第二十二睡 ええとこ取られ系主人公
ゴツゴツした地面を走る。素足の痛みなど、この時は微塵も気にならなかった。
「冗談キツいって。完全に真っ二つにした感触あったんだぞ……持ってないから分かんないけど」
「ゆ、ゆる、許さなイ!! 許さなイ!! オマエは、オマエ、オマエたち、だけは!! ぜ、ぜぜぜ、絶対ニ!! 絶対ニ絶対ニ絶対ニ絶対ニ!! 殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺殺殺殺殺殺殺殺殺!!!」
怖い怖い怖い怖い。狂うな狂うな。
ドシンドシンと迫り来る足音。機動力はないものの、一歩分の大きさは完全に向こうが上回っている。逃げても逃げても逃げ切れない。足音が真後ろにまで迫る。ここまでか……。
「サンダーストーム」
「うがあああああ!! うがっ、うぎゃっ、ぎゃああああああああああ!!!」
耳元で凛とした声が聞こえた。そして凄まじい爆発音と野太い悲鳴が混ざり合い、鼓膜が破れそうになるくらいのとんでもない轟音が後方で鳴り響いた。俺は急ブレーキをかけて立ち止まると、息を切らしながら後ろを向いた。
そこにあったのは黒い灰の塊のようなものだけだった。数秒前までそこに四、五メートル級の巨人がいたとは、到底思えなかった。
「タラ子……?」
「ふう……本当はお城に着くまで大人しく運ばれているつもりだったんですがね。いやはや、詰めが甘いというかなんというか」
「あんた、何で……?」
俺は慌ててタラ子を降ろした。そしてタラ子の両肩を掴んで問い質す。
「いい反応です。あたしはこの戦いの最中、いくつもの“虚言”や“演技”を行いました。まさかここまで上手くいくとは思いませんでしたがね」
言葉が出なかった。なぜタラ子が流暢に話せているのか、さっぱり分からなかった。
「あ、あんた、サイクロプスさんの一撃で重傷を負ったはずじゃ……今だってそんなに血をダラダラと……」
タラ子は無表情だったが、頭からは依然として赤黒い液体が流れていた。その姿が不気味で、声が震えて上手く話せない。そんな俺の様子を見たタラ子は、少し得意気に自分の髪の毛をサラリと撫でて言った。
「ではこれから説明いたしましょう。この戦闘の中に散りばめられたいくつもの“仕掛け”と、あたしの“目的”をね」




