第八十三睡 仮病が天才的に上手い奴はクラスに一人は存在する
「おい、ポラリスさん……大丈夫か!?」
大丈夫……といえる傷じゃない。それは分かっていた。別に意地悪で聞いているわけじゃない。ただ、そう聞くしかなかった。
「大丈夫……だから、下がっていなさい。あんな奴、私一人で……げほっ!!」
言い終えたポラリスさんの口から、また新しく血が流れてきた。あの化け物の攻撃を受けてここまで飛ばされてきたんだ。平気なはずがない。
「……肋骨にヒビが入っているようですね。悪いことは言いません、安静にしておいた方が……」
後ろから歩いてきたタラ子がポラリスさんを見て首を振ってから、静かに言った。
「そんな暇はないでしょう!? このままじゃこの国が滅んでしまうのですよ!? 止めてみせる……こんな所で“約束”を破るなんて、私にはできない!!」
「約束……?」
ポラリスさんはヨロヨロと立ち上がった。そして力一杯、足の裏に有りったけの力を込めて、遠く離れた巨人の元へと立ち向かっていった。
「あーしらも行くぞ! 好き勝手してやがるあのデカブツ、ぶっ殺してやる!!」
「ミーナっていらない子……?」
クトゥルフ姉妹もそれに続いていく。
「いくら常識はずれのデカさとはいえ、五対一はさすがに不公平な気がするが……しゃあないわな」
「勇者さん」
歩き出した俺をタラ子が呼び止める。
「既にお気付きかとは思いますが、ポラリスさんは本当の自分を隠していらっしゃいます。おそらく、過去に何かそうせざるを得ない出来事があったのだと思います。今もああして傷を押し切って一人で戦おうとしていらっしゃいます。非常に危険な状態です」
「……それで?」
「ポラリスさんを護ってあげてください。あの方は重要な戦力です。ここで散るべき命ではありません。頼みましたよ」
「…………おい」
「はい?」
俺はタラ子の首根っこを荒々しく掴んだ。
「な、な、な、なんぞや」
「なんぞや、じゃねえ。なにさりげなくお前だけここに残って戦わないっぽい空気作り上げてんだよ。お前も来るに決まってんだろ」
「うぐぐはあんっ、またしても持病の仮病が……」
胸を抑えてしゃがみこむタラ子。
「んなもん闘ったら治る。今まで休んでた分、しっかり働け」
「どこの世界の治療法ですか……あぁぁ~~~れぇぇぇ~~~」
俺はそのままタラ子をズルズルと引きずっていった。油断も隙もない。ったく、何かにつけてサボろうとしやがって。俺だってあんな怪物とやりたくねぇってのに。




