第四十九睡 コンティニュー
「で? 俺はこれからどうしたらいいんだ、大天使さま? あんたの身の回りの世話でもして、永遠に天国生活を営むとか? だとしたら、これから宜しくな」
死んでしまったものは仕方ない。釈然としない部分はあるけど、どうせ生前も生きてるか死んでるか分からないような薄っぺらい人生だったんだから、ここでの暮らしにもすぐに慣れるだろう。テスティニアも黙ってたら超絶美女だし、雑用ぐらいなら悪くないかもしれない。ここは天国。天国に苦しみはあってはならない。遊び放題、寝放題。冷静に考えると、お先虹色じゃん。俺の期待は風船のように空気を帯びて、みるみる膨らんでいく。
「無理よ」
パーン。
「あんた勇者でしょ? 世界を救わなくちゃダメなんでしょ? なら、目標を達成するまで何回でも立ち上がらないと」
「立ち上がる術がないだろうよ。よもや生き返らせてくれるわけでもあるまいし」
「そのよもやよ。私があんたを生き返らせてあげるわ」
俺はジト目でテスティニアを見た。
「なーにその目は? あのね、私は大天使なのよ? 死人を生き返らせるなんて朝飯前。あんたにその意志があれば、だけどね」
「俺はここで一生ゴロゴロして暮らし」
「さすが選ばれし勇者ね。そうこなくっちゃ。じゃあ早速生き返ってもらうわよ」
「こんのババ……抜きしたい」
俺の望みを毛程も聞かず、テスティニアは言い切った。
「ちょい待ち。俺を生き返らせるメリット、あんたに無いだろ?」
「大アリよ。あんたに魔王を倒してもらわなきゃ困るの」
「さすがの魔王も天国にまで手を伸ばそうとは思わねぇだろ。あんたに被害が及ぶことは考えられないんじゃ?」
「あー、もうガタガタうっさいわね。とにかく生き返らせるの! 今後またあんたが無様に死んだ場合、問答無用で下界に送り返してやるんだから!」
無茶苦茶だ、無茶苦茶すぎる。話が全然通じねぇ。
「妹さんだって頑張ってるんだから、あんたも頑張りなさいよ! 男のくせに情けないわね!」
「杏菜はあんたの部下に護られてるだけじゃないのか?」
俺はアクビ混じりに言った。
「ちっがうわよ!! 妹さんは、私が部下に持たせた武器を使って魔王の四天王を追っ払ったのよ!?」
そんな俺の態度に青筋を浮かべるテスティニアの言葉に、俺はピクリと反応した。
「マジ?」
「マジよ! まぁ、相手はだいぶ力を制限されていたとはいえ……。今後も魔物が現れるのは目に見えてるから、妹さんは戦い続けることになるわ」
「おいおい、おかしいだろ。タラ子の話じゃ、世界同士を繋ぐピューエントは、天使にしか見えないはずじゃん。どうやって魔物がこっちに来られるっての?」
テスティニアは僅かに驚いたあと、急に真面目な顔になった。
「へえ、アイリがそう言ったの? 悪いけどその情報、真っ赤な嘘よ」
「はあ? 嘘ってどう言うことだよ?」
「そのままの意味よ。確かにあんたみたいな人間には見えないかもだけど、ピューエントが見えるのは天使だけじゃない。もう一つ……魔物にも、ピューエントを自由に見て、使用できる力はあるわ。今回のようなゴバーネイダーだけじゃない。ベスチャもメダイオもね」
俺はだらしなく右手を挙げた。
「異議あーり。もし魔物がピューエントで世界を行き来できるなら、とっくの昔に俺の世界は滅んでるはずだろ。でも俺は今まで生きてきて、魔物の存在なんて直接見たこと無いし、聞いたこともないぞ」
「いい着眼点だけど、まだ甘いわね。デフォルメ王やアイリも言ってたでしょ?“人里からそれほど離れていない場所に魔物が出現したのは初めてだ”“魔王は世界征服の準備期間中だ”って。今回、妹さんに接触した魔物は、ただの下見役。勇者であるあんたの妹さんがどれほどの人間なのかを調査する役だったと考えて間違いないわね。最近になって、魔王は少しずつ、しかし着実に動き出しているわ。その証拠に、魔物が前はいなかったあらゆる場所に出現するようになった。あんたが戦ったサイクロプスもそう。その中からピューエントを通って妹さんの世界……あんたが元いた世界にやってくる魔物もたくさんいるでしょうね」
「じゃあ、杏菜にも危険が及ぶんじゃ……」
俺はテスティニアの話に、食い気味にそう言った。テスティニアは溜め息をつき、
「なんのために優秀な部下を二人も向かわせたと思ってるのよ。それに、妹さんだって私の大事な武器をビックリするほど使いこなせてるし。それこそ魔王とかその辺りのレベルが来ない限りは、妹さんは死ぬことはないわよ、絶対に」
安堵が強張った全身の力を緩めた。そうか、あいつも戦ってくれてるのか……
「なら、俺ももうちょっとだけ頑張んないとな」
「生き返る気になった?」
「まあな、いっちょ頼むわ」
俺はテスティニアの方を向いて、だらんと棒立ちになった。
「いいわ、ご希望通り、生き返らせてあげる」
テスティニアも同じく、髪をかきあげて俺の方に正対した。
「二つ大事なことを伝えておくわ。一つ……生き返ったあんたは“死んだ原因となった場面”まで戻ることができる。二つ……ある同じ原因で死んだ場合、コンテニューできるのは“三回”まで。つまり同じ敵に四回やられたらゲームオーバー。もうここに来ることはできない」
「えーっと、早い話が、毒グモに三回刺されて復活したあとで毒キノコ食って死んだら、それはセーフってこと?」
「ええ、生き返れるわ。ただしその場合、毒キノコの死から生き返ったあとでもう一度毒グモに刺されたらゲームオーバーだから。てか何で毒ばかりなのよ」
なるほど、なんとなくルールは分かった。ようはタラ子にあと三回殺されたら俺の命はジ・エンドってわけね。その途中で崖から落ちようとも焼け死のうとも。
「まっ、せいぜいヘマしないように気を付けなさい。死んだらその都度アドバイスくらいはしてあげるから。じゃあ、行くわよ」
「いつでもどーぞ」
テスティニアは俺に手の平を向けた。そこから眩しい光が放たれる。俺はそれから逃げるように、そっと目を閉じた。
それにしても、何でタラ子はあんな嘘をついたんだろうか……?
「ふう、行ったみたいね……いくらとんでもない無気力とはいえ、本当にあんな奴で大丈夫なのかしら? あっ、そういえばあいつ、途中から私のこと、完全に呼び捨てにしてたわね! 覚えてなさいよ、クソ死人が!!」




