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BON~粒ぞろいたちの無気力あどべんちゃあ~  作者: 箒星 影
三度寝 奪われた日常
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第三十六睡 ある女子中学生の朝

「ふあああ……」


 小鳥さんのさえずりも一切聞こえないような目覚まし時計さんの怒鳴り声と、山の向こうから昇って来た太陽さんの細やかな朝の日差しに、わたしの目は抉じ開けられました。むくりと起き上がり、大きな大きなアクビをします。そして7時を指している時計を止めると、窓の外から愉快なさえずりが聞こえてきました。


 お兄ちゃんがいなくなってから、初めての朝が来ました。いなくなったと言うか、連れていかれたと言うか……。昨日の夕方、お兄ちゃんは、天使のアイリさんに連れられ、世界を救うために旅立っていきました。お別れの最期の一言が「生きろー」って、考えられないですよっ! 


 まぁとにかく、長年お兄ちゃんと同じ屋根の下で暮らしてきたわたしにとっては、なんだか新鮮な朝でした。


 というわけでお久しぶりです、杏菜です! 覚えていらっしゃいますでしょうか……と、さっきから誰に話しているのかは分かりませんが。お兄ちゃんの持っている小説のような語りを急にしたくなっちゃいまして。わたしもアニオタとやらの気質があるのではないか、と少し心配にはなりますが、何だかやりやすいのでこのまま続けていきたいと思います!


 わたしはベッドからの甘い誘惑を断ち切りそこから抜け出すと、大きく伸びをして目をこすりました。次第に視界が鮮明になっていきます。我ながらいつも通り、何がどこにあるのか一瞬で分かる、整理整頓された素晴らしい部屋です。お兄ちゃんにはこの良さが分かってもらえず悔しいので、ムキになってついでにお部屋の掃除をしてあげています。すぐ散らかしちゃうお兄ちゃんのだらしなさの前には、あまり効果はありませんがね。


 部屋着から制服に着替えたわたしは下のリビングに降ります。夏服なので着替えもあっという間なのです。風通しのいいカッターシャツでの学校生活は、この暑い夏には大助かりです!


「おはようございま……って、お父さんもお母さんもまだ寝てますよね」


 今日は日曜日。お母さんは仕事がお休みで、お父さんは午後からの出勤です。普段はとてつもなく忙しいお二人なので、休日は遅くまで寝ていることがほとんどです。


 わたしは部活動のため、こんなに早起きなのです。この夏からソフトテニス部の部長を任され、てんやわんやな中、生徒会長にも就任して大忙しです。中学二年生のわたしがこんなに苦労しているのに、三つ上のお兄ちゃんは毎日自堕落に時間を潰して……羨ましい以前に情けないです。まあ、お兄ちゃんはお兄ちゃんでいいところもたくさんあるのですが……。


 棚から食パンと、冷蔵庫からイチゴジャムを取り出して椅子に座り、テレビをつけます。これぞ学生みたいな朝食ですね。でもお兄ちゃんがいないから、いつもみたいにわたしが朝ごはんを作ってあげる手間も省けるので、今日はゆっくりテレビでも見ながら優雅にご飯が食べられそうですっ! お兄ちゃんは偏食家なので、いっつもご飯のメニューとか考えるの大変なんです……。まぁ、放っておいたらコンビニのパンとかおにぎりばかりになっちゃう恐れがあるので、結局わたしが好きでやってるんですけどね。


「占い、占いっと……おひつじ座は何位ですかね?」


 テレビのリモコンをいじり、チャンネルをニュース番組に合わせます。丁度いい時間帯です。実はわたし、占いが大好きなんです。見るのもやるのも! 当たるも八卦、当たらぬも八卦なんて、一見いい加減に思えますが、良い結果が出たら何にもない日常も楽しく思えちゃいますよね!

 悪かったら悪かったで、少しでも良いことがあると普段よりもずっと幸せな気持ちになれる……まさに占いって、人に幸せを与えるものだと思うんです! ここにお兄ちゃんがいたら「良い結果で良いこと起こらなかったり悪い結果でメチャクチャ悪いこと起こったりすることもあるけどな」とか、ネガティブ全開の論破が飛び出すに違いないですがね。


《2位はおうし座のあなた! 喧嘩している友達がいたら勇気を持って謝りましょう!仲直りできるかも!ラッキーアイテムはハンカチです! 3位は……》


 テレビに映った美人の人気アナウンサーさん。ニコニコ顔で2~11位の正座を発表していきます。ですがそれらの中にわたしの正座、おひつじ座はありませんでした。残ったおひつじ座としし座が睨み合っています。ちなみに、しし座はお兄ちゃんの正座です。現実で考えたら羊が獅子に勝てるはずないんですがね。そこはそれ、


《さあ、今日の一位は……おひつじ座のあなた!》


「よしっ!」


 バッチリ勝っちゃうんです。ついガッツポーズしちゃいました。部活の癖って恐いですね。


《おひつじ座のあなたは、今日は運命的な出会いがあるかも! いつもより何か1つ、おしゃれをしていきましょう! 困った時には神頼み!》


 ふむふむ、運命的な出会いにおしゃれ、それに神頼み……ですか。そういえばこの前、新しいシュシュを買ったんですが……今日つけてみましょう! もしかしたらわたしの恋も叶うかも……なんてね!


《ラッキーアイテムは……“石”です!》


 石!? こ、これまた地味なラッキーアイテムですね。石がラッキーなんて疑わしいですが……。


《ごめんなさ~い、最下位はしし座のあなた! 信頼していた相手に裏切られる日! 南京錠が偶然開いたりしても物置部屋に入ったらダメ! 手痛いしっぺ返しを食らうかも! 本が好きな人の助言を素直に聞いたら運勢が回復します! ラッキーアイテムは米粒です!》


 何ですか、このすっとんきょうな番組は。ラッキーアイテムがおにぎりとかは聞いたことありますが、米粒なんて初めてですよ。


 そう言えば、アイリさんの世界とわたしが今いる世界って、時差とかあるんでしょうか? お兄ちゃんは昨日の夕方くらいに出発したから……もしも向こうに着いた時に太陽が燦々の昼間だったら、4~5時間くらいの時差があることになりますね。もしそうなら今頃お兄ちゃんの世界でも日が変わってるから、この占いは適用されることになりますよね! でもまあ、そんなことあるわけないですよね。お兄ちゃんに限ってナンバーも知らない南京錠を開けるなんて不可能かつ面倒なこと、するはずないですし。


「よしっ! そろそろ行きますかね!」


 わたしはその後、しっかり新品のシュシュをつけ、ラケットとユニフォームを持って家を出ました。


※スピンオフではないです

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