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こんな世界で君は何を思う?  作者: かかかうどん
第一章 プロローグ
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プロローグ

魔法、それは、法則に基づき陣を形成させ、それに魔力を流すことで行使する。

魔物、それは、魔力を取り込むことで体に魔石と呼ばれる魔力の結晶を作り出す“もの”。彼らは、理性を失い、目の前のものを襲い喰らおうとする。

魔物が蔓延る中、魔法を用いて発展してきたここは、ブリュンラッセル。この世界は4つの大陸からなり、その一つ、グローゼンダリア大陸の一国シャリテ王国。物語はここから始まる。


シャリテ王国の第一王子リヒト・デジ・シャリテの18歳の誕生パーティ―。王城にて、この国にとどまらず、他国の貴族を呼び多くの人がこの日を祝福していた。


今このパーティーは、静寂に包まれている。その理由は、数分前に遡る。


「マリア、僕は君との婚約を破棄し、彼女メリアルと新しく婚約をする。」

そう告げるのは、この国の第一王子、リヒト・デジ・シャリテ。その言葉を発した瞬間、彼の周りは静寂が包んだ。それは、周りに広がり全体にまで広がった。


彼は、メリアルと呼ばれた少女の腰に自分の左手を添えるようにして、彼女を見て微笑んだ。その笑顔は、100人いれば、99人が見惚れてしまうだろう。では、残りの一人である、彼に婚約を破棄された令嬢、マリアベル・フベ・クオリスギーベは、無表情に近い顔でそれを見ていた。彼女は、侯爵家の長女として生まれ、幼いころよりリヒトの婚約者として、未来の国母として、それは厳しい訓練や、王妃直々に手ほどきを受けていた。


「リヒト様…、なぜです?!なぜ、私が何をしたと言うのですか?!私は、あなたと国のために尽くしていたのに…。」

当然、彼女は講義をした。ただ無表情に。言葉は、訴えているが、その顔に何も感情が読み取れない。


「黙れ!!貴様が、メリアル嬢にしたことを考えれば殿下が」

「よせ!ヴァン。」

それに対し、声を上げたのは、殿下の側近候補で、父親が近衛騎士団の団長のヴァンデ・ジキル・メグノークスである。彼は、マリアベルに対して、睨みつけるようにしてその口を閉じた。それに対してもマリアベルは、その無表情を崩さなかった。


「マリア、君がメリアルにしたことを忘れたとは言わせないよ?メリアルの悪評をばら撒いたり、彼女の教科書をびりびりに破いたり、終いには、彼女を害そうとしたらしいじゃないか?」

リヒトの顔は、今までの頬笑みが嘘かのように、マリアベルを見た。その瞳には、侮蔑と明らかな怒りが宿っていた。それを受けても、やはりマリアベルの表情は変わらなかった。


「リヒト様、もういいのです。マリア様も私と同じ恋する乙女なのです。行動が行き過ぎでしたがその気持ちは痛いほどわかります。どうか、許してあげてください。」

メリアルは、そう言ってリヒトの右手をその両手で包み込むようにして、彼の視線とマリアベルの視線の間に入った。それは、自分を傷つけた相手にもかかわらずそれを庇うという、慈愛に満ちた行動にそこに居た聴衆は、心打たれただろう。


ここに来て彼女、マリアベルの顔が不機嫌に歪んだ。

「…っ…な。」

マリアベルは、その表情のまま小声で何かを呟いた。


「どうした?メリアルの優しさで、やっと自分の浅ましさに気付いたか?無様だな、ふははは。」

ヴァンデはそれを、己の行為を恥じているのだと思い、それを嘲笑った。それは、周囲に広がり、会場は嘲笑に包まれた。


「マリアベル、もう良いでしょ?」


その中で、会場に凛としたきれいな声が響いた。その声は、人の声であるが、どこか底の見えないような女性の声であった。嘲笑は止み、聴衆は口を開いていった。


「使徒様…。」

「使徒様だ…。」

「なぜ、使徒様が?」

「…。」


上がる声は、“使徒”。

使徒とは、この世界ブリュンラッセルにおいて、圧倒的な力を持つ14人のこと。彼らは、18年前にこの世に突如として現れた。自らを“使徒”と名乗り、配下に力を分け与える、そんな存在。あるものは自分の領地の人々を守り、あるものは、ただ魔物を狩り魔石を加工するもの。


様々な“使徒”が存在する中で、この場に現れたのは、人々守護することを明言している使徒、《博愛の使徒》である。銀色に近い髪を腰辺りまで伸ばし、長い睫毛に垂れた目尻。その顔は芸術的で、女神と言われれば、誰もが信じるだろう。しかし、その顔にあるのは、ただ悲しみであった。


「マリアベル、どうやら私の負けのようです…。」

「そうですね…。でも、これは分かっていたことです。使徒様が悲しむことはありません。」

「あなたは、これで良かったんですか?」

「そうですね…分かっていた未来だとしても、今までの苦労や努力が報われないのはやはり悔しいですね。」


聴衆は、わけが分からなかった。さっきまで、己が嘲笑っていた相手が使徒と呼ばれる、遥か各上の存在が、知り合いのごとく話しているのだから。


「そうか!使徒様もこの女の行動に心を痛めていらっしゃったに違いない。きっと使徒様自らこの性悪に引導を渡しにいらしたに違いない。」

ヴァンデのその言葉により、聴衆は安堵の息を吐いた。だが、瞬時にそれは間違いだと気付いた…。なぜならば、彼女《博愛の使徒》はその芸術的なまでに美しい顔を先ほどよりも悲しみに歪めていたのだから。歪んだ表情からでもわかるその美しさ。その頬にしずくが伝う。


「マリアベル、今までお疲れ様でした。私たちの勝手な都合で、こんな結末にしか導けなかった。」

「謝らないでください。使徒様が悪いわけではありません。先ほども言った通り、これは逃れられぬ運命でした。」

「…っ、ありがとう。元気でね。」


直後、マリアベルの足元に魔方陣が現れた。その魔法陣は、マリアベルが発動したものであるが、既存のものではない。その証拠に、会場の人間にはそれが何の魔法か分からなかった。


「最後に、殿下。」

「な、なんだ?」

「今まで、ありがとうございました。私は《怠惰の使徒》様の、賢者に選ばれました。もう会うこともないでしょう…。」

「なっ?!」


「お慕いしておりました。」

その言葉を最後にマリアベルの魔法陣は輝き、それが収まるころに、陣と共にマリアベルは消えた。

転移、ブリュンラッセルにおいて、忘れ去られた、属性魔法。木、火、水、風、土、光、闇に続く第8番目の属性、空間である。


会場は先ほどの静寂が嘘のようにざわめき、気付けば、《博愛の使徒》はいなくなっていた…。



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