第十八睡 希望、見参
絶望───
その言葉が頭に浮かんだ。
「あ……ああああ……」
女性は先程の場所から全く動くことができず、俺たちを見て涙を流している。先ほどのように叫ぶ様子もなく、全てを諦めたかのような表情で、ポロポロと。俺も同じだった。自分の腕の中でぐったりとしているタラ子を見ていると、涙がこぼれそうになった。今の俺に何ができる? 戦う力も、知恵も、意欲もない。そんな俺にもできることなんて……。
「逃げろ」
「え……?」
1つしかない、よな。俺は女性に一言告げた。女性は驚いたように目を見開いた。
「早く逃げろ!!」
喉がはち切れそうな声で叫んだ。
「うへへ、うへへへ、逃がさなイ、逃が、逃がさなイ! 白髪、死んダ! つ、次は、オマエたちの番ダ!! うへへ、うへへへ!」
ひたりひたりと近寄ってくる巨人。勝利を確信した表情だ。俺は女性のところまでタラ子を運ぶと、
「こいつ連れて逃げろ。あのデカブツは俺が引き止める。山を降りて強そうな奴、たんまり呼んできてくれ」
「で、でも……」
女性の視線は俺の足。彼女が何を言いたいのか、俺には分かった。くそっ、こういうときぐらいブルブル振動してねぇでカッコつけてみろよ、この駄目足が。
「なあに、し、心配いらねえよ。これは武者震いだ。それに、俺はただ山を降りんのが面倒くさいからここに残るだけだ。あんたが逃げられるぐらいの時間稼ぎはしてみせるさ。ある程度の時間が経ったら俺も逃げる。だから……だから、囮は俺に任せ」
「その必要はありませんわ」
凛とした声が響き渡った。聞き覚えのある上品な声。言葉を遮られた俺は、声のする方を向いた。
「私の大事なお客様と国民、そして娘を襲うなんて、いい度胸ですわね? これ以上、貴方の好きにはさせませんわ!」
「マリアさん……」
そこには先ほどまで城にいたはずのマリアさんが、刀のような物を差して立っていた。




