第三十四睡 見つけてしまった
扉がギイと開く。一寸先は闇。ツンとしたホコリの匂いが暗闇から俺の鼻腔にジャブを入れてくる。卑怯者め。仕方なく携帯を取り出し、ライトを頼りにして進んでいく。結構奥行きのある部屋にも関わらず、部屋の最初の方には何もなかった。
「なんだよ、空っぽじゃねえか」
期待していたほどの物がなく、俺は肩を落とした。そういやあいつ「ここでは良い子ちゃんキャラで振る舞わなくちゃ」とか抜かしてたな。もしや、ここを秘密基地にしてグースカ寝てやがるのか? いや、それなら自分の部屋を暗くしときゃ充分だよな。部屋にも鍵はあるんだし。何よりこんなホコリっぽい部屋で寝たくないだろう。
一応、ホントに一応だが、奥まで一通り調べてみる。ここまで物寂しい部屋があってたまるか。南京錠までかけてるんだ。何かとんでもない物が隠されているに違いあるめえよ。
「ん………?」
この部屋に入って十数歩、ようやくはっきり“物”だと分かる何かが姿を現してくれた。よかった、とりあえず無駄足にならずには済んだみたいだ。俺は何やら大きめなそれにライトを照らし合わせた。
「何だこりゃ……ショーケース? 何だってこんな物がここに……」
そこにあったのは、三個並んで部屋の横幅にピッタリとはまっている、大きなガラス張りのショーケースだった。その先は壁だった。どうやら俺は部屋の一番奥まで来たらしい。
俺の世界でも普通に使われているような、二段構えの黒い台のショーケース。指輪やブランドものの時計を入れるときによく見るようなやつだ。それがどうして、こんな世界のこんな部屋のこんな奥の方に……? そして一体、中には何が入っているのか。ここまで来たら確かめずにはいられない。俺は珍しく好奇心を働かせ、三つのうち一番右にあるショーケースにライトを当てる……。
「何だこれ、気持ち悪ぃ……」
そこには、非常に小さな皿のようなものが入っていた。ショーケース一台の中に、夥しい数の黒い皿が、不気味なほどに綺麗に並べられていた。二段目、そして二台目と、三台目の途中までも、全く同じような状態だった。一台あたり五百枚はあるだろう。それもだいぶ不気味だったが、問題はその上に乗っているものだった。
白い粉状のものだった。黒い入れ物の上だからよく分かる。そして皿の一枚一枚に、札のようなものが置かれていた。そこには丁寧な字で何かが書かれていた。俺は目を凝らしてそれを見つめた。
「!! ちょ、これって……!」
心臓が元気よく跳ね上がった。インターネットでフラッシュホラー画像に引っ掛かったときのような、そんな感覚だった。
人の名前。それも、俺がよく知るような日本人のものもあれば、カタカナで表記されたものまで、様々だった。鳥肌が立ち、全身が一斉にぶるりと震える。
「おいおい、笑えねぇぞ……。もしかしなくても、この白い粉って……」
寒くないのに顎がガクガクと震えて、上手に喋れない。と思うと背中を妙に冷たい汗が流れ落ちて、途端に寒気が全身を支配した。声に出せない言葉を心の中で続ける。
人の灰だ。
この札に書かれている名前を持つ人間の灰が、小さな更に乗せられ、丁寧に並んでいるんだ。




