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BON~粒ぞろいたちの無気力あどべんちゃあ~  作者: 箒星 影
二度寝 勇者誕生計画
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第十五睡 売り物にはなりそうにない

 とまあなんだかんだあって、俺たちは薄暗い山を登っている。最初にここに来た時の山とは雰囲気が全然違う。まるで俺に青空を見せないように徒党を組んだかのごとく、俺の頭上をびっしりと塞ぐ木々のせいで、光もロクに浴びられない。ジメジメに体力を蝕まれながら、葉の上を進んでいく。


「な、なあ……そろそろ話してくれよ。あんたがこんな所まで来て確認したいことってのは……一体なんなんだ?」


 俺はここに来てからほぼずっと、タラ子の背中を見続けている。それは華奢ながら、どこを歩くにしてもいつも堂々としており、頼もしかった。そんなタラ子は歩みを止め、振り返って答えた。


「……最近、この山に山菜を採りに来た人たちが帰ってこないという声を聞いています。あたしの考えすぎだとは思いますが、この山に入っていくのを見たという情報もあることですし、一応確認だけでも、と思いましてね」


「考えすぎって、一体なにを……うおっ」


 俺は何かに(つまず)き、危うく転びそうになる。それをタラ子がフワッと受け止めてくれた。俺はタラ子の胸あたりに顔をうずめる形になった。優しい香りと温もり、そしてプルンとした柔らかさが、ほんの少しの間、俺の嗅覚と触覚を支配した。


 ヤバい、見かけに反して結構デカいぞ。これが隠れ巨乳と言うやつなのか。セーラー服の上からではハッキリとは分からない。ていうか何でセーラー服なんだ。くそっ、こういう無表情キャラは普通に考えて貧乳だろ。そんで主人公に「乳なし」ってバカにされて、恥ずかしさに少し顔を赤らめる。そこまでが王道スタイルだろ。それこそがみんな大好きギャップ萌えだろ。「いや気にしとんのかーい! 可愛いなおーい!」ってツッコミが入って皆が惚れる所だろ。なのにこれはお前、反則だろ。こんなにデカイのはレッドカードだ。「くそっ、」から何言ってんだ俺。


「あ……悪い……その……」


 顔がみるみる熱くなっていくのが分かる。俺は理性を振り絞ってなんとかそこから離れ、謝罪の言葉を述べた。おそるおそるタラ子の顔を見る。


「大丈夫です。それより何に躓いたんですか? ここら辺にはそんなに大きい木の幹なんて落ちてないはずですが」


 その表情には微塵も変化はなかった。うーむ……なんか複雑な気分だ。こやつの表情筋は生きているのか? 俺の名前を聞く時以外は活動休止しているのでは?


「何にって、なんかブヨッとした気持ち悪いものだったんだけ────っ!!」


 タラ子の質問に答えながら、俺はゆっくりと下を見る。そして戦慄した。


「う、腕だ……人の、人の腕がっ……」


 俺はそれから逃げるように目を逸らし、前を向いた。



 そこは、地獄だった。



 まるでゴミのようにそこら中に無造作に散りばめられている、細い腕や足。片目を見開き横たわる、半分だけの、中には全体の2割ほどしかないものもある、ゴロンと転がった6つの生首。体はパズルのピースのようにバラバラになっており、どこがどの部分だか理解するには原型を失いすぎていた。俺が蹴躓き、瞬時にそれだと分かった腕すらも、まだマシに思えるくらいに。そしてそれらの全てが血の海にベッタリと浸かっており、腐り果てていたが、間違いなく俺と同じ人間のものである、という動かしがたい事実が、俺の恐怖をより増幅させた。その傍にあるのは、カゴの中から飛び出している、同じく血塗られた山菜たちだった。


「お、おい、ふざけるな、よ、これ、もしかし、て、これって、さ、さっき、言ってた、山菜採りの、人たち、なのか、よ?」


 舌がうまく回らない。吐き気、胸焼け、頭痛が一気に襲う。俺はヘナヘナとその場に座り込んだ。なんだよ、今の今まで完全にほのぼの展開だったじゃん。何でこんなに、いきなりグロテスクなことになって……。


「認めたくありませんが、間違いないですね。頭の数を見る限り、行方不明と言われていた山菜採りの女性6人と考えて間違いなさそうです。部位のところどころに歯形のような食いちぎられた(あと)が見られます。このことから推測するに……」


「お、おい、なんでそんなに冷静でいられるんだよ? あれを見て、なんとも思わねぇのか……!?」


 俺はタラ子の異常なまでに淡々とした口調に不気味さをおぼえ、少し強めに問い質した。


「そりゃ思いますよ。だからこそです」


「え……?」


 呆気にとられる俺に向き直り、タラ子は堂々とした様子で言った。


「ビビってる暇なんかないんですよ。罪なき国民たちを襲った者を、あたしは絶対に許しません。必ず仇を討ちます。それがレシミラ王国の王女たる、あたしの役目ですから」


「タラ子……」


 タラ子の言葉に支えられるかのように、俺は立ち上がった。その時だった。



「きゃあああああああああ!!!!」



 若い女性の悲鳴。それもすぐ近くから。タラ子は何も言わずに走り出した。俺も懸命に後を追いかけた。


ったく、今度は何だってんだよ……?





いやあ、第十五睡にしてようやく15禁らしくなってきましたが、狙ったわけではありませんよ。

次回は今作初の戦闘シーンです!

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