第六十四睡 正夢
「はあ……こりゃまたご立派な入り口だこと」
タラ子に案内され、ついに大広間の前に到着した。荘厳華麗で大迫力な、門のような扉を、俺は口をぽかんと開けて見上げていた。
「ここにお姫さんが来るっての?」
「お姫“さま”です。いえ、それがね、予定よりも早くご到着されたみたいで……もう部屋の中にいらっしゃいます」
「え、マジ?」
「マジです。ですから、改めて気を引き締め直してください。あたしも直接お会いするのは初めてですので、先方の人となりとかは分かりませんが……服装はまあ、ジャージでもいいですけど、一応シワくらいは伸ばしておいてください」
セーラー服の奴に言われてもな……。
「お前もそんな服装じゃなくて、もっとお嬢様らしい、ドレスとか、そういうのを着こなした方が良いんじゃないのか? てかこう言うときにセーラー服である理由を簡潔に述べてくれろ」
「……あたしは良いんですよ。ご自分の心配をしてください」
何で頑なに話そうとしないんだ? ひょっとして、罰ゲームとかか?
トランプで負けたから1週間セーラー服生活……みたいな。でも、そうだとしても、それはどこで手に入れたんだ? こんな時代に、こんな今風な衣装を作れる奴なんて……。
「心の準備、出来ましたか? じゃあ、開けますよ」
「え、ちょっと待って……」
俺の言葉を無視し、タラ子はゴージャスな扉を開けた。中には、二人の男女がこちらを向いて立っていた。背の高い執事のような姿の男と、もう一人は……
「おーほっほっほ!! 遅かったわね……勇者! 待ちくたびたわよ!」
「なっ……!?」
俺は喉が詰まる思いだった。
笑い声だけで高飛車キャラなのが分かる、背の低い女性の格好を見て、俺は体がガクガクと震えるのを感じた。そのまま振動が抑えきれない左手で、女性を指差す。渇ききった喉から放たれた枯れ気味の声で、俺は言った。
「あんた……夢の……!」




