第六話 お昼時③
「おかえりー」
少し息を荒げながら教室のドアをくぐると、
そこには卵焼きを頬張る祥子ちゃんの姿が。
「ごめんね、遅くなって」
そう呟いて、私は自分の席へ戻った。
横にかけてある手提げ袋から弁当の包みを取り出す。
パカリと蓋を開けると、色とりどりのおかずが並んでいた。
「相変わらずおいしそーだよね、楓のお弁当」
「お母さんの趣味に付き合わされてるだけだけどね」
苦笑いを零して弁当の蓋を机に置くと、
またまたー、と祥子ちゃんが笑う。
「祥子ちゃんこそ、自分で作ってて偉いよ」
彼女の弁当箱をのぞき込むと、
一年前よりかはかなり成長したおかずの数々が並んでいた。
「高校入ってから料理初めてみたけど、最初はつらかったわ」
下手過ぎて全然食べれなかった、と言って、
彼女は美味しそうなハンバーグを口に入れて微笑んだ。
「私も料理始めよっかなぁ……」
お母さんの手によって綺麗に巻かれた卵焼きを見つめ、
自分の女子力のなさにため息を零す。
「……そういえば」
祥子ちゃんが不意に思いついたような顔で呟いた。
「最近戻り遅いよね、自販機からの」
______ギクリ。
嫌な音を立てて、心臓が飛び跳ねる。
気になる人でも居たの?と、問う彼女に、私は小さく、こくりと頷いた。
「えっ!? もしかして、昨日のイケメン?」
昨日のイケメンとは、多分慶斗君のことを指しているんだろう。
私は急に恥ずかしくなって、俯きながら小さくうんと呟いた。
はーん、と呟いて、ニヤニヤし始める彼女。
少しムッとするが、それ以上の恥ずかしさが私を襲う。
「ふーん、楓はあーゆーのが好みかぁ……」
「しょ、祥子ちゃん!!」
恥ずかしさが限度を超えて、つい立ち上がりそうになったその時。
急に真面目な顔に戻った彼女が、ぽつりと呟いた。
「良いんじゃない。優しそうだし」
「は、はい……?」
声が裏返って焦る私を見て、彼女は楽しそうに目を細めた。
「彼氏になったら紹介してねー」
またさっきのニヤニヤ顔に戻って、
プスリとプチトマトにフォークを刺す彼女。
「そ、そんなんじゃなくて!!」
真っ赤になって否定するも、一向に取り合わない彼女。
そんな彼女がなんとも憎らしくなり、私は口を尖らせた。
「祥子ちゃんだって、そんなに料理勉強して。
誰か気になる人でも居るんじゃないの?」
険しい目つきで彼女を見ると、
祥子ちゃんはプチトマトの様に真っ赤になって固まっていた。
「あれ、図星?」
ニヤニヤしてそう呟くと、彼女はすごい剣幕で言い放つ。
「ぜ、絶対秘密だからねっ!?」
私がはいはい、と頷くと、
彼女はしゅんとなって席に座った。
「おんなじ塾の子でね。
いっつも美味しそうにお菓子を食べるんだ」
頬をピンク色に染めながら、彼女はうっとりと呟いた。
その瞳はまさしく乙女のそれで、私は微笑ましさと少しの羨ましさを抱く。
……いや、恋する乙女は私もか。
「お互い、頑張ろうね」
そう言って私が微笑むと、彼女も吊られて微笑んだ。