入学式、始まる前に。
お久しぶりです。約2ヶ月ぶり…。本当にすみません。
学術都市ハーメルン。
探索者の街として発達してきたキルルカのように、どの使徒も領地として宣言を行っていない土地というものがある。しかしながら勿論、その逆も存在する。寧ろそのようなどの使徒も明確に領地として宣言していない土地というのは、ブリュンラッセルにおいては少数派である。
ここ学術都市と呼ばれるハーメルン近郊は、14人の使徒の内の一人である“勤勉の使徒”が領地と宣言した地域である。学術都市ハーメルンは、綺麗な丸い形をしたセントリアル大陸の南東部にあるベスタリ地方に位置していた。
ベストリ地方は、グローゼン大陸等の他三大陸との貿易の中継点として、栄えている大規模な港町を擁している。貿易の中継地点である。それは、他の大陸も含めブリュンラッセル中の情報がここに集まることを意味している。その世界中の情報を集約する過程で、ハーメルンは学術都市と呼ばれる程までに大きくなった背景がある。
学術都市と呼ばれるハーメルン内には、そう呼ばれるに相応しく多くの学園等の教育機関が多く立ち並ぶ。文官、軍人等の国の根幹を支える者たちから、探索者、商人、侍従、農民まで。多くの者が己の見聞を広げるために学術都市の地に足を踏み込む。
そんな学術都市ハーメルンにある学園の一つ。軍人を養成する第一から第三まであるスーフェン騎士学校。そのスーフェン第一騎士学校の正門では、今年の新入生達が入学式に参加するために集まってきていた。
そこには、黒目黒髪の少女と中年男性の姿もあった。
「人多い。」
「だねぇ。はぐれないように、おっさんと手繋ぐかい?」
「事案?」
「ぐはっ?!」
「止めてやれ。」
そんな気の抜けた会話をしているのは、怠惰の使徒の配下だ。ハーメルン全体が、勤勉の使徒の領域でありながら何故彼らがここにいるのか?
「そう言えば、傲慢のとこの守護者ってどんな人なんだ?」
「知らない。」
「う~ん。おっさんも詳しくは知らないけれど、ルナちゃんみたいにかわいい子らしいぞ。」
「へ~。」
「む。」
そう彼ら、いや今回入学する黒目黒髪の少女ルナは、怠惰の守護者であり、対象の気配を自由に操れる魔剣シェイドの契約者でもある。
そして、このスーフェン第一騎士学校に傲慢の守護者も入学する。
彼らが、この学校に通うのには理由がある。それは、この学園で、ちょうど今年からいろいろ厄介な事が起きる“可能性”を傲慢の使徒が見たらしい。
その対処のために、ちょうど学校に通う歳ほどである傲慢の守護者が通うことになった。怠惰の守護者であるルナ達は“もしも”の時の保険である。
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「大丈夫か、ルナ?」
「学校は好きじゃない。」
入学式が始まる前に、俺達は魔王さんと一緒にスーフェン第一騎士学校の正門前にいる。どうやら受付を行っているようで、人の列が出来上がっている。俺達はその列に並んでいるのだが、これが遅々として進まない。
最初はそうでもなかったルナの顔色も、時間が経つほどに悪くなってきていた。退屈な上に人の多さにやられたのかと、思ったが単純に学校が嫌いなようだ。
「何だったら、おっさんが並んどくから街の散策でもしてきたらどうだい?」
「結構時間かかりそうだし、でもさすがに悪いよ。」
「何言ってんの、シェイド君。おっさんと美少女なら、美少女を取るでしょ男なら。」
「何言ってんのこのおっさん…。」
でも確かに、ルナの顔色は無視できない程に悪くなりつつある。
「すみません。魔王さん、ルナを連れていくので順番が近くなったら魔王の声で呼んでください。」
「うむ。」
