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BON~粒ぞろいたちの無気力あどべんちゃあ~  作者: 箒星 影
五度寝 不思議な転校生
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第九十睡 5600kcal

「おっはよーーございまッス、杏菜さん!! いやあ、良い天気ッスねぇ! 空気も美味しいッス!」


「朝からそのテンションはキツいものがありますね……おはようございます、ヤヨさん」


 あの事件の後、初めての朝。昨夜は頭を整理するのに必死で、あまり寝付きはよくありませんでした。


「ご飯、出来てるッスよ! たくさん食べて、今日も頑張るッス!」


 眠い目をこすってリビングに降りると、エプロン姿のヤヨさんが、こちらに朝日のような眩しい笑顔をプレゼント。


「朝ごはんって……ヤヨさんが作ってくださったんですか!?」


「なんスかそのビックリ顔は……オレだってそれぐらい出来るッスよ! ご両親はオレのご飯をペロリと召し上がってからお仕事に行かれたッス! 絶賛だったッスよ!」


 そうだ、いつもはこの時間、わたしは家に一人で、簡単にトーストとかで済ませてて……人に朝ごはんを作ってもらうなんて、いつぶりでしょうか。昨日は結局テーブルをひっくり返して少しもご飯を食べていないから、お腹もペコペコです。


「じゃあ……お言葉に甘えて」


「出来たッスよ! カツカレーにハンバーグステーキ、唐揚げにピザ! デザートはホールケーキを用意しましたッス!」


「熱量!! ちょっと……朝からこんなに重たいものばかり、食べられるわけないじゃないですか!! プロレスラーじゃないんですよわたし! プロレスラーでもホールのケーキなんかなかなか食べませんって!」


「飲み物はほうじ茶ッス!」


「そこだけヘルシー!! 何で高カロリーで統一しなかったんですか!! いりませんって! そんなの食べたら胃もたれして授業に支障が……」


 料理がてんこ盛りの皿たちが並んだテーブルを見ているだけで胸焼けがしてきました。ヤヨさんには悪いですが、丁重にお断りして……


「杏菜さんのために一生懸命作ったのに、食べてくれないんスか……?」


 チワワのような愛くるしい顔でわたしを悲しそうに見てくるヤヨさん。うっ、そんな目、卑怯ですよ。


「いやいやでも、さすがにこの量は……」


「分かりましたッス。全部棄てるッス。しくしくしくしくしくしく」


 こ、この人は……。チラチラこっちをジト目で見てきて、アピールが凄いんですけど。


「だああああ!! 分かりました! 食べます、食べますから! ふわあああ、美味しそう!」


「本当ッスか!? じゃあ“残さず”食べて下さいッス!」


 あああ……普段トースト一枚のわたしからしたら、こんな朝食あり得ないんですが……。


「いっ……いただきます!!」




     ●




「ごっ……ちそうさまでした……うっ……」


 胃がカオス。我ながらよく完食できたな、と。ホールケーキはさすがにダメかと思いましたが。苦しくて死にそうですけど、これでヤヨさんも喜んでくださるは……


「うわ、ホントに全部食っちまったんスか? 意外と食い意地張ってるんスね。でもさすがにちょっと引くッス」


「食べたもの全部ぶちまけていいですか……あなたの顔面に」


「ちょっ、冗談ッスよ! 完食していただきありがとうございまッス!」


 と言うと、わたしから逃げるように、おもむろに洗い物を始めるヤヨさん。様になってるのは何故? ていうかこの料理をペロリと召し上がった両親すごい。


「そういえば杏菜さん、さっき“授業”と言ったッスけど……それはもしや“ガッコー”のことッスか?」


「え、あ、はい、そうですけどぉ? 今日は月曜日なんでぇ」


 少しぶっきらぼうに答えたわたしの手を、ヤヨさんがぎゅっと握りしめました。洗剤の香りがフワリ。そして手がベッチョベチョなんですが。


「いいッスねぇ、学校! オレの人間界(こっち)に来たら行ってみたかった場所ランキング、断トツ一位なんスよ! 」


「昨日グラウンドに来たじゃないですか」


「違う違う! 生徒として通いたいんス! 杏菜さん、一生のお願いッス! オレとルイネをあなたのクラスメートとして、一緒に青春させて下さいッス!」


 そういうこったろうとは思いましたけどねぇ……。


「あのですね……ダメに決まってるじゃないですか! あなた、天使なんですよ!? それにどう考えても学生って見た目じゃないでしょ!」


「大丈夫ッスよ、この光輪も羽根も、仕舞おうと思えば好きなときに仕舞えるんで!」


「確かにアイリさんもそうでしたけど……でもダメです! また面倒なことになるに決まってます! ヤヨさんはルイネさんと大人しくお留守番していてください!」


「そ、そんな殺生なぁ~~~」


 ちょっと可哀想ですが、ダメなものはダメ。


「ルイネさん、まだ寝ていらっしゃるんですか?」


「え……はい、そうッスよ。あの子の回復魔法は強力な代わりに、使うと超絶に疲れるんス。しばらくは起きないッスよ」


「じゃあ丁度いいですね。もしもの時のために、ちゃんとルイネさんを見守ってあげてくださいね! 学校までついてきたら追い返しますから!」


「わ……分かったッスよぉ」


 ブツブツと何かを言っているヤヨさんを尻目に、わたしは学校へ出発しました。今のわたしは平穏に飢えてます。学校生活まで掻き乱されたらたまったもんじゃありません。


 うえ……吐きそう……。

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