第十四睡 れっつらごー山登り
誰も追ってくる気配がない。
そりゃそうだ、あれだけはっきり言ってやったんだから、さすがに諦めもつくだろうよ。
「さて、さっきの野原にでも行って、一眠りするかな」
俺はタラ子の後ろについて歩いた時の記憶を頼りに城の出口を探す……が。
「完全に迷ったな、こりゃ」
同じような風景の連続の前では、俺の記憶は全く役に立たなかった。完全に脱出ルートを見失ってしまった。右も左も、前も後ろも分からない。
「あてずっぽうに進むしかないよな。こっちか?」
俺は突き当たりを右に曲がる。すると……。
「おや、この先は物置部屋ですよ。あたしと二人で閉じ込められるイベントでも起こそうってんですか?まぁ扉には南京錠があって、そのナンバーはあたししか知らないんで、開けるのは無理ですがね」
その先にはタラ子が壁にもたれかかって待っていた。俺の方が先に部屋から出たはずなのに、簡単に先回りされてしまった。何で物置部屋に南京錠?物置けないじゃん。
「いんや、それも悪くないがね。出口を探していたんだが……あんたに見つかっちまったらゲームオーバーだな。ユウカク王とマリアさんの所まで俺を連れ戻しにきたんだろ、王女様?」
「いんや、それも悪くありませんがね。その前に、あたしと一緒に来てほしいところがあるんです」
俺は呆気にとられた。タラ子のことだから、一も二もなく俺を王室まで引きずり戻すかと思ったのに。
「来てほしいところ? 俺に? それはなに、勇者云々と関係があるの?」
「……まあ、あたしについて来れば分かりますよ。それとも、このままこの広い城の中をひたすらにさ迷って、体力を削り続けますか?」
俺は少し考える。
「……分かったよ、何か分からんが、これ以上ウロチョロすんのも何だし、そっちを手短に済ませた方が良さそうだ。連れてってくれ」
「承知しました、ではまずは城を出ましょうか」
タラ子はマイペースに歩き始めた。俺は眠い目をこすって後につき従う。
「なぁ……あんたの両親、ユウカク王とマリアさんは、あんたと同じ天使なのか?」
歩き始めてしばらく立った時、空気が気まずさで飽和状態になったように感じられた俺は、タラ子の背中に問い掛ける。
「……いえ、ただの人間です。ただ、二人とも高度な魔法を使えるので、この言い方は語弊があるかもですが。とりあえず天使でないことは確かです」
タラ子もまた、こちらを少しも見ずに答える。
「へえ、そりゃ予想外だ。天使ってのは遺伝じゃないんだな」
「……そう、ですね」
会話はそこで終わった。気まずさに逆戻りするのを恐れたちょうどその時、俺たちは城から出ることができた。
太陽の位置は入る前とさほど変わっていない。どのくらいここにいたのだろうか。時計がないから分からない。周りを見渡すも、それらしきものは見当たらない。まだ普及してないのか?
城門を抜けると、またしてもそこかしこに人の波が広がっていた。流されてしまわないよう、必死にタラ子に続く。
「では、このまま王都を抜けて山に行きましょう」
顔がひきつったのが自分でも分かった。両足がズンと重くなる。
「なんだ?芝刈りでもさせる気か?」
「いえいえ、それならあなたを連れていくなんてトチ狂ったことはしませんよ。ただちょっと確認したいことがあるだけです」
「一人で行けって。俺が行く意味が皆無じゃん。一体何を企んでる?」
「企むだなんて人聞きが悪いですね。大丈夫です、すぐ終わりますって。文句言わずに行きましょ、ね?」
ぜっっったいロクなことじゃない。この局面でいきなり山に行こうだなんて、充分トチ狂ってるよ、ちきしょうめ。




