第六十一睡 やっぱり主人公は鈍感じゃなくっちゃね!
帰り道、一番前を自由になったミーナが歩き、続いて子どもを背負ったヒーナ、俺と続き、最後尾にはタラ子という風に、細い山道を一列で歩いている状態。
俺はヒーナにおぶさっている、小さな背中を見つめていた。死んでるん……だよな。ヒーナの言う通りだ。もう少し早く来たら、あの女の子は助かっていた。そう考えると胸が締め付けられる思いだった。
視線に気付いたのだろうか、前を歩いていたヒーナが俺に歩調を合わせてきた。隣に並ぶと、何かをブツブツ喋っているのが分かった。
「どした、ヒーナ? 考え事か?」
「えっ? あ、いや……何でもねぇよ」
「あっそ。じゃあさっさと歩け」
何でもないワケないのは分かってた。ヒーナはそのまま俺の隣を歩き続けた。
「あのさ、改めてちゃんと礼、言っとかないといけねぇよな」
ヒーナはまたしても俺とは別の方を向いて言った。
「いや、さっきも言ったじゃん。さすがの俺だって女の子を山に置き去りにすんのは……」
「そうじゃねえよ! そうじゃなくて……あの時、あーしを助けてくれたこと、だよ」
「ああ………あれか」
正直、もうどうでもよかった。タラ子のおかげで、今じゃ傷も痛みも全く残ってないし。
「気にすんなって。さっきも言ったが、俺はただ、後ろにいる奴が俺にしてくれたことと、同じことをしただけだ」
俺はタラ子をチラリと見て言った。
「あなたの場合は本当に身代わりになっただけですけどね。せめてお腹にチモドキソウを入れてたんだぜ、くらいのエンターテイナーぶりは発揮してほしかったですがね」
タラ子はそう言いながら、俺たち二人をスイスイと抜かしていった。相変わらず生意気な……。
こうして俺とヒーナが最後尾を歩く形になった。気まずい。何でこいつ俺の隣を歩いてるわけ?意味が分からんよ。
「あ……あのさ!」
ヒーナが裏返った声で言った。
「あーし、バカだから! こういうときになんて言ったらいいか分からないけど、その……サンキュな。あと、正直あーし、テメエのこと誤解してた。どうせ根性なしのクズ野郎だろうと決め付けて、勇者に向いてるかどうか確かめる、なんて偉そうなこと言って……ゴメン」
ん、ちょっと可愛いぞ、この漢。こいつ、複数のギャップを使いこなせるというのか。ヤバい、ドキドキが止まらぬ。
しかしながら、こうもド直球に礼と謝罪を言われたとき、俺はどうしたらいいんだ? 「どういたしまして」だったらなんか上からっぽいし、「無事で良かった」とか言って抱き締める? いやいや、死ぬ。死ぬ死ぬ死ぬ。自分がキモすぎて御陀仏だわ。かと言ってふざけて「お前みたいな猿が人に謝ることを知っているとは笑止」とか言ったら、ちゃんと自分の気持ちを伝えたヒーナを否定することになる。となると……
「……眠いな」
これしかない、よな。俺らしさを崩すこともなく、なおかつヒーナを傷付けることもない。我ながらベストアイディ……
「らめんたあっ……!」
フルスイングのグーパンチが我輩の右頬に炸裂。吹っ飛ぶ拙者。やっとのことでアテクシの方を向いてくれたヒーナ。なにさ、おいどん何か変なこと言ったか?
「前言撤回だ……このクソニートがあああっ!!」
ヒーナは絶叫しながら走り去っていった。前を歩いていたタラ子とミーナをも抜かして。
顔、赤かったな。前半は恥じらい、後半は憤怒。はっきり分かんだね。何で殴られたかは分からんけど。




