第十九睡 惰剣レイジネス
「どうしてここに?」
俺はサイクロプスさんに冷徹な視線を送り続けているマリアさんに尋ねる。マリアさんは俺を見るとクスリと笑って、
「アイリのお願いですわ。“山菜採りさんたちを捜しに行きます。あたしが出てしばらくしたら、レイジネスを持って山に来てください”と。
アイリの治療とそちらの女性の保護は私が。十諸さんはこの剣であのサイクロプスを倒してくださいませ!」
こいつ、そんな事を頼んでいたのか。マリアさんはカツカツとこちらに歩いて来て、差していた剣を俺の手にガシャンと置いた。重みで少し体が沈む。てか山道にハイヒールはキツいだろ。裸足の俺が言えねぇけど。
「え、俺が戦うんすか?ちょ、前回のサブタイトル見てくださいよ。どう考えてもマリアさんが倒す感じじゃないっすか。希望なんだから。それに、そんな立派な剣まで持ってきておいて……って、それがレイジネスっすか?」
「ええ、これが伝説の剣、惰剣レイジネスですわ! 王も申しておりました通り、レイジネスを使うのに最も適した人物は十諸さん、貴方ですわ。貴方が使ってこそ真の効果が発揮されるのですわ! ちなみに私だけでなく、誰もその剣の効果を知る者はいませんが大丈夫ですわ!」
「最後の一言がなければ本当に大丈夫だったんすけどね。もしもクソしょうもない能力だったらどうするんすか?」
「では、頼みましたわよ!」
わー無視だー。マリアさんはタラ子を抱きかかえている女性の元へそそくさと駆けていった。
「ぬ、ぬおおおお!! い、いつ、いつまでまでグダグダやってるんダ!! 悠長にもほ、ほどがあるだロ!!」
「悠長なのはどっちだよ。俺たちがグダグダやってる間に殺しときゃ良かったのにな。年貢の納め時だよ一つ目野郎。今度はてめえが細切れになる番ダ」
あ、語尾が伝染った。俺は出来るだけ格好いい言葉を並べておく。よし、これで勝利フラグが立ったはずだ。俺は両手に置かれた刀に注目した。
藍色の鞘に深緑色の柄、長さは……1メートルくらいか。名前に反して精巧な作りらしく、この俺が軽くふらつくぐらいの重さ。剣道とかやったことねぇぞ……どうすりゃ良いんだ?
「うおおおおおおおォォォォォォ!!!」
サイクロプスさんが凄まじい雄叫びをあげながらこちらに走ってくる。手にはさっきタラ子に蹴られた時に手放したはずのオノが握られていた。時間を与えすぎたか。
「くそっ、こうなりゃ一か八かだ……!」
俺は鞘から刀身を引き抜いた。キラリと輝く白刃が現れた。俺はゴクリと生唾を飲み込み、刀を構える。真剣なんて初めてだぞ、おい。マンガで見た剣道選手の見よう見まねだけど、どうだ?伝説の剣らしく、刀から光がぺカーーっと……
「…………あれ? 何も起こらない?」
しばらく待ってみたが、刀はピクリとも能力を発揮する気配がない。
「死ねェ!!!」
目の前にはオノを振り上げたサイクロプスさん。咄嗟のことで体がついていかない。嘘ぉ、結局死んじゃうのぉ?俺はギュッと目を瞑った。なんかデジャブなんだけど。
【死にたくない……死にたくない……!】
激しい金属音。ビックリして反射的に目が開く。手に持っていたはずの刀は、俺の手元を離れ、俺とサイクロプスさんの間で、そのオノをしっかりと受け止めていた。
「か、刀が……浮いてる……?」




