表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
129/130

第百二十八睡 病んだ子

 しかしすごいな。


 もう日付が変わるか変わらないかって時間なのに、人通りが全く減らない。


 日本でも、都会の町はこんな感じなのかな?



「さて、じゃあ考え事の続きを……ん?」


 虫の知らせとは、このようなものを言うのだろうか?


 何かの予感がした。それが良いものなのか、はたまた悪いものなのか分からないぐらい一瞬だけ、体を突き抜けたなんらかの予感が。


「行ってみるか?でも……」


 今は俺一人。レイジネスがあるとはいえ不安はつきまとう。


 コイツ最近あんまり役に立ってないしな。


 ただ、このまま戻ってもきっと気になって眠れないと思い、俺は直感で歩き始めた。



 人気のない森の近くにやって来た。


 「さすがに夜にこんな所を通るやつなんていないわな……ん?」


 何かが聞こえた。


 魔物だろうか?


 それとも風の音?


 再び聞こえた。今度ははっきりと、女の子の声が。叫び声なとではなく、誰かと何かを話しているような、静かな声。


 こんな時間に誰だ?


 こうなればもう、手ぶらでは帰れない。


 歩けば歩くほど声が近付いてくる。


 もう周りは木だらけだ。これで何もなかったらマジでムダなんだけど。


 そんな心配をしていた俺の前に、四つの“影”が見えた。



 そのうちの三つは……魔物のものだった。犬の形をした凶悪そうな顔の……ケルベロスか?三匹は何かを囲うような配置をとっており、それを見て低く唸っている。


 てことは、あと一つの影って……。



「ふっふっふ……どうした愚かなる魔の遣いどもよ……我の圧倒的なまでの威圧に恐れをなし、近付くことすら出来ぬか!ふはははは!この“深緋(こきあけ)の魔女”チコ=アルバータに敵うと思うてか!!」


「グルルルルルルルルル!!ワン!!ワン!!」


「ひっ……ご、ごめんね?謝るからちょびっと落ち着いて?ね?えと、その……はっ!!ふふふふ……今のは我が十の人格の一人“シリア”だ。優しさだけが取り柄の下らぬ人間よ。さて話を戻そう。貴様らはこれより悪魔の生贄と」


「アオオオオオオオオオオオオオン!!」


「ひぎいいいいいいいっ!?え、な、何そのロングボイス?仲間呼んだ?ねぇ仲間呼んだの!?答えてワンちゃん!怒らないから!いやああああ!!死にたくないよぉぉぉ!!誰か助けてぇぇぇぇ!!」


 さ、帰ろ。


 なんか変な服装と性格した女の子が木につかまって泣きわめいてる気がしたが、きっと木の実か何かだろう。ケルベロスは美味しそうな木の実を仲間を呼んで皆で食べようとしているんだ。楽しそうだね。


 邪魔しちゃいけないな。魔物とて腹は減る。お食事はゆっくりさせてあげよう。


「ってワケにもいかねぇんだよな、ったく……」



【ケルベロスたちを切り捨てろ】



 数歩歩いた後で振り返ってレイジネスを抜く。暗闇からの奇襲にさすがのケルベロスでも反応しきれなかったのか、驚くほど呆気なく討伐に成功した。


 女の子はそれを見てヘナヘナと木から滑り落ち、ぽてんと床に尻餅をついた。


「ぁ………」


「だいじょーぶかー?とりあえず人が多いところに行くぞー?聞こえてるかー?」


「その、腰が抜けて……きゅう」


 女の子はそのまま気を失ってしまった。今どき“きゅう”って。


「仲間呼んでたよな、確か」


 ケルベロスの死骸を見る。いずれここに押し寄せてくるだろう。早く逃げた方がよさそうだ。


 仕方なくだらしない顔で寝ている女の子を背負い、近くに落ちてた変な形をした杖らしきものも拾って、俺は人のいる所までダッシュで戻った。


 ぜってぇ面倒くさい奴じゃん、コイツ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