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BON~粒ぞろいたちの無気力あどべんちゃあ~  作者: 箒星 影
三度寝 奪われた日常
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第三十八睡 混乱・石化の町

「ただいまです……」


 夕方、家に帰ったわたしは、玄関で大きな大きな溜め息をつきました。


「はあ……何であんなこと言っちゃったんでしょうか」


 昼間の漢ちゃんとの会話を思い出し、わたしはリビングのソファに倒れ込みました。そして顔を埋め、大声で叫びました。学校で黒歴史を作ってしまった男の子みたいです。情けないです。


 わたしはソファに寝っ転がりながらテレビをつけました。現実逃避しないとやってられないってんですよ。はあ、面白い番組でも見て気を紛らわしましょう……。


《し、信じられない光景です! こちらをご覧ください! 人が……人が石化しています!!》


 なんですかこれ、新手のホラー番組ですか。人が石化って、まぁたベタなネタを持ち込んできたものですね。こういうあからさまなヤラセ番組は嫌いなんですよ。漢ちゃんには純粋と言われましたが、こういうのは一発で分かってしまう上、観客や出演者のリアクションも演技丸出しなので、あまり好きではありません。


 マイクを持った若い女性がテンパった状態で指しているものは、まるで地獄でも見たかのような顔で固まっている、学生服に身を包んだ青年。確かに見た目は完全に石ですが、そんなもんは今日の発達したCG機能やら編集やらでどうにでもなるものなんです。でも変ですね、このチャンネルはこの時間帯、ニュースをやっているはずなんですが。それに青年の制服と、その後ろに映っている背景、どこか見覚えが……。


《た、大変です! あそこにも石化している男性がいらっしゃいます! えと、メガネとスーツを身に付けた……サラリーマンの方でしょうか? こちらも恐怖に恐れおののいた表情で固まっておられます!》


 わたしはリモコンを落としました。


「お父……さん……?」


 気が付いたら画面にピッタリと張り付いていました。他人の空似なんかじゃない、今テレビの中で紹介されている、石になっている人間は、紛れもなくわたしのお父さん……。左上に出ている“【速報】風秋町(かざあきちょう)の各地で石になった人々が発見”の見出し。右上には”生中継“の三文字。風秋は紛れもなくわたしが今いる町の名前。そして思い返してみれば、先ほどの青年の制服も、お兄ちゃんが着ているものとまったく同じでした。


「どうなってるんですか、これ。まさか本当に……」


《と、とにかく不可解な状況です! 住民の皆さんはなるべく外出を避け───え? だ、誰ですかあなた!! やめて、来ないで……きゃああああああ!!!》


 画面が激しく乱れました。乱れる前の一瞬、レポーターさんが何かを見た後で顔面蒼白になったのが見えました。わたしは画面から離れ、しばらくテレビを見つめていました。そこには怖くて逃げ出したのであろうカメラマンによって投げ出されたカメラによって撮られた、石になった女性の細い足だけが映っていました。


「あ……え……」


 頭がついていきませんでした。ただ一つ、この街に異常な事態が起こっているのは、火を見るよりも明らかでした。


「そうだ、お母さん!! お母さんは!?」


 パニックになったわたしは家の中を走り回ってお母さんを探します。しかし、この時間は家にいるはずのお母さんは、どこを探しても見付かりませんでした。


 わたしは家を飛び出しました。鍵をかけて籠っていた方が安全だというのは分かってます。でも、お母さんと、それに漢ちゃんや俊くんたち学校の皆も心配になったわたしは、まずは学校に向かうことにしました。あそこは非常時の避難場所として使われるため、お母さんとも会える可能性が高いと思ったからです。その道中にも、既に何者かによって石化させられていた街の人たちが視界に映りました。テレビで見たよりも段違いに衝撃が大きかったです。知っている人たちの恐怖に歪んだ顔を見るのが怖くて、わたしは目をギュッと瞑ってひたすらに走りました。この短時間でこんなに……やはりただ事じゃありません。


「杏菜……杏菜!!」


「あっ……漢ちゃん!!」


 見知った声がこちらに向かってきました。誰よりもよく聞いた声です。息を切らしながらこちらに走ってくるその姿を見ると、自然に涙が流れてきました。


「よ、良かった、漢ちゃん……ひっぐ……」


「おいおい、泣くなって! アタシがそう簡単にやられるタマかっての! アンタの方こそ、無事で良かった! 怖い思いさせてゴメンな? もう大丈夫だからな!」


 優しくわたしを抱き締めて、頭をポンポンとしてくれる漢ちゃん。みるみる心が落ち着いていくのが分かりました。


「ううん……ぐすっ……あ、漢ちゃんも、ご家族を探しに出てきたんですか……?」


 漢ちゃんがピクリと反応しました。


「いや……家に帰ったら鍵が開いてて、親父とお袋、あと弟がやられてた。お袋が玄関にいたから、何の疑いもなく開けちまったんだろうな。そんで何かと思ってついてたテレビを見てみりゃ、アンタの親父さんが映ってたからさ。慌てて飛び出して来たってワケ。こりゃ大分ヤベェぞ。様子を見る限り、既に住民の3分の2はやられちまったみてぇだな。残ってる奴も、時間の問題だろうよ」


「そんな……一体どうなって……」


 漢ちゃんの言葉に、わたしは再び不安になりました。


「心配すんな、アンタはアタシが護るから。いざとなったらアンタだけでも逃がしてやる。だから、アタシの傍を離れんなよ」


「漢ちゃん……」


「学校に行くところだったんだろ? 確かにあそこなら残ってる奴も多く集まるだろうし、何より武器も揃えられるし籠城もできる。急ぐぞ、モタモタしてたらアタシたちまで……」


「は、はい!」


 わたしは漢ちゃんと一緒に中学校に向かいました。


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