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第八十睡 大事っちゃ大事だけども

「部屋のドア、直ってる……」


 見たままを口にする。おそらくだが、タラ子がやったのだろう。昨日ももしかしてあいつが……?


 よく分からないんだよな、あいつの行動も、言葉も、何もかも。タラ子は一体俺をどうしたいんだ? 本当に一緒に世界を救う気があるのか? 俺にはどうも、そうは思えないんだが。


 夜風にさらされてひんやりとしたノブを回し、部屋に入る。


「すぅ……すぅ……」


 何なんだよ、どいつもこいつも。人の目の前で気持ち良さそうにスヤスヤと眠りくさりやがって。そもそも何で俺のベッドで寝てるんだこいつは。


「タラ子……おいタラ子、起きろって」


「ん……あれ、勇者さん?」


 ぐっすりと寝ているタラ子を揺さぶる。タラ子は瞳を気だるそうにどっこらせと持ち上げ、ごしごししながら俺を見上げた。


「ただいま、どけ」


「おかえり、いや」


 俺はバッとベッドの端を持ち上げた。タラ子はコロコロと転がって、ベチャリと地面に突っ伏した。



「ワ、ワッツハプンドゥ?」


「うるせえ。そこは天使の休息所じゃなく、勇者様のお休みスポットだ。お前はさっさと自分の部屋に戻れ。だいたい何で俺の部屋にいる?」


「あなたにお話があったんですよ。そろそろ帰ってくる頃合いかと思ってお待ちしていたんですが、寝落ちしちゃいましたぁぁぁぁ……っと」


 喋りながらアクビをするんじゃありません。


「今日もずいぶんと遅い帰りでしたね。洗濯がそんなに楽しかったんですか? それともあたしの言った通り、川辺のあまりの気持ち良さにノックアウトされて、今の今まで眠っておられたとか?」


「残念、両方とも外れだ。なんつうか、その……ちいとばかし厄介な事に巻き込まれてな」


「ほほう、それは興味がありますね。差し支えなければ話して戴いても?」


 興味て。こっちはとんでもなく嫌な思いをしたってのに。だがまあ、隠しておく意味もない、か。


 俺はタラ子に全てを話した。洗濯をしていたら魔王が流れ着いてきたこと。それを迎えに来た四天王筆頭のミュガナッチェのこと。人格や容姿など二人の細かい特徴。二人が只者ではないということ。そしてそのやり取りの間、俺はブッキーから貰ったビジュアル系で今の流行の最先端を突っ走る超絶にカッコいい服を着ていたということ。タラ子はそれらの話を聞いて、ほんの少し顔をしかめた。


「最後の情報は別に必要なものではなかったような気がしますが……まあいいです。ともかく、まずはよく無事で帰って来られましたね、とあなたの図太さとしぶとさを賞賛するべきでしょうか。あのミュガナッチェ=ズーガルトと接触して骨の一本も折られなかったのは、奇跡に近いことですよ」


「確かに強キャラオーラはビンビン出てたけど、そこまで言うほどのことか?」


「……あなたは知らないのも無理はないでしょうね。あの男の恐ろしさを」


 鬼気迫る表情のタラ子。言及する前に、その顔は元に戻ってしまった。


「んで、お話ってなに?」


「そうでしたそうでした。あなたのせいで脱線してしまいましたよ」


「そりゃ悪うござんしたね。どうせロクな話題じゃないんだろ? 言うだけ言ってみろ」



「仲間を増やしませう」


 コミュ症スイッチオン。


「あなたも魔王と四天王に接触した身なら分かるはずです。あたしたち二人では世界を救うことなんて不可能のまた不可能です。したがって強烈な助っ人、便りになる仲間が必要になります。RPGでは定番の展開です」


「いやいや、俺たち二人で行動したのなんて、初日のサイクロプスさん戦くらいだろ。蜘蛛の時はクトゥルフ姉妹と一緒だったし、今日だって強制的に洗濯に向かわされるハメになったし。お前は俺ばっかり動かしてグースカ寝てただけだろうが」


 淡々と持論を説き進めていくタラ子に、俺は真っ正面から歯向かった。


「しょうがないじゃないですか……具合が悪かったんですよ。二日連続で、持病の仮病がね」


「言い訳が斬新だなおい」



「そこです、あたしが仲間を増やしたいのは、そういうところですよ」


 俺の鮮やかなツッコミの後、いきなりキランと目を輝かせて俺に人差し指をピンと立て、ぐるぐる巻きの指紋を向けるタラ子。俺にはその意味がちょっと分からなかった。


「どういうことだ? 教えてちょうだいタラ子ちゃん」


「お教えしましょう勇者くん。今のあたしたち二人に足りないものは何だと思いますか?」


「そもそもあたしたち二人が揃って戦うのが絶対的に少ないことじゃねぇのか?」


 首を細かく振られる。不正解のようだ。もちろん正解とは思ってなかったけど。


「マジレスすると、俺はレイジネスを意のままに操る攻撃、お前は魔法中心の攻撃で、二人とも遠距離でしか十分に戦えず、近距離戦に若干の不安があるってことじゃねぇのか?」


「あたし、体術もいけますぞ」


 今度はタラ子の親指が天に伸びた。


「じゃあ何だよ、俺たちに足りないものって?」



「ツッコミです」



 窓が閉まっているはずなのに、王都の賑わいが軽く耳をくすぐるほどの静寂。


「寝言にしちゃ目がでけぇな。死んでるけど」


「寝言じゃありません。いいですか、ズバリ言いますと、今のあたしたちには、ツッコミが欠乏しているのですよ」


 今度はタラ子の中指が天を差して……


「って何で軽蔑されてんの俺」



「……とまあこんな具合に、あなたはツッコミがバカみたいに下手なんです。下手というか、覇気がないんです。あたしがボケても“~じゃねぇかよ”とか、とにかく適当で、突っ込まれたはずなのに、そう感じられないんです。ですがそれはあたしも同じ。だからこそ、あたしはもっとこう、自分たちのボケに小気味よく迫力満点のツッコミを入れてくれる、ムードメーカーさんが欲しいのです」


 ちょっと腹立ったんだが。さっき“鮮やかな”とか言ったのがバカみたいじゃん。


 確かに俺たちは性格上、キビキビとしたツッコミとは無縁だ。お互いのボケには軽く触れる程度で、それに穴が空くほど突っ込んだりはしない。杏菜の勢いのある単語ツッコミの足元にも及ばない。でも、それが今の俺たちに最も必要な要素、と言われるとな……。


「というわけで、明日はあたしと一緒にツッコミができる仲間を探しに行きましょう。あなたもあたしと一緒に行動できないことに愚痴を溢していたことですし、ちょうどいいではありませんか」


「別に愚痴ってなんかは……っていうか、探すまでもねぇだろ。その大役におあつらえ向きな人が、ちゃんといるじゃねぇか」


「心当たりが?」


「まあな。仕方ねぇ……無理だとは思うが、明日その人に会いに行ってみるか」


 面倒だけど、仲間が増えたら俺の仕事も減る。それがツッコミ担当の真面目キャラなら尚更だ。


 俺は自らの利益のためにしか行動しない。気だるくズル賢く、手間は最小限に。力を抜いて、明日も死なないように頑張ろう。


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