婚約破棄の裏側 ④
不定期ですので、こういう場合もあります。
本日、二話投稿をしました。
「賢者いいじゃん、賢者。何?賢者に不満?」
「いいえ、賢者称号をいただけること自体には何も、不満はありません。」
「じゃあ、なんで?」
「あなたが気に食わないからです。」
「「「お嬢様?!」」」
使用人が悲鳴に近い声を出す。
「あらら、やめてあげなよ。彼らがかわいそうだよ?」
「はぁ」
マリアベルは、ため息をつく。
「あなた達、人払いを。」
「ですが!」
「私の言うことが聞けないの?」
そう言って、マリアベルは使用人たちを見る。いや、睨んだ。
「失礼します…。」
侍女長が一礼し、他の使用人も礼をして、扉から離れていく。
「ルーテ、あなたも」
「しかし!」
「ルーテ?」
「っ」
マリアベルが、微笑みながら言えばルーテは不肖不肖、部屋を出ていき、扉を閉めた。
そして、部屋の中は、マリアベルと少年と傲慢の使徒である黒い球体だけが残った。
「この後の結末を君は知っているんだろう?」
「ええ、そうですね。私は、リヒト様に婚約破棄をされるのでしょうね?」
「うん、『傲慢』のが見た未来で、君はその王子に婚約破棄される可能性が大きい。」
「可能性?」
「そう、可能性。『傲慢』が見た未来は、所詮未来の可能性にすぎないからね。」
「それは、どれくらいの確率で当たるのでしょう?」
「九割九分ほどだね。」
「それ一般的に十割なのでは?」
「はは、そうだね。だから、僕の提案受けない?」
「例え婚約破棄をされたとして、私が侯爵家から追放される可能性はあるんですか?」
「その可能性も見えたらしいよ。」
「それも、九割九分で当たる未来ですか…。」
「うん。君が、こちらの誘いに乗ってもこれは変わらないよ。」
「賢者でもですか?」
「賢者でもだね。て言うか、賢者だからこそ、侯爵家から追放させることになる。」
「させる?」
「だって、この国は『博愛』の領域だからね。
ね?『博愛』?」
「ええ。申し訳ありませんが、私たちの協定により追放することになります。」
そう言って、少年はズボンのポケットから水晶を取り出す。その水晶は青く光り、女性の声が水晶から発せられる。
「使徒様?」
「ええ、初めまして、マリアベル・フベ・クオリスギーベ。声だけでごめんなさいね。」
「いいえ、使徒様はご多忙の身。
それに、使徒様が市井に姿を見せれば大きな騒ぎになります。」
「ありがとう、マリアベル。」
「ねぇ『博愛』。君からも言ってくれない?」
「マリアベル。『怠惰』は確かに見た目幼いし、口は悪いし、生意気だし、働かないし、いろいろ残念だけど、あなたのその膨大な魔力を操作するには、“賢者”の称号はある方がいいわ。」
安心を与えるような声で、水晶の声はなかなかひどいことを言う。少年は落ち込み、マリアベルは微妙にドン引きである。
だが、博愛の使徒は続ける。
「使徒の配下の称号は、ただの形のみではないの。使徒は、配下を強化することができるのだけれど、強化の形は称号によって違うの。賢者の称号は、魔力操作の向上などがあるわ。」
「魔力操作の向上…。使徒様は、私に出て行って欲しいのですか?」
マリアベルは、ドン引きしながらも、声を絞り出した。
「いいえ、そうではありません。『傲慢』の未来視はほぼ確定。私の賢者の称号はもう与えている者がいます。あなたも、私の大事な守るべき民です。故にこれが最善としか言いようがありません。」
「使徒様でも、未来の改変はできないんですね…。」
「私たちの力は、万能ではありませんから。」
「で、どうする?」
さっきまで落ち込んでいたくせに、今はにやにやしながら尋ねる少年改め『怠惰の使徒』。
「その顔はムカつきますが、それしかないのでしょうね。」
「ごめんなさい。あなたの未来に幸あらんことを…。」
そうして会談は終わり、二年後婚約破棄を受けるまで、マリアベルの膨大な魔力の暴走を防ぐために、魔力を吸収する腕輪を付けたり、マリアベルは魔力の扱いを上達するべく努力を続けた。
その過程で、『怠惰の使徒』が彼女に失われた第八番目の属性である『空間』の魔法、転移を教えたのは、ご愛嬌である。
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