第五十一睡 爽やかとは程遠く
「ん………」
目を閉じて開けたら朝になっていた。そんな感覚だった。それほどグッスリ眠ってしまったのだろう。あっという間に時は流れ、新たな一日が始まってしまった。
俺の目に映っていたのは、天“井”の方だった。そりゃそうだ。物置部屋に行ってないのに殺されたら、もう打つ手なしだもんな。
この世の全てを飲み込んでやると言わんばかりの大アクビをしてベッドから一歩離れる。
「………寝足りねぇ」
そして一歩近付き、もう一度そこへダイブする。自らの体温で熱を帯びた布団は、俺を優しく包み込んでくれた。二度寝不可避。
眠りかけた時、部屋の扉がドンドンと音を立てた。無視を決め込もうとしたが、しばらく待っても全然鳴りやむ気配がない。それどころか、徐々にその音は強さを増していった。
「勇者さーん? いますかぁー?」
このバカそうな声は……ミーナか。ってことはあのヤンキー妹も一緒だろう。
「勇者さーん? いたら返事してくださーい!」
「いませんよー」
お引き取り願おうか。俺は扉の近くに行って応答した。
「ありゃ、いないのか……じゃあ後でまた来ますねー! よし、行こっか、ヒーナちゃん!」
おお、奇跡的なバカだ。一か八かの作戦だったが……上手くいって良かった。これで俺の二度寝は無事に確保だ。早速ベッドに戻っ―――
「リバーサッ……!!」
ベッドに戻ろうとする俺の後ろでバキッと木の音がした。そして次の瞬間、俺は宙に浮いていた。どうやら蹴破られた扉が背中に命中し、一緒にぶっ飛ばされたらしい。運よくベッドに着地できて俺の国宝級のイケメンフェイス(嘲笑)は事なきを得たが、背中が尋常じゃなく痛い。
「あ、なーんだ! やっぱりいるじゃないですか、勇者さん! おっはよーございまーす!! それにしてもいい朝ですなぁ!! よーし、今日も元気に頑張るぞーー!! おーーー!!!」
こんなストレスに一生縁がなさそうな笑顔の持ち主が、こんな荒々しい手段を用いるわけもなく。
「よお、あーしらに居留守使おうなんざ、ここに来て一日にも満たねぇ分際でずいぶん偉くなったもんだな、チキン野郎?」
番長が降臨した。そしてベッドに片足をズンと乗せ、弓を構えて弓の先を俺に向け、ドス黒い声で言った。俺は両手をあげて無抵抗のポーズを取る。
「いやいや、そもそもあれって居留守になんの? おたくのお姉様が騙されるのが常識的におかしいだろ」
「いいか、ゴミーナに常識は通じねぇんだ。ゴミーナを相手にするときは、他よりちょっとバカな猿を相手にするぐらいが丁度いいんだよ」
血を分けた姉に言うことじゃないよねそれ。
「んで、わざわざ人の部屋のドアぶっ壊すほどの用事って何?」
質問すると、ヒーナは弓を降ろした。
「ユウカクのじいさんに言われたんだよ。テメエを連れてこいってな」
国王をじいさん呼ばわり……歪みないなこの子。
「やれやれ、朝っぱらから動く気になんかなれないんですけどねぇぇぇぇ」
「バカ、もう昼過ぎだっつーの」
ヒーナが溜め息混じりに言う。マジか、そんなに寝てたのか。まぁ、昨日あんだけ動いて体力使ったら、それを全回復するだけの莫大な睡眠時間を要するのは分かるけどさ。あんまり寝た気がしねえっていうか……。長時間睡眠の後の心地よさがない。いい気はしないな。
「さあさあ勇者さん! レッツゴーです!! ほらほら、行きましょ行きましょ!!」
「ちょっ……分かったから引っ張んな……」
双子は俺の手を片方ずつ取って、王室へと導いて行った。




