第四十一睡 祈りは希望の光へと
「漢ちゃん……」
わたしは依然、涙を流しながら、静かにその名を呼びました。漢ちゃんはわたしを見ると、悲しそうに微笑みました。
「やっとアンタを護れる時が来たみたいだな、杏菜。心配すんな、これ以上このカス女にアンタは指一本触れさせない」
「痛たたた……痛いなぁ、まったく。あはっ、まさか人間ごときに殴られるとは思わなかったよ。あははっははっはははははは!!」
倒れていたリルさんは、まるでゾンビのようにゆっくりと起き上がりながら、狂ったように高笑いをしました。と思うと、一瞬にして漢ちゃんに間合いを詰め、その胸ぐらを乱暴に掴みました。
「気に入ったよ。楽には死ねない? それはキミの方だ! ボクがこれからたっぷり痛ぶってあげるよ!!」
リルさんは漢ちゃんの顔を思いっきり殴りました。
「死ね! 死ね!! 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!!!」
何度も、何度も。不気味な笑みを携えて、何度も、何度も。
「漢ちゃん!!」
「杏菜……早く逃げろ……」
自分がボロボロになっても、漢ちゃんはわたしを気にかけます。その目にはうっすらと涙が滲んでいました。漢ちゃんはこんなにもわたしを護ってくれているのに、わたしは口ばっかりで、何もしてあげられない。やっぱりわたしは無力。俊くんに続いて漢ちゃんがやられていくのも、ただ黙って見ていることしか……。
そんなの嫌だ。助けたい。わたしの大事な友達を。あまりにも残酷すぎる。最悪だ。やっぱり占いなんてあてにならない。占い、わたし一位だったのに。こんなの、絶対におかしい。占い、何て言ってたっけ。運命的な出会い、おしゃれ、困ったときの神頼み……。
「神、頼み……?」
自分でも頭がおかしくなったのではないかと思いました。気が付くとわたしは両手を組んで願ってました。それくらいしか、精一杯に祈ることしか、今のわたしなんかには……。
神様、お願いします。わたしは、わたしの大事な友達を……
「助けたいんスか?」
「え……?」
いきなり真後ろから聞こえた声。ビクッとして後ろを見ると、背の高い男性と、背の低い女の子が立っていました。
「オレで良ければ力をお貸しするッスよ? これ、使ってみたらどうッスか?」
状況に似合わない、力の抜けた声をした男性は、何やら槍のような物をわたしに差し出しました。
「だ、誰なんですか? すみませんが、今はふざけている場合じゃ……!」
「ふざけてなんかないッスよ。確かにこれは、何もしなけりゃ普通の槍ッスけどね。もしもアナタにお友達を助けたいという強い心があれば、その槍もきっとそれに応えてくれるはずッス。占い、お好きなんスよね? この状況で神頼みするくらいなんスから、当然神様とかも信用してるッスよね? そんなら、騙されたと思って、アナタのありったけの願いを、その槍にぶつけてやってくださいッス」
わたしは手渡された槍を見ます。初めて持つからよく分からないけど、だいぶ軽いです。なんだか納得はいかないけれど、他に方法もないので、わたしは槍に向かって精一杯に祈りを込めました。
お願いします、わたしは漢ちゃんを助けたい……お願いします、お願いします!!
その時でした。
「え……槍が……光って……!?」
手に持った槍は激しい光を放ちました。加えて、体に凄まじい力が湧いてきた気がします。
「大成功ッスね。アナタの祈りの力、見せてやってくださいッス」
リルさんは顔だけをこちらに向けました。そしてわたしの後ろに立っている二人の人物を見て目を見開きました。
「っ……どうしてキミたちがここに……? それにその槍……あーあ、“厄介な役回り”になっちゃったなぁ」
リルさんは漢ちゃんをポイと投げ捨て、わたしに向き直ります。わたしはそんなリルさんに槍の先端を向けました。
「リル=カラネラさん。わたしはあなたを倒します。あなたはわたしの……わたしの大切な親友に、涙を流させましたから」




