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BON~粒ぞろいたちの無気力あどべんちゃあ~  作者: 箒星 影
三度寝 奪われた日常
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第三十九睡 ゴバーネイダー

「おいおい、嘘だろ……」


 中学校に着いたわたし達は、期待を胸にひとまずグラウンドに行きましたが、そこには誰もいませんでした。動いている人、いえ……動ける人は、誰も。


「ど、どうしたらいいんですか! ここも既に……!」


「落ち着け杏菜! とりあえず体育倉庫に行くぞ! 武器なんか役に立つか分かんねぇけど、ないよりはマシだ!」


 漢ちゃんはわたしの手を引きます。


「待ってください、漢ちゃん!」


「んだよ! まさかもう歩けないなんて言うんじゃねぇだろうな!!」


 わたしの方を見た漢ちゃんは、瞳孔が開いていました。


「そ、そうじゃなくて……その、なんかさっきからわたしたち、先回りされているような……」



「せ~いか~い」



 わたしと漢ちゃんは、同時に声のする方向――――空を向きました。そこに浮かんでいたのは……翼を生やした人間でした。


 わたしよりも少し年上くらいの女の子。黒の生地に薄紫色のレースのスカートと、紫と黒のブラウスを着た、いわゆるゴスロリ系ファッション。髪の毛も紫色の背中くらいまであるツヤツヤなロングヘアーで、女性の平均を少し上回るくらいのやや高めな身長も手伝って、さぞかし大人びた方かと思いきや、顔立ちはまだ幼さを残しており、化粧もほとんどしていないにも関わらず、ものすごい美女でした。そして背中からはコウモリを彷彿とさせる真っ黒な翼がバサバサと……ってこんな落ち着いて見てる場合じゃないですっ!


「あ、あなた一体、何者なんですか! 何の目的でこの街の人たちを襲うんですか!?」


 地上10メートルくらいから、わたしたちを思いっきり見下している女の子は、紫色の髪をフワリとかき上げ、クスリとあどけない笑顔を浮かべました。


「わぁ、えらいえら~い! ちゃんと初対面の相手に敬語を使うなんてお利口さんだねっ! じゃあじゃあ、そっちの見るからに頭が軽そうなキミも、実は結構礼儀正しかったり?」


「んだとテメエッ!! 降りてきやがれ! テメエが皆をこんな目に遭わせたんだろうが! こっちは急にこんなことになって、頭こんがらがってんだけどよ、とりあえずテメエを倒しゃ全部解決すんだろ! 挽き肉にしてやるから、かかってこいよ!!」


 女の子に指を指され、若干バカにされた漢ちゃんは、額に青筋を浮かべて啖呵を切ります。しかし女の子には全く通用していないらしく、再び無邪気に笑いました。


「あはははっ! 思った通り、ヤンキーさんだ! 二人とも面白いから、特別に自己紹介してあげる! ボクの名前はリル=カラネラ! 見て分かる通り、サキュバスちゃんでーす!」


 リルと名乗る女の子は、ペロリと舌を出して挨拶してきました。サキュバス……男性の夢の中に現れて精を奪い取るといわれている、夢魔のことでしょうか? というか、精を奪い取るってどうやってやるんでしょうか……?


「けっ、サキュバスだかシラバスだか知らねぇけどよ、女のくせに“ボク”とかふざけ倒した一人称しやがって! テメエも女だったらもっと女らしく生きろや!」


 ああっ、そんな全国のボクっ娘とボクっ娘ファンから苦情が来そうな事言って……。ていうか女らしくとか、漢ちゃんだけは言っちゃだめでしょ。


「あはははっ! キミ、本当に面白い! でもさ、魔王様の四天王の一人であるボクにそんな口の聞き方しても良いの?」


「え……?」


 わたしは思わず声が出ました。魔王……魔王ってあの、アイリさんが言っていた、今世界を滅ぼす準備をしている、あの魔王? その四天王ってことは、この人……。


「聞いて聞いて! ボクね、こう見えても上級魔物(ゴバーネイダー)なんだぁ! キミ達みたいな人間、本当なら一瞬で全滅させることなんか朝飯前!」


「ごばーねいだあ? テメエ、何をトチ狂ったことをダラダラと……」


 漢ちゃんの方を向いたリルさんの目は、まるで氷柱のように冷たく鋭いものでした。ゴバーネイダーというのは、そんなに偉いのでしょうか?


「さっきからうるさいなぁ。まあいいや、そろそろお話も終わりに────っ!!」


 突然、リルさんの全身に透明な液体のようなものがバシャリとかかりました。ツンとした香り……これ、灯油……?




「伏せろ!!」




 男の子の叫び声が聞こえて、わたしと漢ちゃんは反射的に、ほぼ同時にしゃがみこみました。


 頭を抱えながら上を見ると、灯油まみれになったリルさんに、輪ゴムで縛られてメラメラと燃えたマッチの束が降りかかりました。一瞬にしてリルさんは火だるまになり、地面にドサリと落ちました。


 わたしたちはマッチが飛んできた方向を同時に振り向きました。そこには、漢ちゃんと同じくらいによく見てきた姿がありました。汚れた白いユニフォームが沈み行く夕日に照らされ、オレンジ色に輝いていました。その手には、灯油が入っていたのであろうバケツが握られていました。


「し……俊くん!!」


「よっ、息災か、二人とも。危ないところだったな」



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