第二睡 お母さんだって忙しい中で起こしてくれてるんだからねっ
晴れた日の夜は妙に涼しいものだ。夏にもかかわらず、冷たく吹き付ける夜風に目をこじ開けられた俺は、どっこらせと起き上がって辺りを見渡す。
「夢なわけない……よな」
今までのことは全て夢であった。その可能性も一時は考えていた。しかし、今自分が置かれている状況によりそれは完全に否定された。今も言った通りガラスは割れたままで、俺はベッドでなく床の上、部屋のド真ん中に、今の今までまるでサスペンスドラマの死体のように無造作に寝転んでいたはずだ。代わりにベッドで持ち主になんの遠慮もなく寝ていやがるのは、突如降ってきた謎のセーラー服女。
部屋の掛け時計を見ると、時刻は夜の10時。あれから5時間くらい寝ていた計算だ。全てが5時間前から何も変わっておらず、時間だけが俺に何も教えてくれないまま、足早に過ぎ去ったのである。
俺は今度こそ何らかの情報を得ようと、再度グースカ寝ている白髪女に近付き、肩の辺りを揺さぶった。
「おい。もうそろそろ起きて話をしてほしいんだけど。おい、起きろって」
「う……うーん……あと15時間だけぇ……ですぅ」
少女は目を開けずに答え、コロンと寝返りをうって俺に背を向ける。俺は思わず言葉を失った。この娘、只者じゃない。
母ちゃんに起こされた際の学生たちの必殺技「ATO GO FUN DAKE(アトー ゴー ファン デイク)」を軽々と凌駕してきやがった。15時間は分換算して900分。つまりこの女は単純計算でも一般人の180倍は怠け者だということだ。やはりレベルが違うな。恐ろしい子っ。
「負けてらんねぇよな、うん。よっしゃ、俺もあと15時間寝るとしよう。話はそれからだ」
少女は俺がそう言っている間にもすやすやと眠りについてしまった。俺はその寝顔をマジマジと覗き込む。フヒッ、へ、へ、変質者じゃないよブヒヒッ。……すいません冗談です。
「こうして見ると本当に人間にしか見えないけどな……」
少女は口元から僅かによだれを垂らしており、布団を少しだけ投げ出していた。この一瞬でよくもまぁこんな眠りの完成形にたどり着けたもんだね。育ちの良さそうなナリして寝相はあまりよくないらしい。
俺は袖で彼女のよだれをぬぐってやる。やっちまった。変質者ネタの後でこんなことしたら、もうそうにしか見えない。違うけどね。ついでに布団もかけ直してやる。受験生のママンか俺は。
とりあえずは彼女の要望を聞いてやろうと思う。眠いときに人から一方的に話をされる時の苛立ちは、同じネムリストとしては痛いほど理解できる。つか俺もまだまだ寝足りないし。俺は今度は窓から離れて部屋の隅っこで寝ることにした。風邪は引きにくい体質だから大丈夫だろう。
俺は無気力さでは誰にも負けるわけにはいかない。そんなゴミみたいなプライドが俺を二度寝へと誘った。
目的忘れてね?それに気付いたのは、次の日の昼間、妹に起こされてからのことだった。