第五十二睡 パーティー結成
「あなたぁっ!! 城の兵士から聞きましたわよ!! 昨日、性懲りもなくまた遊郭に出歩いたそうですわね!?」
「マ、マリア! 聞いてくれ!! 儂はただ“勇者が来てくれたからもう安心じゃ”ということを子猫ちゃんたちに伝えようと……」
「その臭い口をお閉じになって下さる!? 魔王よりも先にあなたの口臭で世界が滅びますわ!!」
「ふ、ふええ……ちゃんとまいにち、はみがきしてるのじゃあ……!!」
またやってんのかこの人達。
昨日と全く同じ光景。鬼と化したマリアさん。幼女と化したユウカク王。つかまた遊郭行ったの? タラ子の話では三日に一回くらいのはずでは? 俺を使って上手く言い訳しようとしてるけど、全く効果ないし。
「あの……おはようございます。ユウカク王、マリアさん」
なるべくマリアさんを刺激しないよう、腫れ物に触るようにそーっと朝の挨拶をする。
「あら十諸さん、おはようございますわ! 突然ですけど、エロオヤジの解体ショーとか興味あったりするんですの?」
「いえ、全く興味あったりしないですの。根暗そうな見かけだけでマッドな人間だと判断しないでください。てか怒りすぎでしょ。余裕で殺す気じゃないっすか。なんか俺に用があったんでしょ?」
怖い。笑顔のはずなのに、マリアさんのこっちを見る目が凄く怖い。何でこんな恐怖の塊みたいなマリアさんを何度も見てるのに一向に遊郭通いをやめないんだ、この王は。
「チッ……仕方ないですわね。ほら吐瀉物、早く十諸さんに用件を伝えてくださいな」
「ぐびえええ……と、と、としゃぶつじゃないのじゃあぁぁぁ……おうさまなのじゃあ……」
夫に“ほら吐瀉物”って言う人もなかなか希だよな。
「それならガタガタ言わずに早く話を進めてくださる!? あなたみたいな人間のどこが王ですの!? ちょっと吐瀉物って言われたくらいで泣きわめいて……情けない! 私だって十分オブラートに包んでいますのよ!? 本当ならゲロって言いたいところを必死に抑えて……」
「マリアさん、その、もうその辺で」
怒りで気品の欠片もないことを言い出したマリアさんを、俺はどうにかしてなだめる。マリアさんは一つ咳払いをした。
「……失礼いたしました。私としたことが、少し熱くなりすぎましたわ。この人はもう使い物にならないので、私が代わりに説明しますわ。十諸さん、早速お仕事です。この近くに魔物がいないかどうか、確かめてきてくださいな!」
「ようはパトロールみたいなもんすか? つか、アイリお嬢様は?」
俺はわざとらしく辺りを見回してみせる。
「アイリはまだ寝ていますわ。なので、今回はミーナとヒーナと三人で行動してくださると嬉しいですわ!」
「「は?」」
俺とヒーナは、こっちが兄妹じゃないかってくらいに息ピッタリに聞き返した。そして二人同時にマリアさんに詰め寄る。
「おいおいマリア姐さん。そりゃねーだろ。何であーしらがこんなポンコツと組まなきゃなんねぇの? 完全に足手まといだろ、この駆け出し勇者」
「ほんと、冗談キツいっすよ。ミーナはともかく、こんな頭の軽いヤンキーと一緒にいたらこっちにまで被害が及びますって。一人の方が気ぃ楽っすよ」
「んだとテメエッ!! あーしがゴミーナより頭軽ぃって言いたいのかよ!!」
怒りのポイントそこなんだ。俺たちはマリアさんの前で互いに睨み合う。
「……昨日の十諸さんの戦いを見た限り、貴方達三人は実力的にはほぼ拮抗していますわ。ただ十諸さんには経験が足りない。力があっても使い方を知らなければ宝の持ち腐れ。だからこそ、力が対等な貴女達クトゥルフ姉妹と行動させることで、戦いというものを十諸さんに叩き込むのですわ」
「ちょっと待てよマリア姐さん! さっきから黙って聞いてりゃあ……あーしらとこのポンコツが対等? んなわけねぇだろ! こんな奴と肩を並べるなんざ……」
痺れを切らしたかのようにヒーナが一歩前に出て主張する。
「あら、そうとは思えませんわね。少なくとも私の見た限りでは」
「くっ……分かったよ!! そこまで言うなら見せてもらおうじゃねぇか! コイツが本当に勇者と呼んでいい人間なのか、あーしが見定めてやるよ!!」
「ふふ……頼みましたわよ」
凄い、まんまとマリアさんの狙い通りの展開になった。
「わーい!! やったやった!! 勇者さんと一緒! 勇者さんと一緒!! やっほおおおおい!!!」
「はあ……ったく、行くぞ、チキン野郎」
「へいへい、せいぜいお荷物にならないよう、尽力いたしますよっと」
こうして俺は、クトゥルフ姉妹と共に、しぶしぶ魔物討伐へ出掛けることになった。この後、マリアさんと二人っきりになったユウカク王がどうなるのかは、もう考えないでおこう。あのヒーナですら“姐さん”と呼ぶ程の人間。おそらく、本気のマリアさんはあんなもんじゃないだろう。絶対怒らせちゃダメだ。
つかタラ子はいつまで寝てるんだよ。もう昼過ぎだぞ。二度寝しようとした俺が言えたことじゃないけど。




