灯台下暗し
短編小説(読み切りみたいなもの)です。
ラブコメ? いいえ、ただの青春恋愛物語です。
「また声かけれなかった・・・」
休憩時間の終わる予鈴の音とともに席に戻る。
「あっそ」
「声をかけようとしたらいつも誰かが横にいて、近寄れないし、あんなイケメンに声をかけようとしたら私、呼吸すらできなくなって逃げてきた」
思い出して赤面する顔を両手で隠した。
「なんで逃げるんだよ。普通に声かければいいじゃん」
「小野寺くんには分からないだろうけど、乙女は本命の人を前にすると喋れなくなる生き物なんだよぉ」
「イマイチよくわからん」
「だからこうやって小野寺くんに相談して、協力してもらえないか交渉もしてるのにしてくれないし~」
「いやいや、人の恋愛に俺が足突っ込みたくないし、それに・・・」
「藤澤くんと幼馴染ならなんかこう、してよー。私の気持ち知ってるくせに~」
「勝手にやってろ」
次の授業のチャイムがなってみんなが席につく。
私、神崎柚羽は秋風高校に通う二年生。そして私の恋愛相談にのってくれている同じクラスの小野寺樹。私達は高校一年の時にクラスが同じで席が近くだったことから仲良くなった。
「私のどこに欠点があるっていうんだろう」
「そういうところじゃないのか?」
「そういうところってどこよ?」
私が告白しようとしているのは違うクラスの藤澤秀樹という超絶イケメンでとても優しい人だ。初めて会ったときに一目惚れしたのがきっかけだ。
「幼馴染の俺が言うけど、お前は藤澤のタイプじゃない」
「えっ?! どうしてそんな自信もっていえるの? 根拠でもあるの?」
「うん。ある」
「なによ??」
「俺は藤澤の幼馴染だから」
「んーーーー! それ理由になってない!!」
私達の会話(?)はヒートアップしていた。
私は小野寺くんが藤澤くんの幼馴染だと知ってから、幼馴染ならばきっかけを作る協力をしてほしいと思って私の気持ちを話した。
でもなぜか小野寺くんは拒否をする。頑なに。
「そもそもなんで最初からそんなに否定的なの?」
「だからいってんじゃん。お前は藤澤のタイプじゃないんだって」
「んじゃ藤澤くんのタイプ教えてよ! がんばるからさ!」
「いっていいんだな?」
ごくり。私は息を呑む。か、覚悟はできている!
どんなタイプがきてもできるものなら近づきたい!!
「まず、清楚で静かで・・・あとお姉さんみたいな感じの人かな」
まって、自分と真逆じゃん!!
小野寺くんさては嘘ついてる?
「嘘じゃないぞ。藤澤の好きになった人ほとんど年上だし」
「ガーーン!!」
「だからやめろっていってんじゃん」
少しショックだった。自分で直せる部分は直す自信はあった。でも年齢には勝てない。
「じゃじゃ大人っぽくなればいいってことかな!」
小野寺くんは呆れ顔で大きなため息をついた。
「・・・お前、諦めなよ」
いつもと違う声のトーンでいう。つまり本気なんだ。
「私の気持ち、そんなかんたんに壊せないよ?」
本当に好きだから。諦めたくない。
そう思う気持ちを全面否定はされたくない。
「分かった。じゃあ、これが最初で最後だ」
そういって小野寺くんはスマホを出して誰かに連絡している。
「何してるの?」
「今日の放課後、お前時間あるよな?」
「う、うん」
「藤澤に時間もらうから、お前のその本当の気持ちってやつを伝えろ」
「え!! ほんとに??」
「ああ」
少し怒っているようにも見えたけど、やっぱり小野寺くんは優しい。
「その代わり、これで最後だからな」
「あ、ありがとう! ほ、ほんとに!」
私の手は少し震えていた。緊張する。どうしようどうしよう。
なんていえばいいんだろう。ストレートに「好き」いやいやいきさつを話せば、いやいやうざがられるし~こんな急に言われても~!
