第三十睡 頭いい人とオタクはいったん話し始めると長い
「おっと、話が脱線してしまったね。つまるところ、私が君の世界を研究できている理由は、これらの無数の本にあるのだよ!」
ブッキーはオーバーに両手を広げて言った。
「どういうこった?」
「これから私がする話を信じるも信じないも君の自由だがね。ここにある本は、全て君の住む世界について書かれた物なんだ!」
「はぁ?」
本棚の列の間に俺は周りを見渡した。一冊一冊が分厚い本は、ザッと見ただけでも1000冊は越えている。その全てに俺の世界のことがビッシリと綴られているなんて、どうにも嘘臭い。
「早速疑っているところ悪いが、この話には続きがある。それは……これら全ての本を書いたのは、どうやら私みたいなんだよ」
俺は「何を言っているのかな君は?」といった、知性ゼロの生徒のバカ丸出しの奇行を見守る校長先生のような哀れみと温かさを込めた視線でブッキーを見た。
「今の言い方でお分かりの通り、私には全く記憶がない。だが、筆跡は間違いなく私のそれだ。不可解だとは思わないかい?」
「やれやれ、ボケが始まるような御年で、よく俺に“そう年齢も離れてない”とか言えたもんだな」
どうせ自分で熱中しまくってて書いた事すら覚えてないとか、そういうクソしょうもないオチに決まってる。
「やはり信じてはもらえない、か。まぁ無理もない。最初に信じるも信じないも勝手だと言っておいたからね。だが、私の考えは変わらないよ。この本には何か重大な秘密が隠されている、そう感じてならないんだ」
「そうかい。まぁ人の思考にあーだこーだと口出しすんのも野暮ってもんだしな。がんばれ」
なんとか上手い具合に話をまとめて切り上げを図る。ついていけまへんわ。




