第百二十六睡 DNA遺伝だってたまには失敗する時くらいある
ピピーー!と甲高い笛の音。その場にいた全員がシンパンさんに注目する。
「オウ……ゼクス=フェヒターチーム、ゼンメツシタネ。ヨッテ、チームモロコシノ勝利ネ!」
「え、なにチームモロコシって。そんな名前で登録してたの?誰だよ俺の許可も取らずに」
予想外のチーム名に、俺はチームメイト全員を見渡す。
「だらっしゃあああああああ!!!見たかクソガキども!!見たかぁ!!アンタみたいな下卑たハナクソたちがアタクシたちに勝とうなんて百年早いのよ!悔い改めなさいドブネズミ軍団!!」
「なんや拍子抜けやけど、とりあえずもう姫さんの怒号を浴びせられることはなさそうやな」
「……これを機に、またウサギっこさ飼ってみるかな。今度は死なせちまわねぇように」
「ふぅ、ふぅ……こんなに大人数で遊んだのは初めてですわ。疲れました……でも楽しかったです」
「ぷくくくく、チームモロコシ……我ながらいいネーミングセンスです……ぷくくくく……」
テメエかクソ天使。大本命だったけど。
まぁ、色々と突っ込み所がありすぎて諦めがつくレベルたから、ここは潔く諦めよう。
とりあえず、三人残しての勝利だ。圧勝と言ってもよかろう。
ケンとシュウとクトールは吹っ飛ばしたし、ゴルデは逃げたし、シターニャは未だに顔真っ青にしてビビってるし、まともに話せるのがセリカしかいない。
こいつ結構アブなそうだったのに、ほぼ解説キャラだったよな。ゴルデのこともそうだけど、どこの世界でも人は見かけによらんもんだね。
「おらそこの気色悪い女!アタクシのお父様とお母様を返しなさいよ!!」
「私たちがどうかしたのかね、フス。おや、今日はえらく賑やかじゃないか」
「まぁ、こんなに大勢で!楽しそうねフス!」
ズンドコズンドコとセリカに歩み寄るブス姫の名前を、二人の男女が呼んだ声が聞こえた。
「お……お父様!?お母様!?」
「はぁ?」
見ると、清潔感の溢れる服装に身を包んだ、人の良さそうな美男美女が、荷物をたくさん持って微笑みながらこちらに向かって歩いてきた。
「ブス姫のお父さんとお母さん?何で……あの二人からコレが産まれたんだ?バグか?」
「いや気持ちは分かるけど今は突っ込むところそこじゃないでしょ!!何よ“バグか”って!!何で二人とも……このクソガキどもに捕らえられていたはずじゃ……」
「捕らえられていた?何を言ってるんだね、フス。僕と妻はこの六人にお留守番を任せただけだよ。この子達はよくウチに遊びにきてくれるからね。僕たちは最近町が荒れていて売り物が少ないから、隣のレシミラ王国まで買い物に行っていたのだよ。まぁそこも結構な有り様だったが、ここよりかはマシだと思って戻ってきたのだが……帰ってきたら皆の争いがピタリと収まっていたからビックリしたよ」
「へ?」
ブス姫が目を点にしたところで、ボロボロのリーダーがやって来た。すげぇ、生きてた。
「きゃあっ!ケンくんズタボロじゃない!何があったの!?」
「え、いやだって……ちょ、ちょっとアンタ!これはどういうことよ!?」
「ふ……ふえええええ!モニカ先生ぇ~~!!アイツらにいじめられたよぉぉぉ!!」
ケンは大泣きしながらブス姫の母さんに抱きついた。いじめられたの次元じゃねぇ。
てか、ん?話が見えて来ないんだけど。
「えと……姫さんのお母さんって、学校の先生なんか?」
「ええ、お母様は確かにこんなぐらいの年齢のクソガキに勉強を教えているけど……」
「答えは簡単だよぉ。リーダー、あなたたちと遊びたかっただけなんだよねぇ」
セリカの一言で全てが分かった。
