第百二十五睡 ゴルデエエェェェェェェェェェェェ!!!
「でへへ、ザミアさまぁ……焦らさないでくださいよぉぉぉ……早く、このボールを薄汚い僕に思いっきりぶつけて下さぁぁぁぁい!!」
見るも残念な顔つきでザミアにボールを手渡したリーダーのケン。
「何だこりゃ。不利な戦局に頭がおかしくなっちまったのか?」
「いえ、おそらく……クトールさんの隣にいたケンさんにも、微量ながらわたくしの魔法が……」
「いや微量のレベルじゃねぇだろ。クトールの何倍も犯罪者っぽいんだけど」
「リ……リーダー!目を覚まさぬか!!どうしたのだその呆けた様子は!」
久々に喋ったな。えっと、一人だけタッチが違う……ゴルデだっけ。ホントに同い年か?誰かの父親とか、師匠とかじゃねぇのか?
さすがに今まで冷静な態度を保っていたゴルデも、急なリーダーの豹変っぷりにはついていけないらしい。
「ど、どうすれば良いんですの……?」
ザミアが困ったように俺を見る。いや俺警察じゃねぇから、こういったA級の変態の取り扱いは心得てねぇんだが……。
「とりま、オーダーが入ったんだから出してやれ。向こうからの申し出だ。お前は悪くねぇ」
「は、はい……」
ザミアは困惑しながらもケンに近付き、差し出されたボールに手を伸ばした。
その時だった。
「きゃあああああっ!!」
ザミアの悲鳴が痛々しく耳を突き抜けたのは。
嫌な予感がして見てみると、ザミアは腹部をおさえてうずくまっていた。
「ふっ……ふははははははは!!引っ掛かったな賊軍共め!!全ては僕の演技だったのだよ!さすがにその魔物ほどの威力は出ないが、クトールがやられた分のお返しさ!この程度も見破れぬとは……愚か!」
何……だと……。
こんな年端もいかないガキが、ここにいる俺たち全員を騙すような演技を……。
「あはっ、セリカちゃんは気付いてたよぉ~!この際だから教えてあげるねぇ!リーダーはぁ……正真正銘のクズ野郎なんだよぉ。セリカちゃんもね、リーダーのそう言うところが気に入って、このチームに入ってあげたんだぁ!」
外野にいるメンへラ女のセリカが、嬉しそうに顔を上気させながら言った。
「ザミア、大丈夫か!?」
俺とポラポラは慌ててザミアに駆け寄った。顔を見ると、その瞳からはポロポロと涙がこぼれ落ちていた。
「ア、アンタなぁ!!いくら魔物とはいえ、コイツはシュウとかクトールとかいう奴とは違って、女の子やねんぞ!!」
「そうよそうよ!!女に手をかけるなんて最低だわ!!その根暗魔物もアタクシほどではないけど美少女なんだから!」
ポラポラとブス姫がケンに集中砲火を行う。今はブス姫に突っ込んでる場合じゃない。
「知ったことか!勝負なんてものは結局、勝てば何をしてもいいんだよ!反則や卑怯なんて存在しない!!手加減しなければならないような奴がゲームに参加すること自体、まったくの間違いだ!これだから女は嫌いなんだ!クズなブタどもは下がっていろ!くひははははははは!!」
「こんガキッ……!」
「お待ち……ください、ポラポラさん……」
怒りに顔を歪ませ、両手をボキボキと鳴らしながら前に出るポラポラを、ザミアが弱々しく制した。
「何だ魔物!君はもうアウトだ!ゴチャゴチャと悪あがきをせずに、無力なブス女は戦う価値もないんだからとっととそこから出ていけ!ひゃひゃひゃひゃひゃ!!」
コイツ一気にクズのパラメーター上げすぎだろ。
「いいえ……げほっ……わたくしは、まだ……アウトではありませんわ」
「何を言っている!ボールはあのように地面に落ちて……っ!?」
ケンが俺たちのコートの上にあるボールを見て驚愕する。
