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第七十七睡 お帰りくださいませ、吸血鬼さま!

 あーあ。やっちまった。


 「一番の自信作だ」と言ってこの服を差し出してきたブッキーの期待に満ち溢れた瞳の前に、良心に満ち溢れた俺は着衣を断ることができるはずもなく。王都の奴等の視線を掻い潜り掻い潜り、ポラリスさんの気遣いにも助けられ、なんとかこの辺境の地までやって来た俺が、まさかラスボスである魔王にこの白く輝くメイド服をお披露目するなんて恥辱を味わうことになるとは。


 よくよく考えたら、ここが俺の世界だったら絶対に二人とも職質されてるよな。町中にこんな奴等がいたら怪しさしかないもんな。魔王と勇者じゃないよこれ。変人と変態だよ。


「てか何であんたはメイド服の存在を知ってるんだ?」


「いっ……いや、別に魔イドカフェに週五で通ってるからとかじゃないし! 全然そんなことないし!!」


 悪の親分の癖に嘘ヘタクソっ。あと魔イドカフェって何だ。メイドカフェ的な響き。コイツもそういう所、通ってんのか。しかも週五て。この世界の“王”の肩書き背負った奴はロクな奴がいねぇのな。


「ていうかお兄さん、豪華な剣を持ってるんだねぇ……ちょっと触らせてよ」


 勇者(メイド)が手に持った伝説の剣に、にこやかに手を伸ばしてくる魔王(ご主人様)。シュールな光景。レイジネスを知らないのか? ちょうどいい、先ほどはタイミングを逃したが、今なら隙だらけだし、ここで葬ってやろう。ちと心が痛いけど、やむを得ない。


【レイジネス、目の前にいる男を八つ裂きに】



「ちょおっとお待ちくださいネェ」



 レイジネスに命令を下そうとしたその瞬間、低めの男性の声が耳を突き抜けた。ただならぬ恐怖に汗がどっと噴き出てくる。一言、声を聞いただけで、全身が震える。寒気が止まらない。足がガクンと崩れ落ちそうになるのをこらえ、俺はその方に目を移した。


 そこにいたのはメガネをかけた、魔王よりもずっと老けて見える、四十代後半から五十代前半くらいの白髪の男性だった。赤いマントを翻し、こちらにひたりひたりと歩いてきた。口角を上げ、目を細め、俺の方をジッと見ている。目をそらすことができない。紳士的で人の良さそうなその顔に、俺は何故だか危機感を覚えていた。


「ククッ、魔王様……このような所にいらっしゃったのですネェ? 勝手に行動されたら困りますネェ。まったく、捜し回る部下(われわれ)の身にもなってほしいものですネェ」


 ゆったりとした声。語尾に若干の特徴がある以外は、ごくごく普通の口調。なのに、彼が近付いてくるにつれて、俺の心臓はみるみる平静を失っていく。


 魔王への言葉のはずなのに、視線は俺にガッチリと定まっている。呪いでもかけられたかのように、一歩もその場から動けない。その癖、汗だけは止めどなく流れ落ちていく。精神が崩壊しそうだ。


「ごめんなさい、ミュガナ! 洗濯をしていたら眠っちゃって……それでこの人に助けてもらったんだ!」


「ほう、それはそれは。随分とお優しい方に拾っていただけたようで何よりですネェ」


 ミュガナと呼ばれた老男性は、ニヤリと笑った。その時、刃物のようにギラリと尖った二本の牙が現れた。


「お初にお目にかかりますネェ。ワタシ、魔王サマの忠実なる僕、四天王の筆頭を務めております、ミュガナッチェ=ズーガルトと申しますネェ。一応、吸血鬼である、とも紹介しておきましょうかネェ。仲良くしてくださると嬉しいですネェ。ククッ……」



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