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BON~粒ぞろいたちの無気力あどべんちゃあ~  作者: 箒星 影
三度寝 奪われた日常
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第四十五睡 演技派

 二人が出ていったあと、部屋にはわたしとヤヨさん、そしてルイネさんの三人が残りました。


「……って、何でわたしとヤヨさん、そしてルイネさんの三人が残るんですか? 漢ちゃんと俊くんも帰ったことですし、あなたたちも出て行って下さいよ! それとも、まだ何か話したいことでもあるんですか!?」


「あるッスね。大事なことが」


「何ですか! じゃあ早く言ってくださいよ!」


 ヤヨさんの声色の暗さに若干戸惑いつつも、面倒事を避けるため、両親が帰ってくる前に何とか二人を帰したいわたしは、焦りのあまり少し声を荒くしてして言いました。



「アナタのお兄さん……死んじゃったんスよ」



「……は?」



 突然すぎる報せに、わたしは口をぽっかりと開けて聞き返す他ありませんでした。


「いや、だから殺されたんスよ。アイリに。ちいとばかし余計な事に踏み込んじゃったみたいでね。まぁ早い話が自業自得ッスよ」


「ちょっとヤヨ……言い方ってものがあるですよ……!」


「言い方? オレは事実を言ってるだけッスよ、ルイネ。杏菜さんのお兄さん、輿ノ助さんは、自業自得で仲間に殺されちゃいましたーっと。オレはさすがに、こればっかりはフォローのしようがないッスよ。殺されたって文句は言えないッスね。まっ、最初(はな)から期待なんかしてなかったッスけ―――――っ!!」


 わたしは気が付くと、ヤヨさんに向かって槍を突き出しました。それは当たることなく、ヤヨさんの横を通り過ぎて後ろの壁に突き刺さりました。ヤヨさんは表情ひとつ変えずにわたしの方を見ました。


「うひゃあ……危ないッスねぇ。何するんスか急に?」



「もう一回言ってみろ……!!」



 わたしは怒りを抑えきれず、乱暴な口調でヤヨさんに言い放ちました。


「あ、杏菜さん! ヤヨも……喧嘩はダメですよぉ……!」


「天使ってことは、アイリさんの仲間だろ!? 勝手にそっちの事情でお兄ちゃんを連れていっておいて“最初から期待はしてなかった”!? ふざけるな!! お兄ちゃんを………お兄ちゃんを返せ!!!」


 わたしはルイネさんの言葉を無視して、壁から槍を引き抜くと、再びヤヨさんにそれを降り下ろします。


「返せってねぇ、別にオレが殺めたわけじゃ……おっと」


 しかし、ヤヨさんは涼しい顔でそれを掴みました。


「はいはい、どおどおどお。キャラが崩壊してるッスよ~。人の話は最後まで聞け……リルさんにも言われたばかりでしょ? オレ言いましたよね? “オレは”フォローのしようがない……って。賢いアナタなら、この意味が分かるッスよね?」


 わたしの眼は恐らく、獣のようになっていることでしょう。歯を食い縛り、目の前の相手を突き刺してやりたいという強い思いから、変わらず両手に力を入れ続けました。



「杏菜さん!!!」



 ルイネさんが甲高い声でわたしに叫びました。不意を突かれたわたしは、咄嗟に手の力を緩めてしまいました。そしてルイネさんの方をギロリと睨みます。自分の眼光の鋭さは自分では計れないため分かりませんが、よほど恐かったのでしょう。ルイネさんの瞳から、ついに涙が流れ落ちました。


「あ"の"っ……ぐすっ……話を……ふええっ……聞いてくだしゃいっ……です……!!」


 号泣するルイネさんに、わたしの怒りは少しだけクールダウンしました。


「お兄さんは……うぐっ……必ず、生き返るですから……もう喧嘩はやめて……ですっ……」


「無責任なこと言わないでくださいよ、ルイネさん。死んだ人間を生き返らせるなんて、そんなの……」


「出来るんスよ、これが」


「嘘! 出来るわけがない!! お兄ちゃんはもう帰ってこない!! こんなことなら、もっとちゃんとした別れ方、すればよかった……」


 目に涙を浮かべたわたしの肩に、ヤヨさんが優しく手を置きました。


「触らないで!! わたしは、あなたを―――」


「ここまでッスかね。実はね、杏菜さん………」




      ●




「……本当に、そんな都合のいい話があるんですか?」


 ヤヨさんの話を聴き終わったあとも、わたしは半信半疑でした。ですが、そのあとでルイネさんの必死の説明もあってか、どうにも信じざるを得ない気持ちに、わたしはさせられてしまったのです。


 同時に、さきほどの行いを、わたしは強く恥じました。そしてヤヨさんに精一杯頭を下げました。


「そうとは知らずあんなに失礼なことを……本当に、すみませんでした!!」


「えっ、ちょっ、杏菜さん!? 杏菜さんが悪いことなんか何もないッスよ! オレの悪ふざけのせいッスから!」


「悪ふざけ……?」


 わたしはちょびっとだけ頭を上げ、ヤヨさんを見ました。ヤヨさんはこちらから目を逸らしています。


「その……天使やってるとね、少しだけ魔が差してね、ちょっとは悪魔っぽいことしたいなぁ、とか、そういう気持ちが芽生えるんスよ。この格好もその影響ッス。さっきの状況はそれにもってこいだったもんで、つい“殺されたって文句は言えない”とか“最初から期待はしてない”とか、悪役っぽい台詞を言いたくなっちゃって……てへっ!」


 コツンと自分の頭を小突いて舌を出すヤヨさん。わたしの槍はとてつもない光を撒き散らしました。ヤヨさんへの怒りの気持ちからくる“祈り”のパワーによって。


「うわあああああ!! ホント、ホントすみませんした!! もうやらないッスから! 願い叶ったんで、今日からまた天使として、善の道を真っ直ぐに歩んでいく所存ッスから!! この通りッス!!」


「はあ………」


 頭を下げているわたしより更に低い位置に頭を持ってきて土下座を始めるヤヨさん。わたしは祈りの力を弱めました。わたしのやる気に伴って光がどんどん萎んでいきます。許してあげましょう。天使にとって、地面に頭を擦り付けるほど屈辱的なこともないでしょうし。


「るいねでも、ヤヨの演技に気付けなかったです……人を騙すのは駄目だと思うです……」


 ルイネさんも軽蔑的な視線でヤヨさんを見ている事ですし。これ以上の仕打ちは可哀想ですね。

 

 とりあえず、これでチャラ……で良いんでしょうか? てかこんな頭の軽い(二つの意味で)、悪魔に憧れを抱く天使が護衛なんて、不安で仕方ないんですけど……。


 それに、どうしてお兄ちゃんはアイリさんに殺されなくちゃならなかったんでしょうか。お兄ちゃんが踏み込んだ“余計な事”って、一体……?




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