第四話 お昼時①
うつらうつらと、眠気が誘う四限目。
重力に逆らえずに、私の瞼が落ち始める。
……まあ、私の意志が弱いだけなのだが。
今は、四限目の歴史の授業。
正直、社会科の苦手な私にとっては退屈の極みである。
なかなか進まぬ手で板書を取るも、
シャープペンシルを握る手に悪霊でもとりついているのか。
いつも以上に筋肉疲労が大きい。要するに疲れるのだ。
幸い、私の席は教壇から離れた最後列。
授業も残り数分だ。このまま寝てしまっても先生にはばれるまい……。
そんなことを考えているうちに、待ちに待った授業終了の鐘がなった。
学級委員の号令であいさつをする。
その瞬間、先ほどまでの眠気が嘘のように覚めた。
「楓ー。一緒にお昼食べよ!」
祥子ちゃんがニコニコ笑顔でこちらへ歩み寄る。
私がうんと頷くと、彼女は私の前の席に弁当の包みを置いた。
「祥子ちゃん、リンゴジュース買ってくるね」
そう言って私が席を立つと、祥子ちゃんはいってらー、と手を振る。
先食べててね、と手を振り返すと、彼女はにこりと微笑んだ。
冷房の効いた教室を出ると、一気にむしっとした熱気が体を覆う。
人口密度の高い廊下には、財布を持った生徒が沢山いた。
「お、鈴崎! お前も購買?」
一年の時からクラスが一緒の男子に声をかけられて、
自販機だよ、と答えると、そっかと言って彼は立ち去った。
そう。この廊下の生徒の山のほとんどは、購買が目的だ。
私は弁当派だからあまり気にしたことはないが、購買のパンの倍率は相当らしい。
……そういえば、岩崎君は弁当派なのかな。
不意に彼のことが思い浮かび、少し顔が熱を持つ。
正直、期待をしていないわけじゃない。
自販機に行ったら彼が居て、少し話ができるかも、って。
でも、校内には三つの自販機があって。
彼と出会った自販機は、教室棟から一番遠いところ。
昨日、ちょうど欲しいものがなくて、あそこに来ただけかもしれない。
……現に私がそうなように。
だけどやっぱり、居たら良いな、なんて。
淡い期待を抱きながら、長い廊下を出た。
「あ、やっぱり来た」
その声の主はもちろん、岩崎君で。
えへへ、と笑って、私に向かって手を振った。
もう片方の手には、購買で買ったと思われるパンが握られていて。
「朝の人たちと一緒にご飯食べないの?」
少し気になって彼に問うと、彼は少しはにかみながら答えた。
「ああ、あいつらか。俺、あんまり人と飯食うの好きじゃなくて」
「そっか」
自分で聞いておいて素っ気ないなとは思うが、
なんと返せばよく分からなかったので、とりあえず頷いてみた。
「……いつもここで食べてるの?」
もしそうなら、明日も会えるかもと思って、少しの期待と共に口を開いた。
彼は、そうだよと微笑むと、意地悪そうに笑った。
「明日も、俺はここにいるから」
会いに来る?だなんてからかう君。
私が、そんなに素直に頷けるわけがなくて。
頷く代わりに、彼のおなかの辺りに一発、パンチをくらわしてやった。