婚約破棄の裏側 ②
遅くなりましたが更新です。
リヒト・デジ・シャルテ…
メリアル・フベ・クドレンデシカ…
そして私、悪役令嬢マリアベル・フベ・クオリスギーベ…。
豪華なベッドで目が覚めた私の頭に、多くのこれから起こるであろう未来の情報があった。
「あぁ、そっか。なるほど思い出した…、思い出したわ。」
私こと、マリアベル・フベ・クオリスギーベは、そう“思い出した”。今日の昼に、私の婚約者、リヒト・デジ・シャルテ第一王子様から手紙が届いた。その内容を読んだとき、私の頭に痛みが走った。余りの痛みに立っていられなくて、気を失ってしまうほどに…。
不意に鳴り響くノックの音。恐らく、私付きの侍女が来たのだろう。
「はいって…。」
「失礼いたします。お目覚めになられたようで良かったです。」
そう言って、私の部屋に入ってきたのは、私付きの侍女ではなく、このクオリスギーベ領主館で働く侍女達の長たるメガリアだった。
「ええ。ところでメガリア、私が寝込んでどれくらいの時が過ぎたのかしら?」
「およそ、七刻半程かと。」
「そんなに…。」
確かに、手紙を受け取ったときは中天より東寄りだった太陽が沈んで、夜の帳が降りている。
「お嬢様、ご夕飯はどうなされますか?」
「ごめんなさい、食欲が無いの、軽めのものを頼めるかしら?」
「かしこまりました。料理長にはそのように。」
「入浴の準備はできているかしら?」
「はい。今すぐにでも入れるようにできておりますがどうなさいますか?」
さすが、侯爵家の侍女長ね…、寝起きの私に対して顔色変えることなく、こちらの要望に叶えるために行動をしているわ。二年後にはここから出て行かなければならない身としては、うらやましい限りだわ…。
「お嬢様?」
いけない、観察に集中しすぎていたみたい…。
「ええ、今から入るわ。ちょっと考えたことがあるから」
「分かりました。どうぞごゆっくり。」
そう言ってメガリアに案内されたのは、浴槽に対して大きすぎる部屋。浴槽が、私が足を伸ばしても余裕があるほどの大きさに対して、部屋の大きさは教室ほどの大きさがある気がする…。
さて先ず考えるべきことはなんだろう?思い出した記憶について考えるのが妥当かな?
思い出した記憶、つまり、この場合前世というべきかしら?その中では、この世界は、私が前世でプレイしていた乙女ゲームの舞台と似ている…。いや、同じなのではないだろうかというほど、似ている。
主人公である、メリアル・フベ・クドレンデシカ男爵令嬢は、心優しき令嬢で多くのイケメン達を攻略していくよくある乙女ゲームだ。しかし、このゲームのいかれていることは、彼らの恋路を邪魔する悪役令嬢が、モブっぽいのだ。プレイヤーの評価は、“悪役令嬢の名前なんて言ったけ?”であり、記憶に残らない悪役達としてある意味有名である…。
巷の噂として、メインの攻略対象と、ヒロインの絵に力を入れすぎて悪役に回す画力が無くなった説が有力である。
「そうなると、ゲームと微妙に違うことがあるのよね…。」
そう、ゲームの世界に転生したとして、違うことがある。ゲーム中に登場した人物達の容姿、および性格は、凡そ同じである。
ただ違うのが、“使徒”の存在だ。ゲーム中に使徒なんて存在しない。勿論、使徒の配下である、「魔王」「勇者」「守護者」「賢者」「聖女」「魔女」「騎士」「狩人」「暗殺者」も存在しない。使徒は、七つの大罪を冠するものと、美徳を冠するものの二種がいる。使徒の配下で共通なのは「守護者」、彼らは特殊な武器を操る使徒の最終兵器らしい。もう一人共通なのは、「賢者」で、彼らは配下中で最も魔法に長けた者の称号らしい。「魔王」「魔女」「暗殺者」「黒騎士」、「勇者」「聖女」「狩人」「聖騎士」は、前者四つが大罪の使徒の配下、後者が美徳の使徒の配下である。
「騎士」「狩人」「暗殺者」各使徒に対して複数がこの称号を持つ配下がいるが、他のものは各配下中一人らしい。故に各一人の配下は、複数名いる配下の称号持ちに対する命令権を持つらしい。
そんな使徒の情報は置いといて、私が手紙を読み、思い出した前世の記憶のゲームの内容ではいくら思い出そうとしても、存在しないのだ…。
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