他の入学者の関係者だろう人も列から離れたり合流したりしているの目に入ったので、俺とルナはハーメルンの街を散策することにした。
「さすがハーメルンだ。学術都市と呼ばれるだけのことはあるな。」
「同意。キルルカとは大違い。」
ルナが言った通り、探索者の街と呼ばれるキルルカとは違い、この学術都市には明確なスラムが存在しない。いや、裏道に入ればそれなりの数で浮浪者らしき人もいるが、キルルカ程ではない。
学術都市の中にある学園には貴族のボンボンが通うような魔法学園なんかもあるらしいから、巡回する勤勉の騎士が多いらしい。
勤勉の使徒。まぁ、うちの使徒と同業の使徒の一人でハーメルン一帯を支配している使徒だ。どんな姿をしているかは俺も知らないが、勤勉の賢者は有名人だ。
代々魔法の名家として名を知らしめてきた、バグデステリア家の長男フェステリアス・バグデステリア。母親は忠義の聖女、父はメシトス王国の宮廷魔術師筆頭というまさにサラブレッド。体内の魔力は勤勉の賢者になることでさらに人間離れをし、ブリュンラッセルでも上から数える方が早い程だ。
彼の逸話は数多あれど、最も有名なのはスーフェン第一騎士学校時代に残したドラゴンの単独討伐であろう。ドラゴンは、御伽噺の生物では無くブリュンラッセルでは普通に存在する。下位のレッサーワイバーンから、上位の竜王と呼ばれる存在まで様々だが総じてその危険度は高い。
レッサーワイバーンが出れば中規模の農村が全壊になるし、竜王クラスだと守護者換算で五人はいないと討伐は難しい。
そんなドラゴンを単独討伐。その知らせは世界中に広まった。人々は驚きそして安堵した。それ程までに使徒の配下に戦力があれば魔物の脅威から身を守れるからだ。
ここまで話したが、それでもやはり人が集まればガラの悪い人間は多少入るわけで…。
「なぁ、嬢ちゃん。俺達と良い事しねぇか?」
というテンプレが発生するわけだ。
「どうする?」
「無視。」
まぁ”俺らが助ける”必要はなさそうだしな。絡まれているのは、俺の能力で気配を薄くしている俺達では無く、一人の少女だった。
「ホントに存在するんだな、ああいうの。」
「同意。どうしたら、ああできるか分からない。」
テンプレな絡みの方ではない。俺達の視線は絡まれている少女の後頭部に付いた金色のドリルに釘付けだ。
恐らく貴族だろう。ドレスなどの装飾過多の衣服ではないが、簡素な純白のワンピースに身を包んだ目つきの鋭い美人さんだ。ゲームなんかだと悪役とかで出そうな顔立ちだが、きりっとした目の印象が強いだけで、小さな顔に少し紅をひかれた瑞々しい唇を総じて評価すれば、やはり美人だと思う。
「嬢ちゃん怖くて、声も出ないか?」
事態は、そのまま進行していくようだ。
「嫌ですわ、下郎が声を出さないでくださいまし。臭いですわ。」
「マリアベルの時も思ったが、貴族の令嬢口悪いの多くね?」
「ううん。あれが正しい。傲慢な貴族らしい。」
「辛辣だな…。それにしても、戦闘になりそうだな。」
案の定、下郎と言われた男はその肩を震わせながら少女に飛びかかった。
ただ、その後は呆気なかった。少女は飛びかかってきた男に低級の風魔法を発動し一撃で気絶させてのだ。
「魔法発動まで速いな。」
「ん。」
本来魔法は、陣を形成してそれに魔力を流すことで発動させる。しかし彼女は陣を形成しない無陣魔法という技能を使っていた。これは…。
「いつまで隠れていますの?」
彼女はそう言いながら、彼女の観察をしていた俺達の方を見た。ただその顔は驚きと困惑に彩られていた。
短編を一つ投稿しました。よろしければそちらもお願いいたします。
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