「この機会を逃したらお前、もう話せないって思っとけよ」
「うっうん!!」
その後の授業は全然頭に入ってこなかった。
早く放課後が来てほしいような来ないでほしいような。考えただけで手汗もやばかった。
放課後、教室まで来てもらうように伝えたと小野寺くんは言ってくれた。
「で、なんで小野寺くんは帰らないの?」
「そりゃ神崎が呼吸困難になったら助けないとだろ?」
「ん?」
どういう意味かわからなかったが、見守ってやるよって意味なんだと私は解釈した。
席に座って藤澤くんが来るのを待つ。この時間がどうしてもいたたまれない。
隣に座っている小野寺くんはずっとスマホを見て誰かとラインをしているようだった。
「も、もうくるかなー?」
「どうだろうなー」
「廊下の足音聞こえるだけで心臓バクバクするー」
「ていうか、一目ぼれで好きになったって言ってたけどさ、その後なにか接点会ったわけ?」
「な、ないよ! 私の一方的な片思い!!」
「ないんかい」
小野寺くんが珍しく軽く笑った。ちょっとびっくりした。
「だ、で、あの、話せたら、もう、いいかもしれない」
緊張しすぎて何を言っているのか分からない。早く来てほしい。
「あ、返事来た。いま運動場にいるってさ」
「??」
「行くか」
なんでココに呼んだんじゃないの? 私は疑問を持ちながら小野寺くんと運動場に向かう。
「なんで運動場なの?」
「お前さ、藤澤のこと、なになにしってるの?」
「超絶イケメンでとても優しい人。初めて会った時にね、私廊下でプリントをバサーって落として、それを拾ってくれたの。その時の優しい顔が忘れられなくて、私の恋も落ちちゃったの」
「うん、面白くないね。で、それだけの接点なんだろ?」
「う、うん」
「ていうことはさ、藤澤からしてみれば神崎はどこかであった同学年の子という感覚なんじゃないのか?」
正論だ。私の一方的な片思いだもん。藤澤くんが私のことを覚えているかどうかは分からない。だんだん不安になる。気持ちを伝えることはかんたんだ。私が勇気を出せばいいだけなんだから。でも相手にしてみれば? どちらさま?と思われたら?
「小野寺くん・・・」
「何?」
「あの、ね!」
私は彼に話しかけそうになった時、視界に入ってきたのはサッカー部の練習姿だった。
「サッカー部、だったんだ」
「お前、藤澤がサッカー部なの知らなかったのか?」
ううん。知らない。私、知らなかった。
そして視界に入っている藤澤くんは女性と話していた。
「あれ、だれ?」
「あの人、三年のマネージャー」
「え、てことは」
「うん。藤澤の彼女」
私は頭が真っ白になった。待って、私、私が好きになった人は誰?
一目惚れして、一日一回見かけられたらそれで嬉しかった。声をかけたいけどかけられない雰囲気だったから一歩進むことができなかった。
友達に相談したかったけど、みんなかっこいいよねって言ってたからそんな中で私あの人すきになったなんていってしまったら、バカにされると思った。
「お前さ、本気だったわけ?」
小野寺くんがズバっという。
「ほ、本気だった・・・」はずだ。
「お前の好きは、ほらあれだ、有名人を好きになる感覚と同じなんじゃないのか?」
小野寺くんの言葉があまり頭に入らない。何を言っているのか分からない。
「要はそれは本気じゃないってことだ」
確かに傷ついている。でも涙はでなかった。きっとそう、私は心の何処かでそうなんじゃないかって、叶わないんじゃないかって、思っていたのかもしれない。
「帰るぞ」
そういって小野寺くんは私の頭をポンっと叩く。
私はずっと喋らず帰った。小野寺くんがこの空気に耐えられなくなったのか話し始めた。
「神崎が藤澤のことが好きだから協力してほしいって言われたときさ、あぁこいつホントに好きなんだなっておもった」
「え?」
「でも、だんだん話を聞いていくうちに、なんか無性に腹が立った」
「どうして?」
「お前が楽しそうに話す反面、結果は分かっていたから。本当ははじめから言っておけばよかったんだけど」
そうだ。私が相談に乗ってほしいと言った時点で藤澤くんに彼女がいるって言ってれればよかったのに。
「そうだよ。言ってく小野寺くんにこんなにお世話になることなかったのに」
そう言うと小野寺くんは少し間をおいて話す。
「・・・そうでもしないとお前と話せないだろ」
「???」
私は首をかしげる。
「どういうこと?」
彼は大きなため息をついた。
「灯台下暗し、だよ」
ますます意味がわからない。何が言いたいのか
「はっきり言ってくれないと分からないよ??」
「・・・この鈍感娘」
そういって今度は私の頭をワシャワシャかき乱した。
小野寺くん、こんなことする人じゃないのに。あ、分かった!
「んもー髪の毛ぐちゃぐちゃ! でも、ありがとう、励ましてくれて」
お礼を言ったのに、彼の顔は少し怒っていた。
「はぁ~。先が思いやられる」
「だーかーらーなんで怒ってるの??」
小野寺くんがよく分からない。でも、藤澤くんとは違う優しさを感じた。
「気づけか無いお前がわるい」
そういって彼は先に進む。
「ちょ、待ってよ~!!」
私は彼を追いかける。
失恋はしたけど、小野寺くんとの距離だけは保とうと心の何処かで
私は思っていた。
彼の潜めている気持ちを知らずに。