「つまりお前、先生とその旦那さんであるブス姫の両親に留守番を頼まれて、暇だったから俺たちと遊んでもらおうとして、せっかくだからスタイリッシュに勝負を申し込んでみたってワケ?申し出を断ったり負けたりしたらブス姫の両親を殺すなんて脅し文句で、断る選択を与えないように」
俺が喋れば喋るほど、ケンの体はギクッと跳ねる。分かりやすいこと。
「ま、まぁ、その通りだ!よくぞ見破ったな賊軍共め!!」
苦しいよ、もうそのキャラがすごい惨めだよ。なんかおかしいと思ったんだよな。こんなヘッポコ集団に大人二人が捕らえられたってのが。
演技は上手いけど嘘は下手くそ。うん、いい子達だねー。
やがてシュウやクトール、そしてゴルデも戻ってきて、お騒がせ者のゼクス=フェヒター(笑)が勢揃いした。
「半数が傷だらけってどういうこと!?ま、まあいいわ。ほら六人とも、遊んでくれてありがとうってお兄さんお姉さんにお礼言いなさい!あと、勝手に私たちの命を使って遊びに誘わないこと!」
「は……はい、ごめんなさい先生!チ……チームモロコシの諸君!」
チーム名で呼ぶな。
「今回は僕たちの敗けを認めてやろう!だが次は必ずや、我らゼクス=フェヒターが粛清してやる!だから……今日は僕たちと共に戦ってくれたこと、心より感謝する!」
他の子どもたちも口々に礼を言って頭を下げる。
何だよリーダー、女絡みのことに関してはクズだけど、しっかりしてんじゃん。先生の前だからか?
「まっ、小学生に負けてるようじゃ、世界なんて永遠に救えませんわな」
「黙れ役立たずのポンコツ勇者!僕は知っているぞ。君が一度もボールに触れていなかったことを!!」
ウソ?え……あ、ホントだ。やべぇ。
「お、俺は司令塔の役割なんだよ。いいから早く帰れガキ共」
ゼクス=フェヒターはシンパンさんと一緒に手を繋いで仲良く帰っていった。子どもらしいんだがらしくないんだか。
てかシンパンさんとは結局どういう関係なんだよ。モヤモヤするなぁもう。
「全く、ヤンチャな子達なんだから。それよりフス、ルシュアさん。この方たちは?」
「あぁ!勇者と、レシミラ王国の王女と、その仲間たちよ!」
「十諸っす。よろしくお願いします」
下の名前は言わずに挨拶。自然な流れだ。無事成功。
「レシミラ国王ユスティニアの娘、アイリ=クルディアーナと申します。こちらの勇者、十諸 輿ノ助と魔王討伐の旅の途中にごぜぇやす」
案の定、噴き出す二人。殺したろかなコイツ。やっとうるせぇのがいなくなったと思ったら。
「“その仲間たち”って、えらいゾンザイな扱いやな……えと、ポーラ=ポラリスいいます。娘さんとはいつも仲良うさしてもろてます」
「ザミア=マグレーヌです。えと……その……」
「……ああ、コイツはちいとばかし遠くの国から来たんで、人付き合いとか慣れてないかもですが、悪い奴じゃないんで」
口ごもったザミアのフォローも欠かさない。遠くの国からってのはある意味で間違ってはないしな。
「そうでしたか!勇者様ご一行とアイリ王女にお越しいただけるなんて光栄ですわ!」
「今晩、この人たちを泊めようと思ってるんだけど、いいかしら?」
「もちろんだとも。フスの父親、ダカル=ヴィクトリアと申します。こちらは妻のモニカです。さぁ、中にお入りください。何もない家ですが、ごゆるりとおくつろぎいただいて構いません」
タラ子の目が光を帯びた。やれやれ、コイツは本当に……。
まぁ、なんやかやあったが、このブスハウスで遠慮なくお世話になることにしよう。歓迎もされてることだし。
しかし親が美男美女だとかえってブス姫が可哀想になってきたな。後で川の水でも奢ってやろう。