ボールは地面からやや浮いていた。ザミアがそれを拾い上げると、地面から受け皿のような形になったツタがわずかに生えていた。そしてそのツタはケンの足にもしっかりと絡みついている。
「ぐっ……動けない……!はっ……反則だ!魔力を行使するのは反則だ!!」
「うふふ………うふふふふふふふふふ」
ザミアが突然、不気味な声で笑い出した。コイツ、ダメージ受けたのに何で笑って……。
あ、まさか。
「何をおっしゃいますやら。“勝てば何をしてもいい。反則や卑怯なんて存在しない”と言ったのは貴方ではありませんの。それに、無力な女は戦う価値もないのであれば、力を持つ女ならばそれを存分に発揮しても良いということ。ケンさん、貴方に申し上げておくべきことが三つ、ございますわ」
ザミアは低い声で身動きのとれないケンを追い詰める。
「一つ。わたくしはゴバーネイダー。人間の子供ごときの攻撃で痛みを感じるほど、軟弱者ではありませんの」
「お、お前!!まさかお前も演技を……っ!?」
「二つ。実はわたくしもアイリさんたちと同じように、子どもが大嫌いなのです。もっとも貴方のように礼儀を弁えない劣悪な子どもに限りますが。そう言った子どもを見ると……先ほどのクトールさん以上の力を出してしまうかもしれませんわね」
「ひっ、ひいいっ!!た、たすけてくれ!!命だけは!!命だけはぁ!!」
「三つ」
ザミアかボールを高く高く振りかぶった。ゴルデが助けに駆け寄ろうとしたが、もう遅かった。
「女をナメるな、小童が」
ザミアの螺旋○が再び炸裂。しかも見た感じでさっきの三倍は強烈っぽい。
断末魔の叫びをあげることも許されなかったケンは、大空の彼方に吹っ飛ばされ、キラーンと一瞬だけ光りを放った。マンガか。
「おいおい、さすがに死んだんじゃねぇの?」
「調節はしました。大丈夫ですわ……たぶん。さて、これで残るは貴方一人です、ゴルデさん。貴方も今のような一撃、味わってみますか?ケンさんのようにツタで身動きを取れなくしてからがいいですか?それともクトールさんのように魅了魔法で幸せな気持ちになってからがいいですかぁ?うふふふふ……」
ゴルデを見据えて妖しく微笑むザミア。変なスイッチ入っちゃったかしら。
ゴルデはしばらくザミアを怖い顔で見つめ続けている。見れば見るほど極道のオッサンにしか……。
二メートル近い体格に凄まじいプレッシャー。こいつは苦戦しそうだ。命の覚悟もしとかねぇと。
だが、それは、突然訪れた。
鬼のごときゴルデの目に、ジワリと涙が滲んだ。
「う、うわあああああん!!あのおねえちゃんこわいよおおおおお!!」
ゴルデはおいおい泣きながらコートの外に出て、そのまま女の子走りで去っていった。
って冷静に解説してるけど。
え?
い、いったい何がどうなっとるんじゃ?
アイツは武骨で冷徹な大型キャラで。声も玄○さんみたいで。どっからどう見ても小学生じゃなくて、え?なのに。それなのに。え?どゆこと?
「あーあ……やっぱりバレちゃったかぁ。だからゴルデを入れるのは嫌だったんだよぉ。どうせみんな警戒して最後まで狙わないだろうなと思ったも~ん」
「セリカ……何が起こったんだ?アイツは……」
「あははっ、簡単なことだよぉ。あんなに近くでチームメイトが吹っ飛ばされたり強迫されたりしたら、そりゃ怖がるよぉ。だってゴルデ……まだ五歳なんだから」
「……………え?ちょ、え?その……え?えっと………え………?」
ゴ……ゴルデエエェェェェェェェェェェェ!!!
8ヵ月近くに渡るドッジボール篇、堂々完結。




