶっちゃけ雨でも降ってくれた方が配達が遅れる理由として利用できまた一日中ぼんやりと日雇いの仕事が出来る。そうすればうまい飯と温かい寝床にもう一日滞在できるというのに…


「厄日か?」


「あにいってんだ?兄ちゃん?給油も整備も終わってんぞ?」


昨日ぶりの相棒を見る。

黒い塗装、煌めく銃口、ほぼ剥き出しの乗り手の席、必要のなさそうな助手席、


「ああ、完璧だ。弾は?」


「サービスだ。整備代の中に入れといたよ。」


工場の独特な匂いとタバコ臭くて石油くさい上に汗臭いと言う三重コンボのおやっさんに少々顔を顰めざる得ず。虫除けのハッカ油を染み込ませたタオルを取り出し礼を言う。


「ありがとよ、とりあえずお前は誰だ?」


俺はタオルとともに取り出された至って標準的なサブマシンガンのように見える銃器を向けられ慌ててナイフを構えようとする石油と汗とタバコに隠れて血の匂いを振りまくバカ、勿論避ける間も与えずその眉間にソレから発射される銃弾を撃ち込む。


反動にはもう慣れたが徐々に生気を失う死体を見るのは慣れたくない、俺は相棒から取り外されていた部品を付け直し載せられていた爺さんの死体を下ろして長袖のコートに隠れた腕輪型の量子変換器を使用、相棒を仕舞い込み金属的な光沢を放つ科学力の全盛期と呼ばれた『変動前』ではMPK−5短機関銃と呼ばれていた別物を液体の入った黒いケースに仕舞い込みバッグに仕舞う。

そのあと軽く身だしなみを整えていると自警団員と思しき青い制服を着込み帯剣した集団がやってきた。


「動くな、両手を上げてバッグを下ろせ。」


「・・・」


こうして俺は血がゆっくりと蒸発するような匂い立ち込める整備場からようやくやってきた自警団に重要参考人としてお話をしてもう1日ここに厄介になることになった。



コンクリと鉄の檻というThe・檻とでもいうべきベッドとトイレと水道のあるちょっと豪勢な部屋にバッグと銃を持ち込みベッドの上で寝そべる。


「とりあえずちゃんとした自警団で安心した。」


場所によっては俺の相棒を狙ってくる外道やらとりあえず人をぶっ殺したいトリガーハッピー野郎など様々なクズにあふれているこの世界、巨大な川や森林地帯を抜け高速移動できる飛行機を持つ運び屋と言うのは狙われやすい、残念なことに一度文明は滅びかけただけはあり、なかなかに世紀末と言える情勢のこの世界、観察と違和感への警戒は必須技能だ。


「暇だなぁ。」


どうやらあの整備場を襲ったバカはこの辺では有名な山賊紛いらしい、その構成員の中でも下っ端である彼を捕らえたところでどうしようもないし、それならあのバカの死体を使って見せしめをした方がまだマシという結論に至ったらしいここの自警団員の皆さんは俺に多少の謝礼と言って干しバッタの塩ずけ肉と金を渡し一応この拘置所に保護してくれた。


「・・・・」


ガタガタと震えるバッグを開き中をまさぐる。

バッグの中身の大半は依頼主の運んで欲しい物でいっぱいだ。そしてほとんどはこのコロニーの先にあるミニトウキョウへの品物だ。

代金は前払いのものもあれば着払いのものもある。強いて言えば着払いの場合は報酬があるかどうかはかなり怪しい、この前だってこのハッカの香りがするタオルとハッカ油少々そしてハッカ飴と言う嫌がらせじみた贈り物をもらった。

まあ、ハッカ飴はその隣町で超高値で買い取ってもらえたのでむしろプラスだったがね。


俺は黒い容器を取り出し、その中から暴れる銃を取り出しタオルで拭いてやる。最近はハッカ油で磨かれるのがマイブームらしいこいつを空っぽだった腰のホルスターにいれトントンと叩いてやる。

しばらく撫でてやると動かなくなり俺のものでない寝息が聞こえてきた。

俺もそれにつられてベッドに身を任せたのであった。



「トリタチカオル!釈放だ!」


「む、えーい。」


気がつけば外の見える青空は白んでおりよく見れば太陽は中天近くもう昼近いようだ。どうやら昼寝してしまっていたようだ。


「ひとまず今回の市街地での発砲は不問としますができるだけ生きたまま捕らえていただきたいですね。」


「寛大な処置感謝します。」


「では、頑張ってください『運び屋』殿?」


俺はゆっくりと対面に置かれた椅子から立ち上がりバッグを背負って飛行場へ向かう。



閑話休題



とりあえずこれからの予定を考えねばならない、


「今日は山賊紛いに襲われて自警団に捕まっていた。」


ちなみにそう言う文言を書かれた文書ももらっている。そう言うところに抜かりはないのだ。


「今から出発したとして、陽が落ちた後ライトだけで大丈夫だろうか?」


いや、恐らく大丈夫ではない、外は昆虫や鳥など恐ろしいマモノでいっぱいなのである。…まあ、ここも安全とは言い難いが武装した警備や据え置き型の兵器があるので俺が逃げるまでの時間くらいは稼げるだろう。


色々悩んだ結果は『行くしかねえし、アッチには結界と呼ばれる電磁波照射型のマモノ避けが張り巡らされているので強行突破しても大丈夫』だろうと言うものだった。


…良くも悪くも楽観的だが高度文明の残りが香るこの世界ではそれくらいの無茶は日常だ。

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