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第八十二話 サドは二人以上揃うと強い

「ちょっとちょっと、大変なことになってるじゃねぇの」


 “大混乱”……それ以外の言葉で今の状況を説明するには、俺の頭は言葉を知らなすぎた。


 そこにいたのは、鬼のような容貌をした真っ赤な巨人。トゲのついた棍棒を振り回し、周りにある、人も建物も、全てを、それらがあたかも玩具であるかのように、簡単に薙ぎ倒していく。常識はずれの大きさだった。あのサイクロプスさんよりも遥かにデカい。10メートル……いやそれ以上あるかもしれない。


 周りにある全ての建物の屋根を見下ろし、黄色い歯を見せてニタニタと気味の悪い笑みを見せている。


 瞳孔を極限まで開き、目玉が溢れ落ちそうなほどに恐怖した人々は、我先にと巨大な赤鬼から離れていく。


 建物の大部分は既に倒壊し、所々に血溜まりのようなものが出来ていた。逃げ遅れて、あの棍棒の餌食となった人々だろう。原形はほとんど残っていなかった。


「突っ立ってる場合ですか。行きますよ」


 アクション映画の世界に入り込んだかのような不思議な感覚を覚えていた俺の脇腹を、タラ子が肘打ちした。


「いやいや、さすがに厳しいだろ。あれを倒すやる気があるなら、俺はこんな人間じゃなかったよ」



「怖じ気づいてんじゃねぇよ、チキン野郎!! 肝っ玉あんのかクズが!!」


 降ってきた怒号。昨日会わなかっただけなのに、妙に懐かしく感じた。


「ヒーナ……?」


 二人の少女は相性がバツグンで、建物の上を忍者の様に駆け抜け、こちらにやって来た。


「いやああああっほおおおおおいほほいほおおほいいほい!! 来ました来ました来ましたよおっ! 強敵の襲来による王都のピンチに、最強の双子と名高い、クトゥルフ姉妹が参上つかまつりましたぞえぞえぞえええい!!!」


 俺が名前を呼ばなかった方であるミーナは、場面に適さず一人でどんちゃん騒ぎしていた。この前に俺に言われたこと、気にしてんのか。俺はそんなミーナを軽蔑の目で見ていた。


「お前……王都が一大事だってのに、何でそんなにハイテンションなの? 頭おかしいんじゃねぇの?」


「くぇ……!? だ、だって勇者さんが“いつでもハイテンションキャラを貫け”みたいなことを……」


「いや、そうだとしてもケースバイケースでしょ。ここでそのテンションは有り得ないですね。王女的にはホント有り得ないです」


 これまたビックリ。タラ子も同じ目をしていた。どうやらこいつも、腹の内は同じだったらしい。



“面白いからイジってやろう”



「強い魔物が来てさ、多くの人が殺されてんのにさ、お前“いやああああっほおおおおおいほほいほおおほいいほい”はねぇだろ。お前自分で言ってたじゃん。“強敵の襲来による王都のピンチ”って。それなのに何なの? バカなの?」


「王女的にはガチで有り得ないですね。ええ、なんというか……王女的に考えてもキツいです」


 出てきた時の満面の笑みはどこへやら、ミーナは塩をかけられたナメクジと成り果てていた。そんなのに更に目から水分を流し出しているもんだから、さすがに可哀想になってきた。



「チキン野郎、アイリの嬢さん! 冗談やめろよ、いくら相手がゴミーナとはいえ、さすがに酷―――――っ!!」


 その言い方もどうかと思うが。喋っているヒーナのすぐ近くに、何かが落ちてきた。ヒーナはなんとか飛んでそれを避ける。即座にそれを包む土煙。もしやと思い、俺は煙を掻き分けて進んだ。


「ぐっ……げほっ……」


 腹の辺りを抱えてうずくまっている女性。さっきまでは勢いのいいツッコミをどんどん吐き出していた彼女は、口から血を流しながら苦痛の表情でその場に横たわり、呻き声をひねり出すことしか出来なかった。



「ポラリス……さん……!」




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