第六十七睡 姫と王女
「そんで、今回は魔王のことについてお話いただけるってことらしいですが、ぶっちゃけどうなんすか、ブス姫?」
俺はブス姫のアダ名を一刻も早く定着させようと、何の容赦もなく話を進める。
「きいいいいい!! こ、この無礼者!! ルシュア、このクソ勇者に痛い目見せてやりなさい!」
「どおどおどお、落ち着けて。にしても、怒り顔もめんこいなぁ、姫様は」
「でしょ!? なんてたってアタクシの顔は宝石のように美しいのよ!!」
凄い、ルシュアさん、完全にブス姫の扱い方を分かってる。
「だいたいアンタたちね、人のことを言えるような顔なの!? 特にそこの白髪の女! これだけは言いたくなかったけどね、アンタ、相当なブ女よ!」
タラ子に矛先。勝負挑む相手考えろよ。どう考えてもタラ子の圧勝だろ。こいつ性格は難ありだけど、容姿はマジで天使だからな。あまり褒めると付け上がるだろうから直接は言わないけど。
「……失礼を百も承知で申し上げますが、あなたに負けるような顔は、もはや顔として成立していないと思われ」
おお、いいレシーブだ。さすが毒舌天使。
「おっほっほ!! そうよ! アタクシ以外の人間の顔なんて、醜くて見ていられないわよね!」
むむっ、ブス姫がポジティブシンキングという名の力技で際どいコースを抉ってきた。
「そういうこと言ってんじゃないんですがねぇ……じゃあ勝負しますか? そこら辺歩いている人に、あたしかあなた、どっちが可愛いか聞いてみましょうよ。特別ルールとして、あなたに一票でも入ったら、あたしは首を斬って死にます」
「命賭けられるくらいナメられてるのアタクシ!?」
やっぱりタラ子は強いな。こいつが喧嘩で負けるところなんて、想像できないもんな。口でも力勝負でも。
「もっ……もういいわよ! アンタたちがブス姫って言うならそうなんでしょ! アンタたちの中では!!」
その理屈はおかしい。
「ていうか、俺はともかく、こっちのアイリお嬢様は、一応あなたより身分が上だと思うんすけど。国王の娘っすよ、これ」
「ちょっと……ツンツンしないでください」
「は………?」
俺がタラ子の頭頂部をつつきながら改めて紹介すると、ブス姫はポカンと口を開けた。そのまま10秒間くらい静止する。そして、タラ子の目の前までズンズンと歩いてきて、その顔を見つめる。身長は……若干タラ子の方が高いな。
「はあああああ!? ア、アンタなに、国王の娘!? 嘘でしょ!!」
「自己紹介のとき、思いっきり名前に添えてお伝えしたんですがね。あと顔近いです辛いです臭いですキツいです」
どうやらブス姫は人の話を聞かないタチらしい。バツの悪そうな顔で狼狽えるブス姫。そりゃ、姫より王女の方が位は高いもんな。
「ふっ……ふん! それじゃ、今までの無礼は特別に見逃してあげる! 本題に入るわよ!」
「あなた、現在進行形で無礼なんですが。まあいいです、そちらにお座りください、ブス姫」
「くっ……わ、分かったわよ!!」
ブス姫でオッケーなのかよ。相手の位が分かった途端に手のひら返して……やっぱりこういう時代の身分の力って凄いんだな。ごく普通の二……四人家族の一人である俺としちゃ、姫も王女もどっちも同じ、雲の上の存在に思えるがね。




