第七十九睡 巫女でもダメでした
「さ、佐藤くん……どうして私は君に剣と殺意を向けられているのだろうか? 悪い冗談だな、あはははは……」
その夜、俺はまた研究所に訪れていた。まだ十分に乾き切っていないジャージを着て、ブッキーにレイジネスの切っ先を向ける。両手を挙げて無抵抗を示すブッキー。
「ブッキーちゃんさぁ、絶対他にもっとマシな服、あったろ? 完全に遊び心でメイド服をチョイスしたろ? 正直に言ってみな、怒らないから」
「もう既に怒りを露にしていらっしゃると思うのだけれど……。だいたい、嫌なら嫌で、最初っから断っておけば良かったじゃないか! そうしたら君のご所望のブルマとかセーラー服とかも用意できたんだぞっ!」
【目の前にあるクソみたいなメイド服を切り刻め】
レイジネスは俊巡など一切なしで、スパスパと気持ちいい音を立ててブッキーの自信作を細切れにした。
「あああああああああ!! な、な、なんてことをしてくれたんだい、君は!! これを作るのにどれほどの研究時間と作成時間を要したと……」
布切れの山と化したメイド服を両手で掬い上げ、涙声で言うブッキー。
「シャラップ。別にブルマとかセーラー服が着たかったから怒ってんじゃねぇ。そんじゃ、ブッキーちゃんもぶつ切り、いっときましょっか」
改めてレイジネスをブッキーの喉元に向ける。
「そんな……そんな残酷な話があるか! せっかく厚意で服を貸してあげたのに、それをバラバラにした挙げ句、命まで奪う!! 君はそれでも人間かい!?」
冷や汗ダラダラのブッキーは右手を上に掲げて抗議の構えをとった。対する俺は、そんな彼女をずいずいと壁際まで追い詰めていく。
「人間だよ。少なくとも、あんたみたいに他人に女装させて喜ぶような変態研究者よりかは、はるかに全うな人間であると宣言できる。ったく、タラ子だけじゃ飽き足らず、俺までコスプレの標的にしようなんざ、ふてぇ女だな」
「え? まっ……待ちたまえ! 私はアイリ嬢の服を作ったりなんかしていない!!」
ブッキーが急に俺の発言を否定した。
「嘘までつくか。これ以上、罪を重ねるな。見苦しいぞ。何であいつがセーラー服なのか、ずっと気になってたけど……あんたに無理に着せられて、恥ずかしいから話そうとしないんだろ? なんの罰ゲームだ? トランプか? それともチェスか? そら、言うてみい?」
「信じてくれ!本当に私は……!」
尋常ならざる反応。嘘では……ない?
「じゃあ、どうしてアイリお嬢様があんな格好をしてるのか、理由を知ってたりするのか?」
「それは……分からない! ただ、私がここに来た時には、既にアイリ嬢はあのような格好をされていたんだよ! だから私は関係ない! 本当だよ!」
不思議に思った俺は一旦レイジネスを下ろした。ホッと一息つくブッキー。
ブッキーじゃないとすると、何か別の意味があるのか? タラ子があんな服を持ってて、いつもそれを着ている理由……。
「それにしても、レイジネスの威力は凄まじいね! 改めて恐れ入ったよ!」
「服を刻んだだけだろ。大したことはしてねぇよ」
「ご謙遜が激しいね! 持ち主が念じたままに標的を討つ! 素晴らしい能力ではないか! その剣さえあれば、魔王だって一撃だよ!」
簡単に言ってくれるじゃないの。おだてているつもりか? こっちは今日、四天王にすら不戦惨敗してきたところだってのに。恥ずかしいから言わないけど。
「なあ……いくら異世界でも、さすがに全裸で人混みを歩くのは犯罪だよな?」
「どうしたんだい、藪から棒に? そりゃあ犯罪さ! 決して赦される行いじゃない!」
「そうか。そんじゃ一応だけど、本当に一応だけど、服を貸してくれたことに対しての礼は言っとく。次来るときまでに、もっと男向けの服、作っといてくれ」
ブッキーは意外そうに俺を見て、軽く笑った。
「注文、承ったよ。君、結構いい人なんだね」
「そりゃ“天使よりも天使”をモットーにしてますんで。ほんじゃあな」
ブッキーと別れ、俺はフラフラと廊下に吸い寄せられるように部屋を出た。
昼間はタラ子に「部屋に戻るな」とか言われたけど、もう大丈夫なのだろうか?
少し気を引き締め、俺は自室へ赴いた。




