第二十五睡 飛行機で外国人CAさんに英語で話し掛けられるととりあえず「イエス」って言っちゃう悲しい習性
まるで一人の人間の明の部分と暗の部分がパックリ二つに別れてしまったようだった。黄色い髪の、狩人のような動きやすそうな格好をした双子がずんずんと歩いてくる。
片方はオブラートに包んで言うならバカ丸出し。頭から三本のアホ毛をぴょーんぴょーんぴょーーんと苗のように生やしており、髪は肩につかないくらいの短髪で、活発なイメージを与える。
爛々と輝く汚れなき水色の瞳は、苦労や悩みとは無縁そうな彼女の人物像をそのまま表していた。常にだらしない笑みを浮かべており、そのつどチラリと覗く犬歯が彼女の無邪気さをいっそう際立たせている。今時こういう純粋無垢な奴って少ないからか、こちらも少し穏やかな気持ちになっ……たのも束の間、彼女の背中に担がれたものを見て俺は背筋が凍った。
血まみれのオノだった。そういえば魔物退治って言ってたっけ。サイクロプスさんの持っていたような大きい物じゃないとはいえ、彼女がそれを持っているということが俺の恐怖を掻き立てた。こういうのは見かけからして狂暴で邪悪そうな奴よりも、こういう天然おバカちゃんキャラクターが持ってた方が怖いものだ。絶対怒らせたら駄目なんだよ。だよ。
そんでもう片方。どう見てもヤンキーです、本当にありがとうございました。髪の毛は全体がボサボサとしている威圧的な型で、前髪は左目をしっかりと覆い隠している。残ったのは、子犬くらいなら見ただけで殺せそうな鋭く冷徹な真っ赤な右目。それだけでもうアイアムヤンキーと張り紙するより分かりやすい容姿が完全に出来上がってしまっている。服もところどころ破けてるし。
そんな彼女が背中に担いでいるのは、なんとビックリ弓矢だった。というのも、見た感じ遠距離攻撃ってタイプじゃなさそうだし。それこそオノとかブンブン振り回して無双とかしそう。
とまあこんな感じで、俺と杏菜みたいなもんだな。二人の顔やら性格やらが違いすぎて本当に兄弟姉妹か皆に疑われるタイプだ。まあ、こっちは身長とか髪色とかがそっくりな分、まだ信憑性はあるけどな。
二人の身長は150cmくらいだろうか。俺と歳が近いとは思えないけれど……。
と、ここで明るい方がアホ毛を弾ませながら俺の元へ近付いてきた。そして真っ直ぐな瞳で俺を見上げてくる。やめろ、眩しい。俺の死んだ魚のような目でそのような光輝くダイヤモンドを直視するのは危険だ。
「はっじめましてーー!! あなたがアイリお嬢様に選ばれた方ですねっ! ミーナはミーナ=クトゥルフって言います! 双子の姉で、花も恥じらう16歳です! よろしくお願いします!! いえええええい!! ドンドンドンパフパフパフ!!!」
おおっ、やっぱ要所要所バカっぽいけど、意外にしっかり者だな。てか一個下かい。小学生って言われても信じる準備してたのに。
「ほら“ヒーナ=クトゥルフです。双子の妹です。愛想は悪いですが実は小動物とか可愛いものが大好きです。よろしくお願いします”ちゃんも自己紹介して!」
「今ので言うことなくなったわ。お前マジでいい加減にしとけよ。あと勝手に人の好みバラしてんじゃねぇよ。引きちぎるぞ」
もう一人の目付きの悪い方も、かったるそうに歩いてきた。そして姉のミーナの隣に並ぶと、俺に例の絶対零度の視線をプレゼントしてくる。
「おいゴミーナ。この死んだ魚みてぇな目したチキン野郎、さっきからお前のオノ見てビクビクしてんぞ。しまってやれよ」
急に俺に飛び火が。チキンに飛び火はやめろ。美味しくなっちゃうだろ。あと魚なのか肉なのかはっきりしてくれ。いやどっちでもねぇんけどさ。てか何でフィッシュかミートしか選択肢がないんだ。機内食か俺は。
俺も自己紹介しようと思ったが、聞かれてもないし、またの機会にすることにした。一日に何度も笑われても平気なほど強靭なハートは持っちゃいないのである。




